2019.07.31.Wed
イベントレポート
「人工知能は人を感動させられるのか?」
人工知能(AI)が進化すると社会はどう変わっていくのか? 生活が効率化されて便利になるのか? あるいは人間の仕事がなくなり、失業率増加を招くのか? そもそもAIとは何を指し、技術はどこまで進んでいるのか?――
Future Questions(FQ)は、文化放送が主催するプロジェクト「浜松町Innovation Culture Cafe」とコラボ。6月13日に開催されたイベント「人工知能は人を感動させられるのか?」で、共に未来を考えました。AIの第一人者らが交わした熱い議論をレポートします。
【イベント登壇者】
ゲスト(第一部):
・石山洸(株式会社エクサウィザーズ代表取締役社長)
・松田雄馬(人工知能研究者/合同会社アイキュベータ代表)
ゲスト(第二部):
・坪井一菜(マイクロソフトディベロップメント株式会社「りんな」開発担当者)
・宮内俊樹(Yahoo! JAPAN FQ編集長)
(第一部のゲスト2名も参加)
モデレーター:
・入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)
・深田昌則(Panasonic「Game Changer Catapult」代表)
・砂山圭大郎(文化放送アナウンサー)
<第一部>
人工知能は今、人の心に触れているか
AIの定義は「人によって違う」?
AIという言葉を耳にすることは多い。しかし、実際にAIとは何を指すのか? 石山さんは米スタンフォード大での議論を紹介し、「『コンピューター・テクノロジーズ・インスパイアード・バイ・ヒューマン(人間に触発されたコンピューター技術)』ならなんでもAIって言っていいよ、もう何でもいいよ、みたいに広く捉えた定義もあります」と話す。
一方、松田さんはこう述べた。
「最初にArtificial Intelligenceという言葉が出たのは1950年代。米ダートマス大学で、AIを定義しようってことになった。(しかし)人工知能は分からないことが多いというか、定義されていないし、人によって考え方が違うっていうことだと思います。僕や石山さんが何かを言うとしても、何かしら(反対意見を)言ってくる人がいる、みたいなところです」
どうやらAIの定義は、「人によって違う」という結論に至るらしい。
ディープラーニングとは?
AIが語られる際に必ず出てくる言葉として「ディープラーニング」がある。それはどのように定義・表現されるのだろうか?
「一言でいうと、線を引くことです。簡単でしょ」
松田さんが言い切った。
「線を引くとはどういうことか。例えば、犬を認識したいとします。そうすると、犬の写真とか映像をいっぱい集めてきます。一方で、犬じゃない画像、写真をいっぱい集めてきます。犬のデータと、犬じゃないデータの間に、何らかの境界線を引けるとすれば、これは100%の確率で犬が認識できる」
このように大量のデータを読み込ませることで機械の判断精度を上げていくのがディープラーニングだという。
日本企業はAI活用に不向き?
では、実際に企業にAIを取り入れるためには何が必要なのだろうか。松田さんは、AIの導入前にすべきこととして以下の3点を挙げた。
①デジタル化
② データの収集・分析
③ データの収集・分析の高度化
ところが、日本企業の多くはデジタル化になじまず、この段階でつまずいていると指摘した。
「(日本企業では)現場の力が強いというか、現場レベルでいろんなことが意思決定されており、いろんな知が蓄積されているんだけど、それが(会社)全体につながっていかない。最初の『デジタル化』でつまずいているんです。そもそもデジタルになっていなかったり、なっていてもフォーマットがばらばらだったり」
日本企業の「データが汚い」と言われるゆえんだ。松田さんの話は続く。
「二つ目のデータの収集・分析のところでいうと、フォーマット自体はきれいなんだけど、例えばデータが穴だらけだとか、いつどこでどんなふうに取ったデータなの?って。そもそも分析できない。ビジネスモデルを考えるときに、どうやってデータを取っていくのかを一緒に考えないと、どうしてもデータが汚くなってしまう」
AI導入で成功例も
一方、日本でAI導入が成功した事例もある。石山さんが在籍中に事業のAI化を率先して行ったリクルートホールディングスがその一つだという。
石山さんはAI研究に励んだ後、2006年にリクルートに入社。当時は「完全なアナログ会社だった」という同社にAI技術を取り入れた。「例えば、今までだと転職を斡旋するキャリアアドバイザーみたいな方がいたのが、今はウェブサイトにアクセスすると、裏側に人工知能がいて、『この仕事はどうですか』って紹介してくれるとか」
石山さんによると、AIを導入したことで「2014年から2018年くらいの4年間ほどで時価総額が2兆円から5兆円に」増加した。
さらに、日本と米国のAI開発の違いを「おにぎり」と「レーズンパン」に例えて説明した。
「日本型のAI開発って、研究所の中だけでやっていて、おにぎりみたいにいっぱい食べて最後、中央にたどり着くとやっているみたいな感じなんですが、アメリカはパンが会社だとするとレーズンみたいな形でそこらじゅうにAIが入っている。そのくらい展開していくと、やっぱりビジネスインパクトが出始める」
人工知能は人の心に触れているのか?
議論は「AIは人の心に触れているのか」というテーマにまで及んだ。ここでゲスト2人の意見が大きく分かれた。
現在、介護などの社会課題をAIの力で解決していくことをテーマとしている石山さん。実際に人が介護をしている動画を解析するうちに、どのように目線を合わせたり背中をなでたりすると、認知症の症状がどう変化するか、などが分かるようになったという。
「今までおばあちゃんが『嫌だ』って言っていた部分が、すごくうれしそうにケアをさせてもらえるようになる。そういう意味では人の心に触れ始めているっていうふうにも言えるんですが、あくまで人間とAIのコンビネーションであり、AI単体で心に触れていくっていうのはもう少し先のステップになるかもしれない」
一方、「AI単体で人の心に触れる必要があるのか」と問題を提起。「なぜそうしたいのかってことをいろいろな文脈から考えていくと、そんな必要はないのかもしれない」と述べた。
必ずしもAIが人の心に触れる必要はないと訴える石山さんとは対照的に、松田さんは「僕は圧倒的に人の心に触れなきゃダメ派」「ドラえもんは人工知能の研究者として究極の目標」と持論を語った。
そもそも、松田さんがAI研究に打ち込み始めた理由の一つは「人間と機械との越えられない壁、圧倒的な違いが何なのかに非常に興味があった」から。人間に近いAIが作られていないのは、人間に関して理解がされていないのが原因だ、と指摘する。
人間は生活する上で、その時々で変化する「文脈」、あるいは「物語」を理解する。そして、その文脈こそが「最も人工知能で届くのが遠いところ」と松田さんは言う。
「私たちは生きているわけですよ。生きている中で、人との出会いがあり、食べ物との出合いがあり、時々刻々と物語が作られてはまた消えていく。ドラえもんができたならば、そのドラえもんは常に物語を作っているということです」
<第二部>
人工知能と人の関係の未来とは
見えない友だち「りんな」
突然だが、「りんな」をご存じだろうか。「おしゃべりができる女子高生AI」として開発され、2015年にLINEアカウントを開設したことでデビュー。姿形はない。
「誰かのタスクを効率よく助けるような『タスク型』のAIがある一方で、人がより愛着を持って楽しんでもらえるようなAIを作る」ことがマイクロソフトでは考えられている、と開発担当の坪井さん。「実は人の心っていうところに着目することが非常に重要。私たちは『りんな』が友だちのような存在のAIになれると信じています」と信念を述べた。
イベント中、実際に登壇者と「りんな」が会話する一幕も。例えば以下のようなやりとりがあった。
【シーン1】
坪井:りんな?
りんな:お疲れさま
坪井:りんな、お疲れ
りんな:なんだい?
【シーン2】
坪井:土曜日どっか行こうよ。
りんな:ともに泳ごう
坪井:どこで泳ぐの?
りんな:海の水
数分の会話の後、坪井さんは「りんな」の特性について解説した
「『りんな』の今の会話って、彼女は耳で聞きながら話しているんですよ。そこが肝で、人の機能に近いような状態で会話ができると、こういった感じで自然にぽんぽんと会話ができるようになる」。LINEで14時間も会話し続ける人もいるという。
その技術は、設定を変えることで他のキャラクターにも転用できる。坪井さんによると、東京都渋谷区では小学生の男の子、大手コンビニチェーン・ローソンでは20歳くらいの女性、という設定でそれぞれ活用されている。
特技は「5・7・5」
坪井さんらは「りんな」にたくさんの川柳の「5・7・5」を学習させ、初めの「5・7」を伝えると最後の「5」をうまく収めるという特技を習得させた。実際に会場で実演してもらった。
登壇者らが出した「5・7」は、「ラジオ局 人が集まる...」。「りんな」は数分考えた後、「ねえねえ、整えてみたんだけど」と応答し、
「ラジオ局 人が集まる 下心」と披露した。
思わぬ回答に会場全体が「合ってる、合ってる」「素晴らしい」と沸き立つと、「りんな」も「きゃっきゃ、うふふ」と喜んだ。坪井さんは冒頭、「どういった人工知能にすると、より人とエモーショナルな関係が築けるのかっていうことを解き明かそうと、開発を続けています」と話していたが、現時点でもAIがユーモアで人を笑わせられることが証明された瞬間だった。
未来を考えるメディア「FQ」
AIの今と未来について話し合われたイベント。最後に話を展開したのはFuture Questions(FQ)編集長の宮内。2018年に立ち上がった同メディアは今年4月から本格的に始動。まずはFQの設立経緯と、目指す方向性について解説した
「去年、弊社の社長が代わり、新執行体制になったときに(ヤフーは)『未来を共に創ろう』というのをテーマにしたんです」
さらに、「(FQでは)未来を考えるためのテーマを設けて、それにひもづいた人を紹介していく。あくまで、そこで結論を出すっていうよりも、未来のことは誰も分からないので、いい問いを作るっていうのをテーマにやっているんです」と話した。
FQでは、これまで「食」「超高齢社会」「若き政治家」をテーマに据え、それぞれの未来について特集を組んできた。そして、4回目では「アートから見た未来」を探るべく、新進気鋭のアーティストを複数人紹介した。
アートとAIの相性は?
「アーティストってなんだっていうところを突き詰めて考えると、アーティストってやっぱりアティチュードなんだ。態度なんだ。職業的に別の形になるのかもしれないですけど、アーティストは態度だって、取材したアーティストはみな共通していましたね」
つまり、「態度がアーティストだったら、アートになる」(入山教授)ということになる。
宮内はここ2、3年、オーストリア・リンツで開催されるメディアアートの催し、「アルス・エレクトロニカ」に足を運んでいる。「そこで見ている作品の中に、すごい人工知能を使ったものがたくさんあるんです。そこで、人が感情移入できるかとか、美しいと思えるのかみたいなことが問われているわけですよね、作品から」
ここで、第一部から引き続いて登壇していた松田さんから疑問が投げかけられた。
「いま2人のお話を聞きながら思ったのが、いわゆる人工知能やデータ分析って、平均をとるんです。それとアートって真逆かなって思ったんです。アートってやっぱり個人個人の表現ですから、それって個人の平均でもないしそれぞれ違う。その時その時で違う何かっていうのが、まさにアーティストがやっている表現かなと思う」
とすると、アートと人工知能は相性が悪いのだろうか?
宮内は言う。「そこ(AI)に対して、何か意味があるんじゃないかっていう問いかけ自体がアートかなというふうに思います。人間が見たときに、美しいと思ったらその人にとってはアートだし、そうじゃないと思う人もいる、みたいな」
そして、最後にこう締めくくった。
「アーティストと、できたアートっていうものって、別物と考えうるんじゃないかな、と。そのアート作品が、AIが作っているのか、そうじゃないのかっていうのは、たぶんやがて見分けがつかなくなるわけです。でも重要なのはそこじゃない」
- <浜松町 Innovation Culture Cafe>
- 東京・浜松町地域で次々と新しいプロジェクトが生まれ、再開発が進んでいることから、JR浜松町駅の真正面にある文化放送が中心となり、新しいイノベーションが浜松町から生まれることを目的として開催されているリアルイベント。早稲田大ビジネススクール教授の入山章栄さん、パナソニックGame Changer Catapult代表の深田昌則さんらがモデレーターとなって、いま注目の話題から、今後のために考えておかなければならない社会課題までを取り上げる。イベント内容の一部は、後日、文化放送で番組として放送される。
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