令和時代の政治家に必要な「リーダーシップ」とは

2019.04.24.Wed

竹中平蔵氏が斬る

令和時代の政治家に必要な「リーダーシップ」とは

経済学者の竹中平蔵氏(68)。小泉政権で経済財政政策担当相や総務相などを務め、2006年に政界を引退するも、第2次安倍内閣で「産業競争力会議」の民間議員としてふたたび、政治の世界へ。2016年には未来投資会議(議長・安倍晋三首相)の民間議員となり、規制改革の推進役を担う。政治を知り尽くした屈指の論客が、政治のリーダー像を説く。

── 今日のテーマは、未来の政治家に求められる「リーダーシップ像」です。竹中さんは以前から、あらゆるリーダーに求められる資質として、日本古代史に大胆な仮説を展開したことで知られる哲学者の梅原猛さんの言説を引用されています。

竹中 リーダー論というのはいろいろな立場の人がいろいろな体験に基づき、さまざまなことを言っておられるのですが、共通する資質として、梅原猛さんが『将たる所以(ゆえん)』という名著で指摘されていることは、すごく重要だと思うんです。

彼は日本史の学者なので聖徳太子以降のいろいろなリーダーを淡々と書いているんだけども、そこから「3つのエッセンス」が浮かび上がってくる。私はまさに、それこそが未来の政治のリーダーに求められる「将たるゆえん」だと前から思っています。

一つ目は、未来を洞察する力を持たなければいけない。いろいろな人がいろいろなことを言うわけだけども、結局は、世界について、日本について、人々の生活について自分の頭で深く洞察し、自分自身が築いたマイストーリーで未来を描ける力がなければいけません。

竹中平蔵さん

未来を見通す「洞察力」

── 今の政策課題に照らすと、具体的にはどういうことなのでしょうか?

竹中 私は、安倍晋三首相も出席する「未来投資会議」の民間議員を務めています。毎回、20人くらいが集まって議論をするのですが、つい先日、遡上(そじょう)に上がったテーマにおいても、まさに洞察力の必要性を感じました。

今、地方における事業統合が問題になっています。例えば、地方ではバス会社が赤字で困っているということで、バス会社同士の統合を認めてくれと。ところが、公正取引委員会(公取委)はそれに対して、地域での寡占が進むということで反対しています。

同じように、地方銀行も今のような低金利政策の中で苦境に陥っている。だから、地銀の合併を認めて、体質強化をさせてくれと。それに対して、これは実際に九州でありましたけれども、公取委が2年間もイエスと言わなかったわけです。実際は合併するんだけれども、ものすごく厳しい条件を付けて決まりました。

形式的なマーケットシェアだけではなく、地方の実情や実態に基づいて議論すべきだということで、未来投資会議において、公正取引委員長を呼び、意見を申し上げる機会がありました。私も公取委がもっと柔軟な判断をしていくことは必要だと思います。思いますが、でも、よく考えてみたら、本当にそれだけでいいのか、と思うんです。

竹中平蔵さん

前提や枠組みを変えていくのが政治家の仕事

── 問題の本質はそこではない、と。

竹中 要するに、交通各社は赤字路線で悩んでいる。しかし、会社がつぶれたり、路線が廃止されたりすると、地域住民やお年寄りは困ってしまう。なので、合併を認めましょう。というのは、一見、もっともらしいですよね。でも、そういった対症療法を考えることが政治のリーダーのあるべき姿なのでしょうか?

公共交通機関がなくなって困るのは、なぜなのか。それは、「Uber(ウーバー)」のような民間のライドシェア(乗り合いサービス)を認めていないからです。認めていれば、地方の赤字路線や、公共交通機関の減少について、今ほど問題にはなっていないでしょう。

ライドシェア大手ウーバーのロゴ(写真:ロイター/アフロ)

ライドシェア大手ウーバーのロゴ(写真:ロイター/アフロ)

バス会社が赤字のまま乱立して生き残っているのは、なぜですか。それは、補助金を出しているからなんです。補助金を出して延命させ、一方でライドシェアのような新規参入を認めないから、自然淘汰も革新も進まない。

「困っているから公取委を何とかしろ」というのは、霞が関の役人の発想としてはいいのですが、政治家、とりわけリーダーの仕事ではない。時代を見通し、大きな枠組みの中で前提を疑ってかかり、その前提や枠組みを変えていくことが政治家の仕事なんです。

竹中平蔵さん

日本だけが世界最大の成長産業を見逃した

── ライドシェアに関して補足をお願いします。欧米でもアジア各国でも庶民の足としてすっかりと定着しました。サラリーマンも、政治家も、官僚も、海外出張に行けば当たり前のように使う時代ですが、日本では相変わらず「解禁」されません。

竹中 未来投資会議はライドシェアの活用を拡大させるべく努力しており、今年3月には公共交通の「空白地」に限り、道路運送法を改正して、導入していく方針を示しました。ですが、おっしゃるように、現状のファクトとしては日本での活用はまったく進んでいません。

視点を変えると、過去7〜8年で世界最大の成長産業は何だったかと聞かれれば、間違いなくライドシェア産業です。世界最大手である米ウーバーは、5月に上場予定ですが、その企業価値は11兆円とも言われています。中国最大手の滴滴出行(DiDi)の時価総額もウーバーに肩を並べる勢いです。

トヨタ自動車の時価総額は約22兆円ですから、その半分の価値がある企業が2つもできた。シンガポールでもインドネシアでもライドシェア産業が成長しています。でも、日本だけが「成長戦略」と言いながら、世界最大の成長産業を見逃し、手をこまねいているわけです。

滴滴出行(DiDi)のロゴ(ロイター/アフロ)

滴滴出行(DiDi)のロゴ(写真:ロイター/アフロ)

「国民のため」「当選したい」のはざまで

── なぜ日本の政治家は、ライドシェアの解禁に向けて行動に移せないでいるのでしょうか?

竹中 これは、マイカーによるライドシェアの解禁に対して猛烈に反対するタクシー業界の圧力に、日本の政治家が勝てない、ということに尽きます。

何が起こっているのか。例えば、私が未来投資会議で「ライドシェアを認めるべきだ」と言うと、それを取り上げて、与党の議員が「民間議員の竹中がこんなことを言っているけども、まさか認めないだろうな」と国土交通省に迫るわけ。それで国土交通省は、「いや、そういうことは特に考えておりません」と国会で答弁するんです。

竹中平蔵さん

── そんなにタクシー業界が怖いんですか、政治家は。

竹中 怖いんでしょう。要するに、どの選挙区にもタクシー業者がいますから。これはひとつの例ですが、兵庫県養父市の広瀬栄市長はすごく革新的な方で、例えば、条例によって株式会社でも農地を51%以上所有できるようにした、ただひとりの市長です。もともとライドシェアの導入に前向きで、養父市は昨年、国家戦略特区としてマイカーによるライドシェアの試行を始めましたが、これを阻止しようとする動きがありました。

再選に挑んだ2年前の市長選では、タクシー業界が対立候補を支援した結果、広瀬市長は辛勝したものの、相当に苦戦した。これが実際に起きていることなんです。

政治家には、国や国民のために働きたいという核と、当選したいという核、2つの核があると言われています。皆さんそのはざまにいて、選挙が近づくほど後者に近づいていく。だから皆さん、とにかく参議院選挙まではライドシェアと言ってくれるなと党に言っている。それが政治の現実です。

竹中平蔵さん

半分以上の国が、政府の役割を見直し

── まさに今、世界はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット化)による産業構造の変化、いわゆる「第4次産業革命」に突き進んでいます。そうした非常に大きな転換期で、日本もあらゆる枠組みを変えていかなければなりませんが、政治家は目の前の選挙が心配で、近視眼的になってしまっているということですね。

竹中 その通り。過去2年に101の国が政府と民間の役割分担を見直したと、「UNCTAD(国際連合貿易開発会議)」が指摘しています。国連に加盟しているのは193カ国。だから、世界の半分以上の国が規制緩和を進め、今まで政府がやってきたことを民間に委ね、一方で大きな時代の変化に対応すべく政府の役割をある意味で強化している。

そういう大きな枠組みの変化が世界規模で行われているという問題意識が、政治家に求められています。短絡的に目の前の課題を何とかしましょう、というのではなく、視座を広げ、高め、マイストーリーで世界経済を描き、地域を描き、日本を描き、人々の生活を描く。つまり、それが政治家にとって、洞察するということなんだと思います。

カリスマ性をまとった「語る力」

── リーダーに必要な2つ目の素養として、梅原さんは「説明する力」を挙げています。

竹中 これは今で言う「アカウンタビリティー」や「説明責任」も包含しますが、政治のリーダーたる者は、多くの人を巻き込まなければいけない。そのためには「語る力」がないといけません。私が小泉純一郎元首相と一緒にやっていたときも、世論はすごく気になりましたけれども、今はまったく次元の違うSNSを通じた世論形成がある。そういうものに打ち勝つくらいの、ある種のカリスマ性をまとった語る力が必要なんです。

小泉さんのときだって、新聞に書いてあることを国民がすべて信じていたならば、支持率は50%ではなく5%だったと思うんです。でも小泉さんは、そういうものを超えた説得する力を持っていた。それがあの2005年に衆議院を解散した直後の「郵政解散」の記者会見ですよ。もうすごい迫力というか、国民へ語る力にカリスマ性が現れていた。それがないと、未来のリーダーは務まらないと思いますね。

竹中平蔵さん

── それは、天性の先天的なものなのでしょうか。それとも、努力すれば後天的に身に付くものなのでしょうか。

竹中 ある程度は先天的で、ある程度は後天的な部分もあるでしょう。ある民主党のテレビコマーシャル(https://www.youtube.com/watch?v=QbdESj3_XUs (外部サイト))に言及した小泉さんの言葉が忘れられません。

当時、民主党の党首だった小沢一郎さんが船の舵(かじ)を握っていて、嵐で吹き飛ばされる。それを鳩山由紀夫さんと菅直人さんが支えるというCMです。自民党の議員は、「船長は舵を離しちゃいけないんだよ」と批判した。でも小泉さんはまったく違うコメントをしました。

「政治家は演技をしちゃいけないよな」と。素で語っているから迫力があり、カリスマ性が出るんです。繕っていないから。そこは、後天的に身に付けられる部分でしょう。ひとつの典型的な、分かりやすい説得力のあるリーダーの在り方だと思います。

組織を動かす「人脈」

── 3つ目は、「組織を動かす力」ですね。

竹中 そうです。梅原さんの言う組織を動かす力というのを政治に当てはめて解釈すると、私はやっぱり「人脈」だと思います。これは、派閥とかそういうことではない。リーダーの洞察力、リーダーの説明力、そういうものを助けるための人脈を持っているかどうか。

── それは小泉さんにおける竹中さんを指すのでしょうか?

竹中 私とは言いませんが、この問題はこの人が言うことが正しいと思えるような、自分が頼りにできる人脈を培い、耳を傾け、学ぶということが、極めて重要だと思います。ただし、無駄な人の話を聞いても仕方がありません。

ベンチャー企業が台頭してきた1970年代、私の恩師の1人である佐貫利雄という人が大企業を批判する言葉として「バカは何人寄ってもバカである」と言いましたが、私も本当にそう思います。無駄な本をいくら読んだって、ダメなんです。

2004年7月の参院選で当選し、小泉元首相(左)と握手する竹中氏(写真:ロイター/アフロ)

2004年7月の参院選で当選し、小泉元首相(左)と握手する竹中氏(写真:ロイター/アフロ)

── 無駄を排除し、自分の助けとなる人脈を形成するにはどうしたらいいのでしょうか?

竹中 私は3つの要素がぜんぶ関連していると思うんですね。つまり、未来を見通して問題意識を持って洞察し、かつ、語る力を持って自分の考えやビジョンを伝えながら人に接していれば、自ずと「この人は助けになる」ということが見えてくる。

もう、三角形なんです。そこに加えるならば、「川を上り、海を渡れ」。例えば、問題意識を持って本を読み、「これは面白そうだぞ」と思ったら、筆者は他にどんなものを書いているか、あるいは、参考文献はどんなものなのか、川を上るようにたどっていく。そして、語学力を身に付け、海外で何が起きているのか、自分の目で、耳で知る。その鍛錬を怠らなければ、人脈の選球眼も養われていくと思います。

竹中平蔵さん

夢と勇気とサムマネー

── ビジョンも語る力も人脈もある。しかし、いざ実行しようとしても、さまざまな抵抗勢力に遭ったり、先程の話では、選挙が怖くてすくんだりしてしまう政治家が多いという指摘でした。アドバイスはありますか?

竹中 それはもうただ一つです。辞める覚悟を持てと。かつての教え子もよく、「会社でこういうことをやりたいんだけれども、上司が分かってくれない」と相談に来るんです。私はいつも同じことを言う。簡単だと、辞めてしまえと。

ただし、住宅ローンを抱えていたり、子供がいたりすると、若干のお金の蓄えは必要です。だから、「夢と勇気とサムマネー」。これは、チャップリンの言葉ですが、ビジョンと、辞めてもいいという勇気と、それからビッグマネーじゃなくていいからサムマネーです。

余談ですが働き方改革に関するある会議で、未来投資会議で一緒に民間議員をやっているディー・エヌ・エー会長の南場智子さんが、「皆さん一度、転職してみたらいいんですよ」とおっしゃっていた。本質を分かっておられるなと思いました。

竹中平蔵さん

政治家こそ新陳代謝を

── 竹中さんは民間人として閣僚を経験後、2004年の参院選で約70万票を獲得し、自民党の比例代表でトップ当選をしましたが、2006年に任期を4年近く残し、政界を引退しました。これは、辞める覚悟と関係していますか?

竹中 もちろん、常に辞める覚悟はありましたが、実はすぐに辞めた理由は、政治の世界こそ人が入れ替わるべきですし、貸し借りをつくっちゃいけないという思いがあったからです。政府が動かせるお金の額というのは民間とは桁違いであり、国会議員は国権の最高機関のメンバーですから、すごい力を持っているわけです。

── 2019年度の一般会計の歳出総額は100兆円を超えましたね。

竹中 だからこそ、政治家として政権に長期的に滞在するのは、私は民主主義の力をそぐと思った。やっぱり企業と一緒で、新陳代謝が必要です。そもそも私は、民間人としての閣僚から数えれば5年5カ月もやったことになるので、もう辞めようと。

── 政治家のリーダーに必要な3要素がある中で、竹中さんはどれを備えていると自己評価されていますか?

竹中 まず、私は一学者ですし、政治家になりたいと思っていたわけでも、リーダーでもありません。その前提で、こういう社会をつくりたいというビジョンはありました。そぎ落として分かりやすく説明する力もある程度はあったと思います。ただ、人脈を形成して組織をつくろうとか、そういったことは意識したことがないですし、3つ目は弱いんじゃないかなと思います。私は嫌な人とは付き合いませんし(笑)。

これも余談ですが、小泉さんっていろいろなことを言っておられたな。その2日後に、小泉内閣が終わるという日に、総理公邸の夕食会に呼んでくれたんです。終わった後、小泉さんは「これでもう嫌なやつに会わないで済むな」とニコニコしながら言っていました(笑)。

首相時代の小泉純一郎氏=2001年6月(写真:Getty Images)

首相時代の小泉純一郎氏=2001年6月(写真:Getty Images)

「リーダーシップデモクラシー」へ

── 30年後を見据えて、というのがこの「Future Questions」の趣旨です。これまで、政治のリーダーシップ論を一通り伺いましたが、30年後に求められるリーダーシップと、今との大きな違いは何だと思いますか?

竹中 今まではやはり、みんなの合意を取りまとめる、コンセンサスに基づいたタイプのリーダーが比較的好まれてきました。でもたぶん、これだけ動乱の時代になってくると、コンセンサス型ではなく、「指導者民主主義」のカラーがもっと強く出てくる。こうしようではないか、私はこう思う、皆が嫌だったら私は辞める。そういうタイプの強い主張を持ったリーダーにどうしてもなっていくと思いますね。

これはちょっと教科書的だけれども、農耕社会のリーダーというのは、みんなで水を分け合わなきゃいけないのでコンセンサスを重視した。遊牧民というのはどっちの方向に水があるか探さなくてはならず、最後は一人が判断しなければいけなかった。だから斥候(せっこう)を放ち情報を集め、それに基づいてリーダーが判断し、皆はその人に従うと。日本はどちらかと言えば農耕型に近かったんだけれど、今はだんだん遊牧民型に向かっているということだと思います。

竹中平蔵さん

── ただ、現実には「落ちたくない」と選挙に拘泥してしまう政治家が大半の状況で、政治家の質は本当に変わっていくのでしょうか?

竹中 変えられるのは、民しかいません。福澤諭吉が言った通りです。国民の民度を超えた政治はあり得ない。変な政治家がいたとしても、それを当選させているのは国民の皆さんの投票行動なんです。だから、国民が賢くなるということがまずベースにないといけない。

ただ、鶏卵論のように聞こえてしまうかもしれませんが、民の意識を変えられるのは、実は政治のリーダーなんです。国民は善意でイノセントな存在であり、毎日忙しく生活しています。ライドシェア産業はどうあるべきか、そんなことを考えている暇はない。

だから、「反対している人もいるけども、世界ではこうなっている。こうしようではないか」と呼びかけるのが、政治家による民主主義なんです。民主主義というのはみんなの意見を聞くのではなく、リーダーがこうしようではないかと言うところから始まる。つまり、民主主義というのは「リーダーシップデモクラシー」。御用聞きじゃないんです、政治家は。

── 国民に耳を傾けながらも、強い意志を持って、辞める覚悟を持って、いい世の中に導いていかなければいけないわけですね。

竹中 そうです。だから、自分の頭で洞察してビジョンを掲げ、それを高らかに語り、辞める覚悟を持って、人脈を駆使して実行していく。私はこう思うと、私はやめると、郵政民営化のときに小泉さんは言ったわけです。政治家というものは、本来そうでなければならないと私は思います。

取材・文:井上理(いのうえ・おさむ)
フリーランス記者。1974年静岡市生まれ。1999年慶応義塾大学総合政策学部卒業、日経BPに入社。以来、IT・ネット業界やゲーム業界の動向を中心に取材。「日経ビジネス」編集部などを経て、2010年日本経済新聞に出向。2018年4月、独立。著書に『任天堂 "驚き"を生む方程式(日本経済出版社)』『BUZZ革命(文藝春秋)』
写真:三浦えり

#03 若き政治家は未来をいかに描くか?