2019.04.24.Wed
若きリーダーたちが海外で台頭
日本の政治は世界から何を学べるか
史上最年少首相や若き女性政治家の活躍。新たな国の形を築こうと願う有権者と、それに呼応するニューリーダーの誕生に湧く海外の政治情勢から、日本の政治は何を学び、どのようにして日本を変化させることができるだろうか。
若さだけではない、カリスマ性を持ったリーダーたちが国を変える
選挙とは、国や地域の方向性を決める大事な手段である。だからこそ、選挙の結果や誰が当選したかは、有権者がどのような国や地域のあり方をのぞんでいるかという、これからの展望を占う一つのリトマス試験紙のようなものでもある。
海外に目を向けると、当選回数や年齢が若い政治家が大抜擢され首相や閣僚クラスに就任するケースが増えてきた。欧米諸国において、LGBTQなどの性的マイノリティーや黒人系・ヒスパニック系の政治家といった、コミュニティーの声の代弁者が政治という大きな舞台に立ち、マイノリティーの権利や人権を守るために奮闘する様子も多くみられるようになった。
自国の経済や社会の立て直しのため、若いカリスマ性を持ったリーダーに期待をかけようとする動きもある。歴史的にみても、若い政治家が台頭し、国そのものの新陳代謝が起きることもしばし見られる。さまざまな政治的な情勢変化の背景として、新たな政治に期待する有権者の意識が現れている証拠ではないだろうか。
一方、日本では経験や当選回数が選挙の行く末を決める大きな要因になりがちだ。政治家の平均年齢も50代と世界的に見ても高く、女性議員の比率も先進国では最低を記録している。いまだ高齢な男性中心、官僚出身や世襲議員が多い日本の政治は、多様性を受け入れながらさまざまな立場の声を代弁する政治のあり方になっているのだろうか。
時代の変化とともに、政治家のあり方も様変わりしている世界情勢において、海外の若き政治家たちはどのようにしてリーダーとなったのか。掲げる政策やその言動はどういったものなのか。彼らにフォーカスを当てながら、日本のこれからについて考えてみたい。
ヒスパニックで元ウエートレス、最年少米国女性下院議員の誕生
ドナルド・トランプ氏の第45代アメリカ合衆国大統領就任は、世界情勢に大きな影響を及ぼした。メキシコ国境への壁の建設やイスラム教徒や移民の排除政策、アメリカ・ファーストを掲げ自国経済の立て直しを最優先し、白人至上主義を全面に出した政治活動や政策の数々に、各地で論争や分断が起きている。
1960年代の公民権運動以降、アメリカではさまざまな公民権獲得の運動が行われ、黒人や移民などのマイノリティーの権利を擁護し、差別を排除するために公民権法や投票法が成立してきた歴史がある。初の黒人大統領の誕生で湧いた2008年は、歴史の一つの節目として刻まれることとなった。それがゆえに今回のトランプ氏の大統領当選は、アメリカ国内にいまだ根深く残る分断の問題を浮き彫りにしたともいえる。
こうした中、トランプ氏の大統領就任から二年が経過した2018年、中間選挙に向けた予備選挙にてニューヨーク州第14下院議員選挙区で28歳のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏が、初出馬で現職のベテラン下院民主党議員を破る快挙が大きな話題を呼んだ。
コルテス氏は1989年ニューヨーク州ブロンクス生まれ。プエルトリコ出身の母親を持つ。ボストン大学では経済と国際関係を専攻、学生時代にはマサチューセッツ州の民主党上院議員エドワード・M・ケネディ氏のもとで働き、移民問題などに取り組んでいた。
大学卒業後、同氏は児童書などを扱う出版社ブルック・アベニュー・プレス社を立ち上げる。その後、父親の死後をきっかけに母親を支えるためにマンハッタンのタコス料理店でバーテンダー兼ウエートレスとして働いていたという。
2016年の大統領予備選挙の際、バーニー・サンダース上院議員の選挙活動においてフィールド・オーガナイザーと呼ばれる担当地域の選挙スタッフのまとめ役として活躍、草の根の市民運動活動に従事していた。
大統領選挙後、フリント水道水汚染問題やアメリカ先住民居住地における石油パイプライン建設の抗議運動など、人権侵害を受けた市民らとの対話を重ねた。これらの経験をきっかけに、こうした人権問題に真正面から向き合うために議員選挙に立候補、ジョセフ・クローリー連邦下院議員に大差をつけて勝利を果たした。米国最年少の女性下院議員でヒスパニック系、さらに予備選挙の一年前までウエートレスであった経歴から、米国メディアはこの出来事を「ショッキングな大番狂わせ」として大きく取り上げ、一躍時の人となる。
トランプ政権に対する批判や行動でも注目を集める
コルテス氏は選挙活動をサポートしていたサンダース議員と同じく民主社会主義者で、国民皆保険や最低賃金引き上げ、公立大学の授業無償化を訴えた。英語とスペイン語が話せることから、多言語を話す有権者の支持をもとに活動を行っていた。その背景として、トランプ政権における移民・関税捜査局(ICE)が不法入国した家族の親と子供を引き離し収容するという施策を、人権侵害としてICEの廃止をコルテス氏は訴えていたからだ。予備選の直前、コルテス氏はテキサス州南部にある不法移民収容センターを訪問し、親子を引き離すICEへの抗議活動にも参加し、トランプ政権に対する批判や行動が大きな賛同を呼んでいる。
自身もマイノリティーの出自を持つコルテス氏は、政治活動の根底に「人権第一」を掲げ「同じ境遇にある人たちの代表」として、有権者へのアピールと支持を集めている。コルテス氏の選挙活動では、SNSを通じた小口献金の活動をもとに、他の議員が受けている大企業からの大口献金との比較から「庶民代表」としてのイメージを全面に出した選挙活動でもあった。また、コルテス氏を含めたミレニアル世代の台頭が目覚ましく、アビー・フィンケナウアー下院議員が30歳でコルテス氏に次ぐ2番目に若い女性連邦議員となるなど、多くの若い女性議員が当選したことからも、現政権に対する対抗意識がこの結果を裏付けている。
2019年2月7日、コルテス氏は気候変動問題に包括的に取り組む「グリーン・ニューディール法案」を発表した。再生可能エネルギーの促進や全米の交通システムの抜本的見直し、スマートグリッド敷設や有害廃棄物の処理場整備、環境汚染や温暖化ガス排出ゼロの製造業の促進など、その内容は多岐にわたる。しかし、同法案の内容は現時点では技術的に不可能であり、かつコストがかかるとして共和党などから強い反対の声が上がっている。しかし、あえてこうした法案を発表した背景が、コルテス氏にはある。
将来の気候変動に危惧する若い世代の中には、気候変動が未来の世代にもたらす脅威から子どもを持つことを不安視している声もあるという。コルテス氏は「大規模で大胆な対策であっても、気候変動という大きな問題に対して大きな解決策を打ち出し続けることこそグリーン・ニューディールが目指すものである」と語り、将来世代に対して負の遺産を残さず、より良い社会のためのビジョンを提示しようとする思いがそこにはある。
現在のトランプ政権下において、これら一連の政治活動から新世代の議員と注目の高いコルテス氏。一説には「女性初のアメリカ大統領候補」との呼び声もあるという。黒人初の大統領を経たアメリカは、新たなマイノリティーの代弁者として30歳という将来に期待が持てるコルテス氏をその旗手としながら、現トランプ政権との対立を強く打ち出している。
人種や立場などあらゆる人の人権を守り、多様な人たちの生活を守るのが政治家であり、国民の声の代弁者である。日本において、こうしたマイノリティーの声をあげる動きとしてLGBTQなどの性的マイノリティーをカミングアウトして政治活動する議員も増えてきた。今後、より多様なマイノリティー・コミュニティーや人権侵害を受けている人たちの代弁者が登場してくる可能性もあるはずだ。そのためには、代弁者をみなが応援するだけでなく、そうした社会問題があることを認識するためのアジェンダ設定をしていきながら、社会課題について議論する土壌が必要不可欠だ。
日本にどのような社会の課題があるのかを多くの人が議論し、そこから具体的なアクションを生み出したり、時には仲間から政治家を輩出したりする、民主主義としての重要な活動がいままさに求められているのだ。
オーストリアの若きカリスマ指導者が欧州に波紋を呼ぶ
アメリカ・トランプ政権誕生と並行して、欧州では若い世代の政治家の台頭や首相誕生といった世代交代劇が続いている。
イタリアでは2018年3月に政党「五つ星運動」が第一党となり、同党のルイジ・ディマイオ氏が31歳の若さで副首相に就任。議員になる5年前までフリーターだった経歴から大学を出ても就職できない若者の支持を集めた。選挙では低所得者向けの公約を掲げ、多くの政治家からは財源確保のないバラマキ政策に対し批判の声が集まるなど同氏の行動が賛否を呼んでいる。スペインではバルセロナ出身で38歳のアルベール・リベラ氏率いる新党「シウダダノス」が、2018年に支持率で保守与党を上回るなど、若い世代が議会を席巻している。
そのなかで最も注目されているのが、史上最年少でオーストリアの首相となったセバスティアン・クルツ氏だ。2017年10月15日、オーストリア国民議会下院選挙で中道右派の国民党が15年ぶりに第一党となり、国民党と極右の自由党による連立政権が誕生。第一党の国民党党首のクルツ氏が、同年12月に弱冠31歳という若さで首相に就任した。
これまで首相や大統領に若くして就任した例として当時43歳のアメリカ・ケネディ元大統領やイギリス・ブレア元首相、キャメロン元首相があるが、その多くは40代前半であった。日本の歴代首相で就任時の最年少記録は初代首相の伊藤博文氏で44歳だったことからも、クルツ氏の31歳での首相就任は異例なことがわかる。
前述のコルテス氏が29歳で最年少女性米国下院議員だったが、世界の最年少政治家は2017年に22歳で当選したオーストリアのジョーダン・スティール・ジョン上院議員など、20代前半で国会議員となる動きが世界各地で起きており、若い世代の活躍が注目を浴びている。日本では国会議員の平均年齢は50代半ば、世界でも議員平均は40代半ばが多いなか、20代、30代の政治家の相次ぐ登場は、既存政治に対する不満や新たな風を起こすことへの期待感の高まりが各地で起きているといえる。
クルツ氏に話を戻そう。同氏は若くして首相に就任したが、ただ若いだけでここまで上り詰めたわけではない。16歳からオーストリア青年国民党に参加、その後ウィーン大学法学部に入学すると22歳から26歳まで青年国民党ウィーン支部長を務め、23歳で青年国民党総裁に就任し、27歳でほぼ100%の支持を得て再選。2011年7月に新たに設立した移民統合事務局局長に抜擢され、2013年の国民議会選挙後、オーストリア連邦共和国大統領の指名により27歳の若さで史上最年少の外務大臣に就任する。そこからわずか4年で首相就任というまさにスピード出世だ。
クルツ氏は、2015年の大統領選挙で惜敗し支持率を大きく落とした国民党復活の救世主として、2016年6月に新党首に就任。若者や女性を積極的に党内の役職に抜擢しながら、国民党のイメージ刷新を図っていった。これらの戦略が実を結び、2017年のオーストリア国民議会下院選挙で勝利し、同氏のカリスマ的な指導者としての地位を揺るぎないものとした。
移民対策におけるリーダーシップで保守層からの支持を集める
2015年に起きた欧州の難民危機を発端に、クルツ氏はイスラムをオーストリアの脅威とみなし保守的な政策を国民党内で推し進めてきた。2017年の選挙でも移民・難民問題を大きな争点して選挙戦を戦い、大きな支持を獲得した。欧州の移民政策を巡ってドイツのメルケル首相とも対立、積極的な移民政策を取るドイツとは対照的に、欧州に流入する難民の数の制限や一方的な国境閉鎖、オーストリア在住の移民に対する福祉削減といった強硬政策を掲げた。
クルツ氏は、移民統合事務局局長時代に、オーストリアで合法的に暮らすには移民の教育水準や雇用状態、あるいは名誉職など一定程度の社会的地位があるかどうかで判断し、ドイツ語が母語でない幼児に対して、幼稚園教育の超過義務を課すなどの保守的な提言をもとにした「能力による社会統合(Integration durch Leistung)」をモットーに活動していたことからも、移民に対する考え方やその政治姿勢は保守思想といえる。極右とともに連立政権を組み、オーストリアで10年続いた保革大連立に終止符を打ったクルツ氏。 保守的な姿勢に対して、オーストリアの若者からは絶対的な支持を得ているものの、ブレグジットなどで大きく揺れる欧州において、排外主義やポピュリズムの広がりを警戒する欧州指導者たちの間で、最年少指導者の言動に懸念が広がっている。
こうした自国主義の流れは、2017年まで5年間連続して上昇していたオーストリアの失業率など、将来への不安から特に若い世代たちの強い声が影響しているといえる。国民の現状に対する不満の声をもとに、若い政治家がそのカリスマ性と手腕をもとに自国の立て直しを図ろうとする動きは、時代と社会的背景が生んだ現象なのかもしれない。
日本においても、失業率などの雇用や将来の不安に対して強いビジョンや改革を示す政治家が現れてくるのだろうか。移民に関しても、日本では4月に改正された入管法の問題で大きな論争が起きるなか、現政権はいまだ「移民政策」という表現はあくまで使っていない。しかし、今後ますます移民を含む外国人労働者の問題に日本も向き合っていかなければいけないなか、移民問題と真正面から向き合う時代と社会的な動きがでてくるはずだ。そうした時に、排外主義を取るのかそれとも移民も含めた多様な人種を受け入れる国となるのか。私たちが直面している足元の問題と向き合い、オーストリアで起きている現実や現象を参照しながら国内の政治について考えていかなければいけない。
母として女性として、新たな政治の姿を示す敏腕首相
前述のオーストリア・クルツ氏の史上最年少首相就任と同時期の2017年10月、ニュージーランドの首相に就任したのは37歳のジェシンダ・アーダーン氏で、女性かつ30代の首相就任となった。また、同国で女性首相が誕生するのはこれで3人目だ。
2017年9月に行われた議会総選挙を経て、同年10月にニュージーランド・ファースト党のウインストン・ピータース党首は労働党と連立政権を樹立。閣僚経験のない労働党党首のアーダーン氏が同国最年少の首相となった。
アーダーン氏は大学卒業後、労働党に入党。インターン生としてヘレン・クラーク元首相やフィル・ゴフ元労働党党首の事務所で勤務。その後ロンドンに渡り、インターン生としてトニー・ブレア元首相の事務所で勤務した経験を持つ。
2008年の総選挙に立候補し、一度は落選したものの比例代表制による復活当選で見事国会議員となる。2011年、2014年と3期連続当選後、2017年2月に労働党元党首のデビッド・シアラー議員の政界引退に伴う補欠選挙に立候補し見事4期目を当選。2018年3月に労働党副党首となる。同年8月、支持率低迷を続ける労働党は総選挙における与党国民党の優勢を打開する手立てとして、党のイメージ刷新のためアーダーン氏を選挙直前に新党首に任命。党勢を巻き返し、選挙戦を国民党との接戦にもつれ込むまでとなった。そして同年10月に首相就任と、一気に政治家の階段を上り詰めた人物だ。
首相に抜擢されたアーダーン氏は、TPPの再交渉や2050年までのゼロカーボン目標や排出権取引制度の強化、気候変動における海面上昇問題に直面する太平洋諸島の島民に向けた「気候変動難民ビザ」設立を目指すなど、将来の社会課題に対する先手を打つ政策を展開。その政治的な手腕と先見の姿勢に、女性票のみならず「強くて若い女性首相」を支持する若者から高齢者まで幅広い支持を獲得している。
同氏を世界で一躍有名にしたのが、就任直後の2018年1月での妊娠の公表、そして2018年6月から約6週間の産休取得であろう。歴史上、過去に首相が妊娠したことは一度だけある。1990年パキスタンのベナジル・ブット首相が在任中に子供を産んだ際は、同首相の反対勢力が妊娠を理由に首相解任要求を迫ったため同氏は産休を取らず即座に復帰した。そのため、世界で二人目の在任中の出産となったアーダーン氏は、世界初の産休を取得した首相となった。
産休中はピーターズ副首相が日々の業務を代行するも、安全保障問題など主要な問題に対する意思決定には引き続き携わり、休暇中も書類に目を通したという。2018年7月、出産まもないアーダーン氏は「ファミリー・パッケージ」と呼ばれる新しい家族向けの経済優遇政策を発表。自宅で子供を抱きながらSNSのビデオ通話で説明を行い、これからの時代の家族を支える大規模な福祉改革であることを伝えた。パートナーのクラーク・ゲイフォード氏とは事実婚関係にあるが正式な結婚はしておらず、アーダーン氏の公務復帰後はゲイフォード氏が子育てに専念するなど、これまでの家族観や社会通念を首相自らが覆したことも大きな話題を呼んでいる。
産休明けの2018年9月、アーダーン氏は史上初めて赤ちゃんを同伴して国連に出席した首脳となった。国連のスピーチではアメリカ・トランプ大統領の自国主義を批判し、世界のリーダーに思いやりと協力を求めるスピーチを行った。また、パートナーが子供を抱く姿がニュースやソーシャルメディアを介して世界中に発信され、その政治的姿勢と行動から一躍世界で注目される人物となった。
アーダーン氏は、出産や産休、パートナーとの関係性などの一連の振る舞いと、これらを好意的に自国が取り上げている出来事を「国としての成熟ぶりを表すものであり、キャリアと家庭の組み合わせを女性自らが自由に選択できることを受け入れていることの証だ」と話し、自らが先陣を切って行動することで自国のジェンダーギャップを埋めていくことをロールモデルとして示そうとしている。
ニュージーランドの受入難民数を年間1500人から2020年には2000人と発表する移民政策や、議員の給料据え置き、有給育児休暇の期間延長の発表など、人としての尊厳や人権問題、子育てや家族支援、マイノリティーに対する保護といった政策を積極的に打ち出している。その政治的姿勢に、これまでの男性政治家のスタイルとはまったく違った存在であることを印象づけている。
モスク銃撃事件への対応で発揮した慈愛とリーダーシップ
2019年3月15日に起きたモスク銃撃事件では、事件後すぐに死者が2人出た学校を訪問し、仲間を亡くした生徒らを見舞った。犯行の目的に容疑者の男が悪名を轟かせようとしたことを受け、望みを叶えさせないように今後一切容疑者の男の名前を口にしないと述べ、「人の命を奪った男の名前ではなく、命を失った人たちの名前を声に出してほしい」と悲しみにくれる国民に寄り添う言及を行った。
その後、モスク銃撃事件で使われた半自動小銃を対象とした銃規制の法改正を発表。禁止された銃器の買い戻し計画を整備し、規制強化による駆け込み需要を阻止する対策も実施すると説明。買い戻し計画のコストに1億から2億NZドルもの莫大なコストがかかるのを「コミュニティーの安全のために必要な金額」と述べ、哀悼の精神と迅速な規制対応の両面が評価されている。
新しい時代にふさわしい価値観と行動力、30代という若さ、そして母親になったばかりというアーダーン氏。母として、女性としての立場とともに多様な人種や立場の人を守るための政策立案の数々、そして政治家としての手腕も相まってニュージーランド国内にて圧倒的な支持を集めている。
日本では、いまだ政治家の女性首相は誕生していない。さらにいえば、2018年5月に政治に女性の声を反映させようと、男女候補者均等法が全会一致で可決したという状況であり、女性議員比率も先進国で最低を記録。WEF(世界経済フォーラム)が公表した「ジェンダーギャップ指数2018」において110位でG7最下位だ。特に政治と経済の分野におけるジェンダーギャップに対し強い批判が集まっており、いまだ日本の政治は男性中心な世界といわざるをえない。
結婚や子育てといった家族政策は、女性がもっと活躍しながら、女性ならでは声が政治に反映されることで、働きながらも子どもを生みやすい社会、子どもを育てやすい社会になることにもつながるはずだ。女性の政治家がもっと増え、自らロールモデルとして姿勢を示す人が増えることと同時に、男性も女性もこれらの問題に対して向き合っていくことが今後ますます求められてくる。世界的にもジェンダーギャップの問題に注目が集まるなか、ニュージーランドのアーダーン首相の活躍は、世界の、そして日本の政治における一つのロールモデルとなるはずだ。
- 文:江口晋太朗
- 編集者/ジャーナリスト。1984年生まれ、福岡県出身。THE BRIDGEの立ち上げや雑誌「WIRED」の編集などを経て、現在は編集ディレクション、デザインファームTOKYObeta 代表として、「都市と生活の再編集」をテーマにコンセプト設計や企画プロデュースなどを行っている。著書に 『日本のシビックエコノミー』『ICTことば辞典』『パブリックシフト』などがある。Twitter(外部サイト):@eshintaro