理屈のつかない面白さが、一線を飛び越える力になる

2019.06.14.Fri

Chim↑Pomインタビュー

理屈のつかない面白さが、一線を飛び越える力になる

広島の原爆ドーム上空に飛行機雲で文字を描いたり、福島県の帰還困難区域で「見に行くことができない」展覧会を開催したり、歌舞伎町のビル一棟を丸ごと作品にしたり……。2005年に結成された6人組のアーティスト集団Chim↑Pomは、スケールの大きい、その問題提起的な活動によって、いまや世界のアートシーンでも異彩を放つ存在だ。そんな彼らは何に向けて作品をつくり、社会におけるアーティストの役割をどう考えているのか。メンバーの卯城竜太とエリイに聞いた。

「自由」や「幸せ」について、いま思うこと

――Chim↑Pomは近年、たびたびアートの世界の不自由さについて発言していますね。おそらく多くの人たちのなかで、アートは自由という印象があると思うのですが、まずはその「不自由さ」について聞かせてください。

卯城 正直、この数年間で同じような話をあちこちで何回もしてきて、最近、ちょっと飽きているところがあるんだよね(笑)。

エリイ 私、令和になってから同じ話はしないって決めているんだ。だから、アートの不自由さについては、ほかのネットの記事を読んでって感じだね。

――(笑)そう言わず、話してもらえると助かるのですが......。

卯城 エリイさん自由すね(笑)。まあ、不自由さといっても、べつにおカミからの検閲とかだけじゃなくて、アーティストの自主規制とか、PC(ポリティカルコレクトネス)の空気とか、いろいろな要因があるでしょ? それはたしかにあるんだけど、この前エリイちゃんから、「私はそういうムーブメントが、表現が不自由になったからって悪いことだと思わない。なぜならそれによって、私自身の考え方も更新できるから」って言われて、ハッとしたんだよね。たしかにそうだなって。

エリイ 本当そう思うよ。だって、不自由って言うのは簡単だけど、どんなときだって不自由だし、どんなときだって自由なんだよ。時代に関係なく。

――以前お話を聞いたとき、エリイさんは「自由は心の問題だ」と言ってましたね。

エリイ そう、心の問題。というか、そもそも人間には生まれた時点で自由はない。なぜなら概念を埋め込まれ続けて生きているからね。

卯城

卯城 概念と不自由さの話でいえば、最近、アシスタントの女の子に子どもが生まれたんだよ。その子の動画を見せてもらうと、やっぱすごくて感動した。これ、漫画家のいがらしみきおさんも同じこと言ってるんだけど、人間はいろんなものをまずは名前で認識するでしょ。名前があるからそれがそういうものだと思い込む。これは「石」、これは「岩」だって。でもその両者の間も存在するし、見方を変えればそもそもそれが石って役割を持つ必要もない。僕らが便宜上そう呼んでるだけで、その物のポテンシャルをただの「石」として僕らが勝手に閉じ込めちゃう。

例えば赤ちゃんには「右」や「左」の概念もないわけじゃん。両手が出合って、お互いの名前は知らないけど、そういうものが存在する、って知るわけ。概念がその名前よりも先に芽生えるわけじゃん。自分が出合う世界の全部を、誰かが名づけた既成のものじゃなく、自分の感覚で自由に捉えてる。そんな感じの動きをしてて、超自由だなーって羨ましくなったよ。これ見てたらしばらくアートなんて見なくていいぐらいの満足感があるだろうなって。で、俺もそんな知らない世界を味わいたいと思っていたら、去年、盲腸で初めて手術して、未知の身体感覚を味わって、「これか!」って思った(笑)。

エリイ それは無事でなにより。

卯城 エリイちゃんは毎日ウロウロしてるじゃん? スマホの万歩計を見せてもらったら、一日で2万歩とか歩いていて。そこで新しいことに出合わない?

エリイ 場所も人も前向きだったり、退廃してたり、個性を打ち出しながらもだいたいは塊のなかに平たさがある。たまにエクストリームを発見すると興奮するね。

卯城 ユニークな人ってめっちゃいるじゃん。でも、ほとんどの人が何となく「幸せに暮らしたい」と思っている感じはあるよね。人間だから当たり前なんだけど。

エリイ 私、この1年半くらい「幸せ」について考えてて。

卯城 たしかに週1くらいで「幸せ」について話してくる(笑)。

エリイ でも、「幸せ」について考えるのはレベルが低いらしい。「幸せ」って脆くて、こういうのが幸せっていう固定概念からちょっとでもズレたら「不幸」になる。そんな脆さをぼんやり思うのはナンセンスで、私が求めるのは「満足」に達するか。でも幸せがいい(笑)。

アートは異次元の視点へと向かう

――多くの人が一様な「幸せ」を求めるのは、はみ出すことへの恐怖心もあるのかなと。話をアートに戻すと、エリイさんは最近「新潮」に寄せた文章で、アーティストとして転機となった作品に、原爆ドーム上空に飛行機雲で文字を描いた『ヒロシマの空をピカッとさせる』(2008年)を挙げていましたね。「社会の反逆にあいましたがこれこそ芸術家としての態度だと確信した」と。

エリイ それまでのウチらの作品は、『ERIGERO』(エリイがピンク色の嘔吐物を吐き続けるChim↑Pomの初期作品。2005年)とかは部屋でできたり。『Black Of Death』(都内名所の上空にカラスを集める映像作品。2007年-)や『SUPER RAT』(駆除の対象であるネズミを渋谷で捕獲し、剥製化する作品。2006年-)は空や街中を使ってるけど、『ピカッ』は、それまでにないスケールの大きさを体感できた作品だった。広島の原爆投下を含みながら、作品を通して、戦後64年目の人間が何を考えているのかが後世に残るという時間や概念の大きさを初めてやったのがこの作品。

「ヒロシマの空をピカッとさせる」

『ヒロシマの空をピカッとさせる』
広島・原爆ドームの上空に、飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いた作品。広島の風景 に漫画の1コマのような擬態語を描き、ゆっく りと消えていく様子に記憶の風化を重ねることで、戦後日本の平和に対する現代的な歴史観を映し出した

Photo by Cactus Nakao
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

――ただ、作品は強いバッシングに遭いました。

エリイ バッシングって、うまくできないものなのかな。

卯城 それはいまも炎上するたび思うよね。集積の巨大さは感じるけど、クオリティーの高さは感じない。それって俺のなかではさっきの認識の話につながるんだけど、よくわからないものやザワザワすることが起きたとき、つまり未知なことが目の前に現れたとき、赤ちゃんじゃないけど自分で考えたり認識したりすりゃいいのに、みんなそれができない。

たとえば誰かが「人を傷つけるな」と言うと、みんなそれを言うようになるんだよね。さっきの「言葉ありきで物事をわかったと思い込む」のと同じで、それは人間のどうしようもない性だと思うんだけど、そこから自由になってみてもいいと思う。未知で謎なものはじつはそんな簡単な言葉で捉えられないもん。ザワザワの正体がそれに成り代わっちゃうなんて不自由だなーと思う。

――言葉が与えられると、その角度でしか見られなくなっちゃう。

エリイ そうだね。それが言葉の魔力。でも、「赤」だって超いっぱいいろんな赤があるじゃん。

卯城 作品をつくるときも、「なんでこれをやるのか?」とか、いろんなクエスチョンがあるわけじゃん。むしろ、そう思えるほうが自分たちも感動するし、わかってしまったら作品自体もくだらなく思えてくる。それが一言で染まるのは面白みがない。

――本当はもっとグレーな状態なのに、と?

卯城 グレーというか、異次元なはずなのよ。ひとつの次元のなかの白か黒かグレーかではなく、違う次元の視点もあるでしょ? たとえば『ピカッ』も、100年前や100年後の人が見たら違うことを言うかもしれない。そういう人が何か言うだろうってボヤッとした確信があるからつくるわけで、それが現在の視点だけでわかった気になってしまってる人たちを見ると、世界が狭いなと思う。作家である自分だってまだ捉えきれない何かがあるのに、作品には。

でも、自分が作品を語るときも、そんな目先の読者に向けて、語りやすい言葉で作品を説明してしまうんだよね。便宜上。最近インタビューが好きじゃないのも、それが理由かも。

Chim↑Pom

――話すうち、自分のなかで語りやすいストーリーもできてしまいますもんね。

エリイ そうなんだよね。

卯城 自分で自分を型にはめてしまう。ウチらは『Don't Follow the Wind』(福島県の帰還困難区域で2015年3月11日から開催中の国際展。Chim↑Pom発案。展示は封鎖解除後まで見られない)とか、未来にしか見られないプロジェクトもしているでしょ? だからもちろん未来を想像するし、未来の人のことも考えるけど、それがまったく違うかたちで現れることもぜんぜんあるはずじゃん。そのギャップこそが面白いと思うんだよね。

「Don't Follow the Wind」

『Don't Follow the Wind』
福島県の帰還困難区域で開催中の "見に行くことができない展覧会"

Curatorial team on a site visit in the Fukushima exclusion zone
Courtesy of Don't Follow the Wind

「アートの神との会話」としかいいようのないもの

――未来について思い出した話があります。先日、『AKIRA』で知られる漫画家の大友克洋さんに取材したのですが、『AKIRA』は2019年が舞台なんです。そこで執筆時の1980年代前半に想像していた2019年と、現在の実際の2019年の最大のギャップをお聞きすると、「みんなスマホばかり見ていること」だと言うんですね。そして、「ふと遠くの空や山を見ているときこそ、未来のことを考えるものなのに、手元ばかり見ていたら未来への想像力なんてなくなるよね」とおっしゃっていて。

エリイ 手元ばかりか、その通りだよね。私はよく空とか山を見るけどスマホもめっちゃ見る。

卯城 昨日もエリイちゃんから、「今日は令和一発目の満月だ」って言われた(笑)。

エリイ 昨日は50回くらい空見た。月はタダじゃん。それをツマミに飲めるんだから最高だよ。乾杯しないとね。

――異次元への想像力を持てない人が多いのだとしたら、それも理由かなと。

卯城 俺も前に似たようなことを考えたときがあって。いまって手元に明かりがいっぱいある社会でしょ? 「いまここ」が見えるようになればいいという光ばかり。でも人工の光が乏しい時代の人たちは月や星を見て方角を知ったり、いろんなことを決めたりしていた。それはアートの特質に近いと思うんだよね。なかでも位置の変わらない北極星はアートっぽいなと。だって、距離的にもとても遠くて、時間的にもずっと昔の光を見るわけでしょ? 過去を直接見てるなんてすごいじゃん。さらにそれで「今」のことや方角を判断するなんてほんとにすごいことじゃん。すごく自然なことなのに時空を超えている。

――そこにあり続けるもの、みたいな。

卯城 そうそう。だけどいまそれが難しくなってるのは、星が見えないからでしょ。手元が明るすぎると、それが見えなくなっちゃう。未来の話っていっても、結局みんなテクノロジーの話とか、現実的なことばかりだしね。そんな環境で語られてるだけの未来なんて、と少し思う。

――直近の問題にしか意識が向かなくなっているかもしれません。

卯城 もう一個思い出したんだけど、最近、会田(誠)さんと一緒に北海道旅行したときに「神」の話になったの。俺はべつに神を信じていないけど、作品をつくるときの感覚を説明しようとすると、「アートの神との会話」としか言いようがない瞬間があるんだよね。ウチらは普通の商品みたいに、作品の対象をマーケティングして絞っているわけじゃない。オーディエンスは誰?っていったら、作品が未来や他の場所を飛び回る限り、限定できない。じゃあ何をしているかというと、そうとしか言えなくて。そしたら会田さんも「そういう神は僕も使っていた」と酔っ払って言ってて、「お前もか!」と思ったんだけど(笑)。

エリイ それって自分の精神性に触れているだけなんじゃないの?

卯城 もちろん自分との対話でもあるんだけど、それだけじゃなくて。自分がアートを信じていることは間違いないけど、それ以外の何かと会話している感覚がある。

エリイ わかるけど、それはアートの歴史とか、自分の死後への想像力だと思うよ。うちらの新しい作品集のタイトルも『We Don't Know God』だしね。その辺をもっとハッキリさせるのが、竜太の今後のテーマですな。

卯城 はい(笑)。

『Chim↑Pom 2005-2019 We Don't Know God』

『Chim↑Pom 2005-2019 We Don't Know God』
デビュー作から最新作までの作品を一挙掲載、現時点における集大成

発行元: ユナイテッドヴァガボンズ

場所の意味を変える、マンチェスターでの新プロジェクト

――ただ、たしかに卯城さんのおっしゃったように、現在の人たちが生きる「いまここ」の世界に対して、たとえば死者や未来の人など、外の世界の視点をぶつけて、その見方を変えるというのはアートのひとつの機能のように感じます。

卯城 去年、手術になった関係で、最近「死」について考えていて。俺にとって死はまだネガティブなものだけど、亡くなったラッパーのECDが、日記で「死は絶対的だから遠ざけることはできない。だけど引き寄せることはできる」みたいなことを書いていたことを知って、いいなと思ったんだよね。死は、自分がどうであれ、何をがんばったところで、訪れるでしょ。必ず。自分じゃ何ともできない、絶対的な相手。だけど、「引き寄せる」って意味ではそんな絶対的な相手をコントロールできる。その視点を持つだけで死に対するイメージが変わる。その機能はアートにもつながるのかなと。

エリイ ある事象の別の角度を見せるのが現代美術だからね。現代美術は可視化。

――この流れでお聞きしたいんですが、最近、ビジネスにおけるアートの活用が盛んに叫ばれますよね。企業側は、いまの話にあったアートの持つ新しい視点に期待するのだと思いますが、実際は絵を飾ったり、経済性につながるようにアートを使うだけで、本当に過激な両者の結びつきの例はほとんど聞いたことがありません。たとえばオフィス空間そのものをChim↑Pomに依頼して作品化してしまうとか、そうした企業が出てきたら面白いと思うのですが、お二人はこういう可能性をどう感じますか?

卯城 オフィス自体を作品にっていうのは、面白そう。オファーがあったら超考えちゃうよね。普通に内装をいじったとしても、その後の企業の仕事が変わらなければ、アート的には失敗かもね。アートで手を入れたことで、何か起きないと。それならどうするかとか、いろいろ考えられると思う。

いまマンチェスターのフェスティバルで進めている『A DRUNK PANDEMIC』というプロジェクトは、まさに場所自体を別物に変えるものなんだよ。この会場はトンネルの廃墟なんだけど、18世紀にコレラで死んだ人が埋まっていて。そのトンネルのなかに、ビール工場をつくるっていうプロジェクトなんだけど(笑)。

エリイ コレラ感染者が埋まっている場所の空気を含んだブルワリー。

――ヤバい......(笑)。

卯城 調べると、世界的に、コレラの拡大を機に下水道が整備されたり、トイレが衛生的になったり、インフラが整った歴史があるとわかって。とくにマンチェスターは産業革命発祥の地だから、工場や労働者って都市型の生活が真っ先に始まったでしょ。ただ、当時はコレラの原因が不明だったから、労働者に多い酒飲みと結びつけられたんだけど......。

卯城

エリイ 当時、そこの多くの人は水の代わりにビールを飲んでいたらしい。昔は水が清潔に保てなかったし、高かったから、ビールのほうを飲んでいたんだよね。

卯城 で、そんなインフラとの関係があったなら、そこで作ったビールは公衆便所で飲むべきだってことで、公衆便所をバーに改装するプロジェクトにも発展していった。公衆便所としての機能は健在なんだけど、バーとしての機能もあって、そこでビールを通して、地中と地上の人たちのコミュニケーションが生まれる、みたいな。それって、さっきのオフィスの話とも近い話で。

――作品化を通して、ある場所の意味を変えることができる。

卯城 何かが変化して、オフィスなんだけどまったく同時に別のものになる可能性もある。そういうのは面白いよね。誰も経験したことがない未知の空間が生まれると、そこから先は全部新しい実験の連続ですよ。じゃあルールはどうする? とか、そもそもなんて呼ぶ?とか(笑)。そこから新しいルールやジャンル、もっと言うと世界の創出にも繋がるんです。

アーティストの役割は態度を見せること

――ただ、問題や逸脱を避けるいまの社会の風潮を考えると、マンチェスターのプロジェクトのような実験的な試みが日本において可能なのか、という疑問もあります。

エリイ でも、オフィスの話でいえば、お互いに高め合うじゃないけど、初めは「え?」という反応だったとしても、アートの態度を見せて理解してもらうことで、その段階を超えていくことはあると思うんだよ。むしろ、それがアートの力じゃないかな。

卯城 逆に、そこで働く人のポテンシャルを引き出せないと何も変わらない。アメリカとの国境沿いにあるメキシコのスラム街にある家に、『U.S.A. Visitor Center』というツリーハウスをつくるプロジェクト(2016年)のときもそうだった。現地の人たちにしてみれば、アメリカを眺めるツリーハウスをつくることに何のメリットもないわけで。

「U.S.A. Visitor Center」

『U.S.A. Visitor Center』
2016年にメキシコ・ティファナとアメリカ・サンディエゴの国境沿いで制作したアートプロジェクト

Photo by Osamu Matsuda
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

エリイ その人たちはアメリカへ入国できない人たちだから。街自体も超危ないし、変なことを起こしてほしくないに決まっているのよ。生きるか死ぬかの場所だから。

卯城 でも、アメリカを眺めるツリーハウスをつくりたいと話すと、ゲラゲラ笑うわけ。それはウチらが促しているわけじゃなくて、面白いから一致点が生まれるんだよね。

エリイ 心の親和性が高かったから、一致点が生まれた。

卯城 そう。その人たちにはべつにアートのリテラシーがあるわけじゃない。でも、それこそ「アートの神との会話」じゃないけど、理屈のつかない面白さによって、お互いの場所から一線を飛び越えるようなことが生まれることがあって。

――たしかにChim↑Pomのこれまでの歩みは、『ピカッ』にしてもメキシコのプロジェクトにしても、最初は戸惑っていた周囲の人を作品の力で変えてきた歴史ですね。

エリイ やっぱりアーティストの役割は態度を見せることなんじゃないかな。私も、有名無名にかかわらず、人の態度の美しさに心動かされたり学んだりしたことが大きかった。態度の美しさはビジュアル的な話でもないし、善悪とも関係がない。だけど、美しさへの感度を高め合うことによって、世界のなかに新しい第一歩をつくることができる。

――2017年に国立台湾美術館で発表した、公道から美術館内までアスファルトの道路を敷いた作品『道』も、はじめは館側から難色を示されたとお聞きしました。

卯城 たぶんどんな人も、一線越えてみたい気持ちはあるわけよ。最初は「そんなことはできない」と言う人でも、「一線越えてみません?」と言われると、ワクワクする気持ちがあるわけじゃん。それが成立するのは、そのプロジェクトに「やるべきだ」という確固たるものがあるからだと思う。その一瞬、みんなが面白さを共有する。もちろんだからといって、その個人が根本的に変わったかはウチらにはわからないんだけど。

『道』
会場となる国立台湾美術館に、長さ200メートルに及ぶアスファルトの道をつくった巨大インスタレーション

Photo by Yuki Maeda
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

――その瞬間、ノってくれたという事実は残る

エリイ そうそう。それに、関わった人はずっと仲良しだよね。2007年にカンボジアのプロジェクト『サンキューセレブプロジェクト アイムボカン』(現地に残る地雷で高級ブランドのバッグなどを爆破して作品を制作した)を一緒にやった子たちも、エリイの写真をいまだに持ってくれていたりする。その意味でも、アートに感謝だね。ウチらもアートをしてきたからこそ出会えた人がたくさんいるし、見る世界も広がったから。

「ブロのヴィーナス」
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

水戸芸術館現代美術ギャラリー「リフレクション―映像が見せる"もうひとつの世界"」での展示風景
Courtesy of the artist, ANOMALY and MUJIN-TO Production

『サンキューセレブプロジェクト アイムボカン』
「セレブと地雷」をテーマにChim↑Pomが私財を投じて、カンボジアへ渡航し、現地の人たちと関わり合いながら制作し展開した。

(Chim↑Pom)

Chim↑Pom

卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀が、2005年に東京で結成したアーティスト集団。時代のリアルを追究し、現代社会に全力で介入したメッセージの強い作品を次々と発表。世界中の展覧会に参加するだけでなく、自らもさまざまなプロジェクトを展開する。2015年 アーティストランスペース「Garter」を東京にオープンし、同時代のさまざまな表現者たちの展覧会もキュレーションしている。また、東京電力福島第一原発事故による帰還困難区域内で、封鎖が解除されるまで「観に行くことができない」国際展「Don't Follow the Wind」の発案と立ち上げを行い、作家としても参加、同展は2015年3月11日にスタートした。以来、最近はさまざまな「ボーダー」をテーマにしたプロジェクトも展開しており、2017年には、メキシコとアメリカの国境沿いで制作したプロジェクト「The other side」を発表。2015年、 Prudential Eye AwardsでEmerging Artist of the Yearおよびデジタル・ビデオ部門 の最優秀賞を受賞。2019年、14年に及ぶ活動の集大成『We Don't Know God』が発売。

オフィシャルサイト
http://chimpom.jp/(外部サイト)

取材・文:杉原環樹(すぎはら・たまき)
ライター。1984年東京都生まれ。武蔵野美術大学大学院美術専攻造形理論・美術史コース修了。出版社勤務を経て、現在は美術系雑誌や書籍を中心に、記事構成・インタビュー・執筆を行う。主な媒体に「美術手帖」「CINRA.NET」など。構成を担当した書籍に、トリスタン・ブルネ著『水曜日のアニメが待ち遠しい:フランス人から見た日本サブカルチャーの魅力を解き明かす』(誠文堂新光社)。一部構成として関わった書籍に、Chim↑Pom著『都市は人なり-- 「Sukurappu ando Birudoプロジェクト」全記録』(LIXIL出版)、筧菜奈子著『めくるめく現代アート イラストで楽しむ世界の作家とキーワード』(フィルムアート社)、『これからの文化を「10年単位」で語るために - 東京アートポイント計画 2009-2018 -』(アーツカウンシル東京)など。
写真:横山・マサト(よこやま・まさと)
編集・取材:Qetic(けてぃっく)
国内外の音楽を始め、映画、アート、ファッション、グルメといったエンタメ・カルチャー情報を日々発信するウェブメディア。メディアとして時代に口髭を生やすことを日々目指し、訪れたユーザーにとって新たな発見や自身の可能性を広げるキッカケ作りの「場」となることを目的に展開。
https://qetic.jp/(外部サイト)

#04 アートは未来をどう変える?