2019.08.16.Fri

アフリカ発展のための4つの課題

巨大市場は「チャンス」となるか?

経済発展の時を迎えようとしているアフリカだが、目の前を見れば、まだまだ課題だらけだ。雇用、貧困、教育、医療、インフラ──。これらを乗り越えて、アフリカは世界が期待する巨大市場に成長することができるのか。ここでは、アフリカの大胆かつ安定的な経済発展のための「4つの課題」を考えたい。

東南アジアのような熱気

「本当に、腹が立つ。こっちの人間とミーティングの約束をしても、まず守られない。20年前からまったく変わらない」

今年2月、アフリカ東部ウガンダの首都カンパラ。街を見下ろす丘の上に立つホテルの喫茶店で出会ったスウェーデン人女性が、イライラしながら話した。何回か試みた後、電話に出たウガンダ人男性は「大事な用事が入ったから」と言い訳したという。

「だったら、なぜそのことを事前に伝えないのか。信じられない」

マラウイ北部の都市ムズズ

マラウイ北部の都市ムズズ。道路は舗装されておらず、一見「昔のまま」に見えるが、電気店の店頭にはソーラーパネルや衛星アンテナが並ぶ(撮影:渡辺嘉三)

変わってないな、と思う。

40年前、筆者が青年海外協力隊員として活動していたアフリカ南部のマラウイでも、同じようなことがあった。約束の時間に誰も来ない。ようやく集まってきたマラウイ人に不満をぶつけると、「そろうまで、おしゃべりできるからいいじゃないか」と言う。バスが何時間も来ないので心配になると、一緒に待っていたおばあさんが「あんたよりずっと前から待っているけれど、バスは来ていない。走り去るバスの後ろ姿を見るよりずっといいでしょ」と笑った。

ウガンダの首都カンパラ近郊のナンサナ村の裏通りにも「モバイルマネー」の看板が

ウガンダの首都カンパラ近郊のナンサナ村の裏通りにも「モバイルマネー」の看板が(撮影:渡辺嘉三)

しかし、当時とは決定的に違う点もある。街の発展と携帯電話の普及だ。カンパラの街は治安が安定し、車とバイクの多さ、市場の活気に、経済成長に沸く東南アジアのような熱気を感じた。携帯電話の販売店が林立し、主要道路には電話会社の大きな看板が連なっていた。ここでは配車サービスUber(ウーバー)が使え、料金を吹っかけられる心配もない。ホテルの予約もインターネット経由だ。

カンパラの中心街に向かう道は早朝から大混雑

カンパラの中心街に向かう道は早朝から大混雑。この車の多さは、以前には見られなかった景色だ(撮影:渡辺嘉三)

アフリカに経済発展の芽が出始めているのは間違いない。しかし、そこにはクリアすべき課題もある。ここでは、アフリカが発展する上で乗り越える必要がある項目を4つに絞って取り上げる。

①人口激増の潜在力とリスク

デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)でアフリカビジネス開発リーダーを務めるケニア出身のジェームス・クリアさんが、まず挙げるのは雇用問題だ。国連推計をもとにしたDTCの資料によると、アフリカの人口は2023年に中国・インドを抜くとされる。

「今後の爆発的な人口増、しかも若い世代が増え続ける魅力は大きい。消費・労働市場としての潜在力に世界は注目しています。ただ、若者の雇用がつくれなければ、人口増は逆にリスクになります」

ジェームス・クリアさん

ジェームス・クリアさん(撮影:鈴木毅)

アフリカ開発銀行の資料によると、15~35歳の若年人口は約4億2000万人でアフリカ全体の3分の1を占める。しかし、その大半は失業しているか、不安定な職、あるいは臨時の職に就いているという。しかも、毎年1千万人以上の若者が労働市場に加わるが、年間に創出される正規の仕事は300万程度だという。

今後のアフリカの雇用問題について、国際労働機関(ILO)は今年2月に公表した報告書で、「2020年までの予想経済成長率はこの急成長する労働力に対応する数の質の高い雇用を創出するには低すぎる」と指摘している。

コートジボワール・アビジャンにあるアフリカ開発銀行本部

コートジボワール・アビジャンにあるアフリカ開発銀行本部(写真:ロイター)

この難題を解決する"可能性"として期待されるのが、いまアフリカで起きているイノベーションの数々である。ケニア・ナイジェリア・南アフリカなどスタートアップ企業が勃興する地域を中心に、アフリカ経済全体がけん引されれば、膨大な若年人口はこれ以上ない「武器」に変わる。

②「統一市場」の必要性

現在の世界の国別人口は中国が約14億人、インドが約13億人で群を抜く。これに対してアフリカは、全体では約12億人だが、国別にみるともっとも多いのはナイジェリアの約2億人で世界7位。大半の国は3千万人未満だ。

ここにアフリカの一つの大きな課題がある、とクリアさんは言う。

「国の数が多く、一国ごとの人口は少ない。一つひとつの市場が小さいため、世界とのビジネスのテーブルにつきにくいのです。経済発展にはまず、地域が統合してASEAN(東南アジア諸国連合)のような形をつくり、規模の力を発揮していく必要があります」

エチオピアの首都アディスアベバの電車内

エチオピアの首都アディスアベバの電車内。エチオピアの人口は1億人を超すが、アフリカの大半の国は3千万人に満たない(撮影:久野武志)

アフリカ大陸はヨーロッパがほぼ3つ入るほど広い。北端は東京より北で、南はオーストラリアのシドニーより南まで広がる。そのなかに55カ国・地域(モロッコからの独立を目指す西サハラを含む)がひしめき、多様な言語の多様な民族が共存する。

地域的には、マグレブと呼ばれる地中海に面した「北部」はアラブとの結びつきが深い。「東部」は近年、ICT(情報通信技術)分野の発展で存在感を増すケニア、ルワンダ、ウガンダなどがある。

「西部」はギニアやセネガルなどフランスの旧植民地が多く、ナイジェリアもここに含まれる。さらに、経済大国の南アフリカを中心とした「南部」、カメルーンやコンゴを抱え"赤道アフリカ"とも呼ばれる「中部」──同じアフリカでも、これだけ違う。

アフリカでは、「市場の統一」に向けた動きが進んでいる

アフリカでは、「市場の統一」に向けた動きが進んでいる(写真:アフロ)

これまでのアフリカはヨーロッパの植民地として翻弄され、その後も地域ごとの利害がぶつかり、バラバラになりがちだった。それが、ここにきて経済発展のために不可欠な「市場の統一」に向けた努力が始まっている。

今年5月には、域内貿易を推進するためのアフリカ大陸自由貿易協定(AfCFTA)協定が発効。アフリカ連合(AU)に加盟する55の国と地域で関税を撤廃し、自由貿易圏をつくろうというもので、7月現在、54カ国が参加を表明している。国際通貨基金(IMF)は、このFTAが発効して諸条件が整備されれば、AUの域内貿易が最大で2倍に増えるとしている。

エチオピアの首都アディスアベバにあるアフリカ連合(AU)本部

エチオピアの首都アディスアベバにあるアフリカ連合(AU)本部(写真:ロイター)

③行き届かぬ「教育」と「医療」

国際協力機構(JICA)の吉澤啓・アフリカ部専任参事によると、農村部が多いサブサハラ(サハラ砂漠以南)でも小学校への就学率は8割に達するという。しかし、経済的な理由などから卒業できない子どもや、卒業したとしても、中学・高校に進学することができない子どもは少なくない。

「卒業率となると数字はガクンと下がるし、教育の質の問題もある。植民地時代に旧宗主国が実施していた教育からあまり変わっていません。カリキュラムは古いし、教師の質も低い。教室には70〜80人の子どもたちがいて、とても満足な教育ができる状況ではないのです」

何よりも最大の問題は、教育が雇用に結びついていないことである。たとえ大学まで卒業しても、「職がない」状況に変わりはない。まずは、ちゃんとした教育を受ければ相応の仕事があるという環境が整えば、教育水準も上向いていくだろう。

ICT立国をうたうルワンダでは、パソコンを導入した授業が始まった

ICT立国をうたうルワンダでは、パソコンを導入した授業が始まった。教育が職に結びつく社会基盤が整えば、経済発展への道筋が見えるかもしれない(写真提供:内藤智之さん)

医療についても、いまだにアフリカの多くの国で医療サービスが十分とはいえない状況だ。特に農村部には設備の整った病院も少なく、慢性的な医師不足に苦しむ。

国連児童基金(ユニセフ)や世界保健機関(WHO)などがまとめた報告書によると、2017年に死亡した5歳未満の子どもは世界で540万人、その半数がサブサハラ地域だった。サブサハラでは、子どもの13人に1人が5歳になる前に命を落としている。貧困問題、衛生問題ともつながる深刻な問題である。

④世界が注視するアフリカの食糧問題

そして、世界がいま何よりも危機意識を持っているのが、アフリカの食糧問題である。労働力の6割が農民だというのに、食料が自給できていない状態だ。そして足りない分は輸入に頼り、人口増加とともにその量が増えるという悪循環を引き起こしている。食料の輸入大陸であるアフリカでは、そのために食品を始めとする生活費が高止まりしているのだ。

ジンバブエでトウモロコシを収穫する農民

ジンバブエでトウモロコシを収穫する農民。アフリカでは食料自給率の向上が急務だ(写真:ロイター/アフロ)

さらに、2050年までに倍増するとされるアフリカの人口爆発は、それに伴う食糧生産量が確保できなければ、世界の食料安全保障に深刻な事態をもたらす恐れがある。JICAの中村浩孝アフリカ部次長が、こう警告する。

「アフリカの食糧難が深刻化すれば、それをきっかけに内戦や戦争が起きるかもしれません。アフリカが人口規模、経済規模で巨大化すれば、アフリカの動きが世界に与える影響は計り知れない。そして将来的に、巨大化したアフリカ経済が崩壊するようなことがあれば、世界経済をも崩壊させる危険があるのです」

発展に必要な3つの方向性

これら複雑に入り組んだ課題を克服し、アフリカが健全に発展するにはどうしたらいいのか。それには、アフリカの国々が3つの方向性で発展する必要がある、と前出のクリアさんは指摘する。

(撮影:鈴木毅)

1つ目は、日本やASEAN、中国が歩んだ道と同じ工業化による「労働集約型」の発展だ。繊維や家電の工場を稼働して雇用を増やし、経済発展していく。そのためには、電力や水、道路網などインフラ整備が不可欠だが、「ケニアやルワンダ、セネガルなどがユーロ債を発行するなど、海外からの資金調達が容易になり、その一部がインフラ整備に回っている」という。

2つ目は、インターネットの「プラットフォーム型」だ。ネット時代のビッグウェーブに乗り、工場などの大型投資に頼らずに産業拡大していく。アフリカの若者たちは、英語など旧宗主国の言語に親しんでいるため、世界展開もしやすい。

そして3つ目が「ローカライズ産業型」で、農業の近代化などによって地域企業を育成していく。まずは、「海外の国や企業とのジョイントベンチャーなどで地域の雇用を増やし、技術移転につなげることが重要」という。

(撮影:鈴木毅)

なかでも世界が注目するのは、2つ目のプラットフォーム型だ。これまで資源ビジネスに集中していた世界の投資マネーは、ICT領域のニュービジネスに移行しつつある。そして、これら民間の力が国に代わってインフラ整備や食料生産、医療など社会課題を解決する担い手になりつつある。

世界銀行は今年4月の報告で「デジタル革命は、サブサハラ・アフリカだけをとっても、成長率を年間約2%押し上げ、貧困率を年間約1%引き下げることが可能だ。アフリカの状況を一変させるだろう」と指摘している。

ナイジェリア・ラゴス近郊での建設現場

ナイジェリア・ラゴス近郊での建設現場。成長率が伸びればこのような光景がより多くみられるかもしれない(写真:ロイター/アフロ)

政府案件から民間にシフトした三井物産

アフリカの社会課題の解決をビジネスチャンスと捉える姿勢は日本企業のアフリカ戦略にも表れている。

例えば、三井物産。同社は昨年5月、ケニアに本拠を置くスタートアップ企業、M-KOPA(エムコパ)に出資した。同社が展開しているのは、電化が進んでいないサブサハラの農村部に向けた、小型の自家用太陽光発電「ソーラーホームシステム(SHS)」の販売事業だ。住民たちに小型の太陽光パネル、蓄電池、照明、携帯電話用充電器、ラジオなどをセットで配布し、「電気のある生活」を広げようとしている。

三井物産プロジェクト開発第二部の古田真崇・第二営業室長が言う。

「アフリカでスタートアップ企業に出資するのは初めてのことです。会社としても戦略を柔軟にシフトしないとアフリカの成長を取り込めない、との判断です」

M-KOPAの事業を担当する三井物産の古田真崇・第二営業室長

M-KOPAの事業を担当する三井物産の古田真崇・第二営業室長(撮影:鈴木毅)

もともと同社がアフリカで注力してきたのは、国が発注する火力発電所などの大規模インフラ設備や天然ガス・石炭などの天然資源開発だ。しかし、そうしたインフラ系事業の実現は、国の財政や行政能力に大きく左右される。そこで国の大型案件だけでなく、動きがスピーディーな消費者ビジネスへの出資にも力を入れ始めたのだ。

「貧困、教育、流通インフラ、衛生──これらの社会課題は、電気の供給でかなり解決できると思う。冷蔵庫、きれいな水、通信、医療、夜も勉強できる家。単純ではないが、それがこれからのアフリカの産業を支えることになるのです」

エジプト・カイロの夜景

エジプト・カイロの夜景。20年後には、サブサハラ地域でこのような近代都市が広がっているだろう(写真:アフロ)

日本がTICADに込める期待

日本政府も、アフリカの民間活力の動きを注視している。それは、日本がアフリカ各国や国連など国際機関と共同で1993年以降、数年おきに開催しているTICAD(アフリカ開発会議)の"変化"からもわかる。アフリカ開発に詳しい早稲田大学国際教養学部の片岡貞治教授(国際関係論)が言う。

「当初はあくまでも外務省のイベントだったTICADは、いまや官邸を始めとした政府機関のみならず、官民が力を入れるオールジャパンのビジネスイベントになりました。この流れは変わらないでしょう。アフリカ大陸は世界で唯一、人口が22世紀まで増大していく大陸だからです」

取材・文:渡辺嘉三(わたなべ・よしみ)
元朝日新聞記者。入社前の1979~81年、青年海外協力隊員として東アフリカ・マラウイ北部のカロンガに赴任。その後も2008年、2013年のアフリカ国際会議(TICAD)を取材するなど、アフリカとのかかわりを続けている。2018年に朝日新聞社退社後、日本マラウイ協会理事に。アフリカ取材を今後のライフワークにする予定。
取材・文:鈴木毅(すずき・つよし)
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒、同大大学院政策・メディア研究科修了後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」副編集長、「AERA」副編集長、朝日新聞経済部などを経て、2016年12月に株式会社POWER NEWSを設立。

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