2040年までに「中国」のような進化をたどれるのか?

2019.08.16.Fri

人口爆発するアフリカ

2040年までに「中国」のような進化をたどれるのか?

アフリカは20年後、生産年齢人口が中国を上回る、と予測されている。果たしてアフリカは、今の中国と同じような存在感を示すようになるのだろうか。そのときアフリカと中国、そして世界は、どのような関係になっているのか。アフリカ経済の専門家である日本貿易振興機構(JETRO)の平野克己理事と、中国に詳しい拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授に語り合ってもらった。

アフリカと中国の違い

平野 アフリカが中国のようになるのかということですが、結論から言うと、それはないでしょう。

アフリカの国々は現在、ICT(情報通信技術)ビジネスの発展が注目されていますが、もともとの貿易構造は、ほぼ産油国と同じです。アフリカが高成長を謳歌した2003年からの資源ブーム時に総輸出の7割近くを鉱物性燃料が占め、原油を輸出することで世界経済とつながってきました。

一方の中国は、いまインフラ整備などでアフリカへの関与を深めていますが、2000年代初頭は資源の安定調達が目的。経済規模の拡大によって1990年代に自国産の原油だけでは足りなくなり、安定的に原油や鉱物資源を輸入するためにアフリカへのコミットを始めたという経緯があります。

平野克己(ひらの・かつみ)

平野克己(ひらの・かつみ)1956年、北海道生まれ。外務省専門調査員(在ジンバブエ大使館)を経て、1991年にアジア経済研究所入所。その後、ウィットウォータースランド大学(南アフリカ共和国)客員研究員、日本貿易振興機構(JETRO)ヨハネスブルクセンター所長などを歴任し、2015年から現職。著書に『経済大陸アフリカ』(中公新書)など

富坂 私は1980年代に中国へ留学していたんですが、そのころから中国の大学はアフリカからの留学生だらけでした。中国はいわゆる第三世界のリーダー格を自任し、アフリカ人留学生に中国語と技術を学ばせて、母国に帰していた。その意味で、中国とアフリカの関係は深いものがあります。

そして、いま中国はアフリカを、自分たちの経済を外側から加速させる成長エンジンとして考え始めたと思います。その一番のきっかけはICTの発展です。中国の経済発展を推進した一つの要素はICTです。有線の通信インフラ整備を飛び越え、一気に携帯電話時代に移行できたことは、ものすごいショートカットになった。だからアフリカもICTの進化によって、ある程度似たような発展ができるんじゃないかと見ているのではないか。

平野 たしかにそのとおりで、たとえば中国通信機器大手のZTEがエチオピアに携帯電話網をつくり、それがエチオピアのICTの基盤になったのは大きな成功です。大手通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)や総合家電メーカーの小米(シャオミ)もアフリカを大きな市場と見ていて、中国にとってアフリカが非常に重要な位置づけになっているのは間違いないです。

富坂 ただ一方で、中国はそれ以上の具体的なアフリカ戦略を描き切れていない感じもします。

富坂聰(とみさか・さとし)

富坂聰(とみさか・さとし)1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学後、週刊誌記者などを経てフリージャーナリストに。94年、『龍の伝人たち』(小学館)で、21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞を受賞。新聞・雑誌への執筆、テレビコメンテーターとしても活躍。2014年から現職。中国に関する著書多数。

平野 それは、東アジアとアフリカの発展の違いを理解しているからだと思います。2者の最大の違いは、農業です。東アジアの国々は、食料の自給体制ができてから高度成長期に入った。食料を自給することによって、国内の物価が上がらず、低賃金の労働力を持つことができた。それによって右肩上がりの成長を実現したんです。

ところがアフリカは、全体で10億人を超える人口があり、労働力の6割が農民だというのに、食料が自給できないどころか、世界最大の食料輸入地域なんです。だから、アフリカの物価は高く、人件費も高い。

アフリカの食料輸入は、人口が増えて都市化が進展するにしたがってどんどん増えているので、どこかでパンクするかもしれません。私は、これがアフリカの今後20~30年で懸念される最大の問題だと思います。

ナイジェリアの首都アブジャの食料店

ナイジェリアの首都アブジャの食料店(写真:ロイター/アフロ)

アフリカの国境を超えられるのは民間企業

富坂 中国は、アフリカの政治リスクも見ています。アフリカは、とても一つの視点では語れないし、ほとんどの国の政権が安定していない。だから、アフリカの中で優等生だけを抽出して経済発展させる、ということも考えていると思います。

平野 私は、アフリカが発展するための最大の障害は、54カ国(国連加盟)という国の多さだと思っています。人口は全体で10億人を超え、GDPは総額2兆ドルと、規模はほぼインドと一緒。だけど、それを54カ国で割ると、一つひとつは宇都宮市の経済規模と大きく変わらない。それでは規模の経済の効果が出ません。

(撮影:横関一浩)

一方、21世紀に入ってアフリカが高度成長するなかで、もっとも伸びた分野のひとつは携帯電話でした。このとき、民間の携帯会社が国を動かして法制を整え、国境を超えて通信ができる、いわゆるソフトインフラを作り上げていきました。つまり、民間企業は、国家が超えられないアフリカの国境を超えられるんです。

アフリカの人口増加と市場拡大をビジネスにできるようになったことは、今後のアフリカを考える上で最大のポジティブ要因だと思います。アフリカを国ごとに見るのではなく、企業の展開で解釈し直すと、アフリカ経済は明るい兆しが見えてきます。

アフリカでも国境を越えたコミュニケーションが生まれ始めている。

アフリカでも国境を越えたコミュニケーションが生まれ始めている。国際的に展開する民間企業の活力がアフリカの未来を切り開く(写真:アフロ)

富坂 その考え方は、ある意味、中国が掲げる「一帯一路」構想の考え方とよく似ていますね。「一帯一路」は2013年に習近平国家主席が提唱した現代版シルクロード経済圏構想で、アジア~ヨーロッパ間の沿線諸国で緩やかな経済協力関係を構築するという国家的戦略です。要は民間企業の力を利用しながら国境を突破していこう、というものです。

中国の習近平国家主席は、アフリカ各国との関係を強化している。

中国の習近平国家主席は、アフリカ各国との関係を強化している。2018年の「中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)」で(写真:ロイター)

平野 急成長を遂げたアフリカ企業は、必ず国境を超えて多国籍企業になっています(※)。彼らは、まさに企業的マインドで、ビジネスをする上でいい国と悪い国、いい市場と悪い市場を判別しながら、効率的に展開している。これは取りも直さず、アフリカ全体の経済の効率を改善してきているということです。

このとき政府がするべきことは、企業が自由に動けるようになるべく国境のハードルを低くして、市場をちゃんと整備してあげるという教科書どおりの役割に徹することです。

※例①:ナイジェリアのビスケット製造会社「Beloxxi Industries」は、ガーナやアンゴラなど近隣諸国に自社製品を輸出し、2017 年にロンドン証券取引所の「アフリカの有望企業リスト」に選出された。
  例②:南アフリカのファンド運用会社「Coronation」は、アイルランド・イギリス・ナミビアにもオフィスを置く。2017年に「Best Africa Fund Manager」を受賞するなど数々の受賞歴がある。

夕暮れ時を迎える南アフリカのケープタウン

夕暮れ時を迎える南アフリカのケープタウン(写真:アフロ)

ビッグデータの売り手になれるかがカギ

富坂 いま世界は、製造業が発展の中心になる時代ではなくなりつつあります。今後、たとえば人間の代わりにロボットが労働するような時代が来るかもしれない。そうした流れとアフリカの経済発展のタイミングが合わされば、もしかしたら、これまでのアジアのような発展とは違う形が生まれてくるんじゃないでしょうか。

平野 AI(人工知能)の時代には新しい発展の仕方があるかもしれません。ただ、新しい課題も生まれるでしょう。ただでさえ職がないアフリカで、さらに働く場がなくなってしまう、あるいは、逆に「人を使う作業」が、どんどんアフリカに集約されていくかもしれませんね。

(撮影:横関一浩)

問題は、いまアフリカに6億人いる農村居住者と農民たちです。彼らの生産性を上げ、所得を増やしていかないと、アフリカの根本的な問題である絶対的貧困はなくならない。

先ほども言いましたが、アフリカの人口爆発によって人類が背負わないといけない最大の問題は、食糧問題です。それを解決するには、アフリカの食料自給率を上げるしかない。アフリカの農業をどうやって変えるかという危機感は、これまで意識が薄かったアフリカの国々の政府でも徐々に強まっています。

50を超える国・地域があるアフリカ

50を超える国・地域があるアフリカ。食料問題に対して一致団結していく危機感が芽生え始めているという(写真:アフロ)

富坂 中国の電子商取引(EC)最大手「阿里巴巴(アリババ)集団」の創業者・馬雲(ジャック・マー)は、ビッグデータを駆使して世界の資源を適切分配すれば、無駄をなくすことができる、ということを言っています。彼の方法論で言えば、無駄さえなくせば食料問題もアフリカ国内で十分に自給自足ができるかもしれない、ということです。

たとえば、雨の日にこの中華料理屋では中華丼は3杯、ラーメンは5杯しか注文が出ない、ということがあらかじめわかっていたら、無駄は出ないわけですよね。加えて、いわゆる物流革命によってあらゆる場所にピンポイントで持っていくことができれば、世界全体で資源の分配ができるかもしれない。

経済のボトムアップという意味では、ビッグデータの時代になったとき、アフリカはデータを売る側か、使う側かといえば、売る側として大きな収入を得ているかもしれません。

アリババグループ創業者のジャック・マー氏

アリババグループ創業者のジャック・マー氏(写真:ロイター/アフロ)

アフリカが富を得る道やいかに?

平野 そこで重要なのは、グローバル・バリューチェーン(世界的な供給網)のなかでどう利益を取るか、ということですね。

たとえば、ダイヤモンドの世界最大手デビアスの話があります。世界で宝飾用ダイヤモンドの最大の生産国はボツワナなんですが、この国はデビアスと激しい交渉をして、宝飾用ダイヤモンドをつくる過程で、いちばん収益になる研磨の工場を国内に造らせた。いまや研磨技師の養成学校もできて、ボツワナの一大産業になっています。つまり国が意識を持てば、ちゃんと莫大な利益を生む仕組みをつくることは可能なんです。

富坂 そこから言えることは、風通しのいい政府があって、国内でICTインフラを整えることができて、スマートフォンの普及率が高まり、次世代通信技術「5G」によって通信のコストダウンも進む、といった段階になれば、世界でのアフリカの位置づけは変わる可能性がありますね。

ICT教育を推進するルワンダのカガメ大統領

ICT教育を推進するルワンダのカガメ大統領(写真:ロイター/アフロ)

平野 すでにルワンダがそうです。ルワンダは内陸の小国で、経済活動には不利ですが、いまのカガメ大統領はICT立国を掲げ、国内のデジタルインフラの環境を整えてIT企業が活動しやすいようにしている。つまり、民間企業が来やすい市場をつくって、国境をなるべくなくす。そうすれば、人口爆発は有利に働くでしょう。それにはまず、アフリカの国々に市場主義が根付くことです。

中国・アフリカ企業がタッグを組んだら?

富坂 中国にとっても、アフリカに市場が生まれることが、自分たちの生命線だと考えるように雰囲気が変わってきています。むしろ、市場として成熟してもらわないと困る、というくらいの意識ですね。

一方で、通信やデータに関しては、中国とアフリカの間にはすでに圧倒的な上下関係ができているし今後も中国が一方的にアフリカを利用することになってしまうかもしれない。

平野 やはり企業主体で物事が動くようになれば、アフリカを取り巻く状況は変わってくると思います。(日本企業にとって)今後の脅威となり得るのが、中国企業とアフリカのグローバル企業が組むことです。ただ、アフリカは歴史的にヨーロッパとのつながりが深いので、中国に対する警戒感もある。日本企業は、そのバランスを見極めながら、アフリカとのビジネス関係を深めていく必要があります。ヨーロッパ企業とのビジネス連携が、アフリカ市場を攻めていくにあたっての、一つの有効な方法です。

取材・文:鈴木毅(すずき・つよし)
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒、同大大学院政策・メディア研究科修了後、朝日新聞社に入社。「週刊朝日」副編集長、「AERA」副編集長、朝日新聞経済部などを経て、2016年12月に株式会社POWER NEWSを設立。
写真:横関一浩

#05 躍進するアフリカ、20年後は?