2019.04.26.Fri

「政局から政策」の時代へ

新時代政党へ移行のチャンス

いま世界の政治は混迷を極めている。各地で排他主義が進み、極右政党が台頭し、一方でそれに対抗するように左派のポピュリズム(大衆迎合主義)が広がっている。その中で日本の政党政治はどうなっていくのか、そしてどうすればいいのか。そもそも日本ではこれまで、広く有権者を組織した「近代政党」はあったのか。政策研究大学院大学教授(現代日本政治論)の飯尾潤氏に聞いた。

20世紀型政党 社会変化に追いつかず

――世界の枠組みが急速に変わる中で、日本の政党政治は旧態依然のまま、近代化が進んでいないのではないでしょうか。

飯尾 近代化と言いますが、実は世界の「近代政党」はいま苦境に立っています。20世紀型の政治が社会の変化に追いつかなくなってきているのです。つまり、社会集団を基礎に有権者を広く組織した「近代政党」が競い合う政党政治が、欧州でも米国でも機能しなくなってきています。

飯尾潤教授

飯尾潤(いいお じゅん)。1962年生まれ。東大卒。埼玉大助教授などを経て2000年より現職。米ハーバード大客員研究員、政府の東日本震災復興会議検討部会長などを歴任。主な著書に『改訂版 現代日本の政治』(放送大学教育振興会)、『日本の統治構造』(中公新書)など(撮影:鈴木毅)

――社会と政党の関係が変わっていると?

飯尾 いま「民主政」は大きな曲がり角を迎えています。リベラルデモクラシー(自由民主主義)が試されているのです。

政党は、社会と国家をつなぐものです。国家の統治に対して、人々が選挙などで参加する。それをつなぐ機能が政党です。20世紀は、人々が宗教、階級、あるいは考え方などによってグループに分かれる「集団の時代」でした。政党は労働組合や経営者団体、宗教団体といった集団を束ねて、それぞれ独自性を出して競い合っていた訳です。

ところが、21世紀に入り、インターネットの普及などによって世の中のネットワーク化が進むと、人々はもっと多様な役割を果たすようになりました。労働者であり、消費者であり、あるいは仕事とは関係ない意見を持っていたり、他地域の人たちとの意外なつながりがあったりする。労働者だから労働組合、この宗教だからこの政党といった単純な図式で割り切れなくなってきたのです。そのため、集団を前提にしてきた既存の政党の力が弱まっています。

――とはいえ、新しい政党の形は見えてきません。

飯尾 近代化された欧米の政党の枠組みは強く、その"入れ物"を使って形だけ変えて続けているのがいまの状況です。人々が分かりやすさを求めて極端化してしまい、それが政党を乗っ取ったのです。

米国では、共和党にトランプ大統領が生まれ、民主党に独立系で社会主義色の強いバーニー・サンダース上院議員が現れた。言ってみれば、オバマ大統領の誕生が白人至上主義者を刺激し、リーマンショックなどで問題になったカネ持ち優遇措置が左派の意識を先鋭化させたのです。

米国のトランプ大統領

米国のトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

"古い"日本の政党にチャンス

――日本の政党では、そこまでの変化は起きていません。

飯尾 逆説的ですが、それは日本の政党が古いからです。日本の政治は20世紀型の近代政党にもなっていない19世紀型の状態です。いまだ政治家の個人商店の集まりで、ただ参入障壁が高いから生き残っている。一方で、日本における20世紀型の近代政党である共産党と公明党も、その組織力が弱っているのは自明です。

――その"古臭い"日本の政党政治は盤石に見えます。

飯尾 ただ、日本の有権者はもうすでに新しくなっています。昔ながらの後援会型の選挙に左右される人はだんだん減ってきて、むしろ「政党ラベル」で投票しています。民主党政権の負の記憶から、ただ反射的に自民党に入れている訳です。1990年代は無党派層などと言われましたが、いまは無党派どころか、党から党へと行ったり来たりしている。もはや人は一つの党にはまりきらなくなっています。自民党の支持率が高いのは、ほかに有力な選択肢がないからです。

もっとも、日本の政党は、欧米のように近代化された"固い殻"がない分、新しいチャレンジができる可能性があると思います。なにかイノベーションがあれば、新時代の政党の形へ移行できるチャンスがあるのです。

国会議事堂内にある衆院の議場

国会議事堂内にある衆院の議場(写真:AFLO)

「政局より政策」の時代が来る

――それは、どういう形ですか?

飯尾 明確なモデルはありません。ただ私が気づいているのは、NPO活動や災害ボランティアだけでなく、日常の身の回りのことをより良くしようという地域の活動が、昔に比べてずいぶんと盛んになりました。恐らく、そのネットワークなんです。そうした政策実現運動がネットワークによって連合体になり、それが政党になる、という形です。

つまり、まずは地方の身近な課題、みんなが変だと思っていること、おかしいと思っていることを議論する場ができ、そうした議論の場が集まったプラットフォームが政党になる。そして、政治の根幹である民意の集約の機能を果たすのです。

――政策によって集まった人々の「塊」が政治を動かしていくのですね。

飯尾 そうです。政局の時代から政策の時代が来るということです。そこで重要なのは、実は「実現」ということよりも「議論」の場としての機能です。それぞれの場のリーダーたちが政治との接点を持ち出したときに新しい融合ができるでしょう。それが明確にどういうものかは、まだ私にも分かりませんが。

飯尾潤教授

(撮影:鈴木毅)

日本が新しい政党政治の先頭に

――少数政党が乱立する欧州の状況とは違うのですか?

飯尾 あれは、すぐに政党にしようという方向にいったから間違いだったのです。政権を獲ることを考えれば、政党は総合性がなければなりません。シングルイシューでは、気持ちは一つになっても妥協ができず、ほかと協力ができなくなってしまう。

――いま日本に、その芽は出てきているんでしょうか。

飯尾 地方でさまざまなことをしている人たちの動きを見ていると、それはすでにありますね。そういう人たちが確実にいます。いま地方議会の選挙は無投票が増え、議会の崩壊が始まっています。そこに新しい動きが入っていく「隙間」ができる。ただ、すぐに政治家になるのは時期尚早です。政治家にならない人が100人いて、ようやく1人なるくらいでないと。

――その段階を経るためには、膨大な時間が必要になりそうです。

飯尾 欧米の近代政党が時代に合わなくなってきたのも、この10年の話です。有権者の空気感の変化は激しい。変わるときは急ですからね。誰かがそこそこ成功したら、既存の政治家も雪崩を打って動き出すと思います。

もう20世紀型の組織では成り立ちません。欧米の政党政治が停滞しているいまこそ、日本がその先頭に立って次の段階にいくべき時がきているのです。

取材・文:鈴木毅(すずき つよし)
1972年、東京都生まれ。慶應大学法学部卒、同大学院政策・メディア研究科修了後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」副編集長、「AERA」副編集長、朝日新聞経済部などを経て、2016年12月に株式会社POWER NEWSを設立。

#03 若き政治家は未来をいかに描くか?

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