「躍進するアフリカ、20年後は?」

2019.10.09.Wed

イベントレポート

「躍進するアフリカ、20年後は?」

Future Questions(FQ)は8月26日、特集企画「躍進するアフリカ、20年後は?」に連動したイベントを、ヤフー本社のオープンコラボレーションスペース「LODGE」で開催した。

アフリカでは、サブサハラ地域(サハラ砂漠以南)を中心に人口が急増中。2040年までに生産年齢人口が中国やインドを上回り、世界経済の中で存在感が大幅に増すとの予測もある。

今回はアフリカで活動する起業家、寺久保拓摩さんと合田真さんをお招きして、自身のビジネスや、20年後のアフリカが秘める可能性について語っていただいた。モデレーターは、イベントを共同主催した株式会社ドットライフの新條隼人社長が務めた。

その後、ゲスト2人が各テーブルを回りながらイベント参加者と意見交換したり、参加者同士が交流したりした。アフリカ滞在経験のある参加者も多く、会場のあちらこちらで白熱した議論が交わされた。当日の様子をレポートします。

【ゲスト】
・寺久保拓摩さん(株式会社サムライインキュベートアフリカ・代表取締役社長)
・合田真さん(日本植物燃料株式会社・代表取締役社長)

【モデレーター】
・新條隼人(株式会社ドットライフ・代表取締役社長)

アフリカの未来を予測する3つの論点

イベントは、ゲスト2人が

①アフリカが注目される理由
②発展が期待される分野
③アフリカの20年後予測

という3つの論点について、それぞれの見解を語るところから始まった。

インフラビジネスに投資集中

――なぜ今アフリカが注目されているのでしょうか?

寺久保:5、6年前の東南アジアと状況が同じだからです。当時の東南アジアは交通インフラが整っていませんでしたが、経済成長への期待から投資が集中しました。その結果、今ではGrab(シンガポール)やGO-JEK(インドネシア)などの配車サービスが、創業10年以内に企業価値が10億ドルを超えるユニコーン企業へと変貌を遂げています。5年遅れて東南アジア同様の発展が予想されるアフリカには大きな投資チャンスがあると考えて間違いないでしょう。だから今、急速に投資額が増加しているんです。

特に投資が集中している分野はインフラですね。ゼロからインフラをつくっていくのは、今やアフリカでしか実現できないビジネスといえ、その点にロマンを感じるスタートアップが多いようです。

寺久保拓摩さん

寺久保拓摩さん。1991年、長野県生まれ。大学在学中、バングラデシュのグラミン銀行でマイクロファイナンス事業に従事、その後2014年にサムライインキュベートへ入社し日本・イスラエルを中心に多数のスタートアップ・大企業の事業立ち上げ、成長支援を経験。18年、アフリカのスタートアップを支援するベンチャーキャピタルを設立する。ケニア、ルワンダ、ウガンダ、ナイジェリア、ガーナ、南アフリカを中心に現地起業家への投資やインキュベーションを行う。19年6月から現職。

――インフラの整備は先進国と同様に都市部から地方へ広がっていくことが多いですか?

合田:そうでもないんですよね。例えば、私が働くモザンビークには10年前まで通信インフラがありませんでした。そんな場所で英大手通信会社が携帯電話の販売を開始し、早々に都市部に普及させることができました。数年後、ベトナムの通信会社が農村部を中心に、都市部よりも格安で携帯電話を販売開始しました。ほどなくして、都市部と農村部で通信キャリアが違うため、連絡が取り合えないという状況が生まれます。そこで、都市部の住民は農村部の格安携帯を買う余裕があるため、ベトナムの電話も買うという現象が起きたんです。その後、ベトナムの通信キャリアがモザンビークのシェア争いを制しました。

この例が示すように、インフラのソリューションの広がり方は一通りではなく、都市から広がることもあればその逆もあるんです。

合田真さん

合田真さん。1975年、長崎県生まれ。京都大学法学部を中退したのち、2000年に日本植物燃料株式会社を設立。バイオ燃料を製造・販売する事業をアジアで展開した後、アフリカ・モザンビークに事業を拡大。電気も銀行もないアフリカの農村で、村人がお金を土に埋めて保管している様子を見て、お金の管理にニーズを感じ、「電子マネー経済圏」をつくる事業を立ち上げた。最新刊に『20億人の未来銀行 ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る』(日経BP)

「不便」のない先進国では起こらない? 「リープフロッグ現象」

アフリカでは水道や電気など社会インフラが未発達な部分が多いなか、医療・金融などの分野では先端技術を用いて一足飛びにITビジネスが展開される「リープフロッグ現象」が起きている。

――今のアフリカで「リープフロッグ現象」が起きそうな分野は?

寺久保:金融業界ではすでに起き始めています。海外送金のスタートアップが良い例ですね。アフリカは海外送金できる銀行が少ないんです。だから、人々は海外に送金するために何時間もかけて銀行に足を運び、銀行で1~2時間行列に並ぶこともざらでした。また、一部の銀行が利益を独占しているため手数料もつり上がっていました。

そこで、SimbaPayというスタートアップがモバイルマネーで国家間をつなぎ、格安の手数料で海外送金できるサービスを始めました。何時間もかかっていた送金作業がたった17秒でできることから、あっという間にサービスは広がっていきました。銀行が目と鼻の先にあり、現状の送金システムに不便を感じにくい先進国では、このように爆発的に広がっていくことはないでしょう。

このスタートアップがうまいのは、既存の仕組みを壊しすぎないように配慮している点です。海外送金サービスの導入に当たり、現地の銀行と協業し口座の連携などを行いました。スタートアップが業界変革を起こそうとすると、法律でシャットアウトされてしまうケースがままあります。既得権益を持つ業界大手の企業と協調していく政治力もアフリカのビジネスで重要な要素のひとつなんです。

寺久保拓摩さん/合田真さん

合田:我々はしょせん外国人ですからね。現地の会社と競争しようとしたら負けて当然。いかに競合のいない独自のポジションを築くか、地元の有力者とパイプを作っていくかが大事ですよね。

「リープフロッグ現象」はミクロ規模でも起こります。うちの会社はバイオ燃料の販売を行っているのですが、もともと売り上げを現金で管理していました。すると、発展途上国でセキュリティーが整備されていないので、盗難などで毎年売り上げの3割くらいがなくなってしまうんですよ。これはまずいと思い、現金を扱わなくてよいように、電子マネーを導入しました。

これは我々自身のために導入したのですが、現地の方からも、農作物を売って得た現金を保管していると盗難にあったり、盗難を防ぐために土に埋めて隠しているとシロアリに食われてしまったりすることから、電子的に管理したほうが安全だと、導入することになりました。

最初はミクロな気づきでしたが、「ひょっとしたらみんなお金の管理に困っているんじゃないか」と思って調査し始め、現在の「電子マネー経済圏」事業の立ち上げにつながっていきました。「不便さ」は先進技術の導入を加速させると肌で感じた経験でしたね。

20年後、日本超す先進地域の可能性も

――20年後に向けて、アフリカはどう変わっていくでしょうか?

寺久保:単にモバイルで完結するサービスではなく、アフリカで暮らす人々の生活に根ざしてモバイルとリアルの融合を目指すビジネスが増えていくと思います。そのときに気をつけないといけないのが、民族対立です。例えば、ナイジェリアでは土地ごとに王様がいて、その数は約250人に上ります。サービスを浸透させる段階においては、土地の有力者を抑えて、民族間の対立をコントロールしながら進めていく必要があります。

ビジネスの仕組みをゼロからつくると、大きなパラダイムシフトを起こす可能性が出てきます。個人的には、アフリカで資本主義に代わる新しいビジネスのかたちをつくりたいです。正直、資本家が圧倒的に儲かる今の仕組みは時代に合っているとは言えないと思います。アフリカでは、企業が提供するサービスのユーザーもストックオプションを使えるような仕組みをつくり、関係者全員が恩恵を受けられるビジネスを展開していきたいです。

寺久保拓摩さん

合田:ものすごい速さで成長していくことは間違いないでしょう。かつてアフリカはODAなどによる「援助」対象地域でしたが、3年ほど前から「投資」の対象に変わり始めました。この3年間で成功事例もたまり始めているので、投資はますます加速していきます。投資が集まれば、新しい技術が次々と導入されていきます。既存のインフラがなく、抵抗勢力がないため、技術の導入速度は先進国の比ではないでしょう。このペースで進んでいくと、20年後は日本よりはるかに先進的な地域になっているでしょうね。

私は、アフリカにも日本の農協のような仕組みを導入したいです。日本に農協がつくられた歴史を振り返っても、グループ化したほうが企業、農家、消費者全員にとって得だからです。

アフリカビジネスへの挑戦

トークセッションの後は、「自分がアフリカでビジネスをするとしたら」「リープフロッグ現象を自分の職業分野で起こすとしたら」というテーマのワークショップを行った。参加者同士のディスカッションの輪に登壇者2人も加わり、アドバイスを送っていた。

寺久保拓摩さん

参加者の話に耳を傾ける合田さん

グループワークの後には、参加者から次のような意見や感想が出た。

男性参加者:アフリカではデジタルから流通が広がったということは新しい気づきとしてありました。また、1年前にセネガルの友だちを訪ねた際に、アフリカには文字のない言語がたくさんあるという話を聞きました。リープフロッグという言葉はきょう初めて知りましたが、文化の保全という観点からも、言葉とインターネットを絡めていくことで、そこから新しいものが生まれるのではないかと思いました。

別の男性参加者:私はケニアのナイロビ出身です。3年前に会社をつくり、フリーランスのかた向けのクラウドソーシングプラットフォームを開発しています。また、日本のエンターテインメントをアフリカに紹介するビジネスをしようと思って日本に来ています。きょうは、2人がアフリカでビジネスをやっていることを知りめっちゃ感動しました。アフリカはすごくポテンシャルがあるので、みんな遠慮なく一緒にアフリカに行きましょう。ビジネスしましょう。

登壇者らとの意見交換後、数人の参加者がイベントやアフリカの未来についての感想を披露した

「アフリカでチャレンジを!」

会の最後には、ゲスト2人からメッセージが。

寺久保:参加者と話していて様々な刺激をもらいました。日本人でアフリカで事業を起こす起業家が増えてきているんですよ。やっぱりいろんなハードルはあるのですが、そのぶん将来得られるものが大きかったり、難しいぶんの面白さみたいなものを感じながら事業をつくれればいいのかな、と思っています。

合田:日本でもそうですが、スタートアップをつくるとか、会社をつくることが特に格好いいという世界ではないと思っています。ただ、自分が「好きだな」とか、「これ面白い」って思うことの延長線上にアフリカで起業するということが出てくるかもしれない。寺久保さんにしろ、僕にしろその他にもアフリカでビジネスやっている方々がいるので、その時はみんな喜んでサポートすると思います。ぜひきょうみたいなつながりを生かしていただけると嬉しいなと思います。

経済発展を遂げつつあるアフリカの伸びしろはまだまだ大きいようだ。今回の企画を通して、読者やイベント参加者がアフリカに関心を持ち、ビジネスにつながるきっかけとなることを期待したい。

イベント参加者らに囲まれる寺久保さん(手前のテーブル右端)と合田さん(同右から3人目)

イベント参加者らに囲まれる寺久保さん(手前のテーブル右端)と合田さん(同右から3人目)

#05 躍進するアフリカ、20年後は?