2020.07.13.Mon

安宅和人インタビュー

安宅和人・新しい未来を作るために、5000年後の目線で今を考える
【#コロナとどう暮らす】

新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が解除されて、約1ヶ月。未曾有のウイルス災害を経た日本は、これからどこへ向かえばいいのか。新しい未来を作るため、我々は何をするべきなのか。『シン・ニホン(2020年2月刊行)』で注目を集める、慶應義塾大学SFC教授でヤフーCSO(チーフストラテジーオフィサー)の安宅和人さんに聞いた。

「withコロナ」を前提に「開疎化」へ

安宅さんの新著『シン・ニホン』では、膨大な分析データを元に、AI×データがもたらす時代の変化の本質と、それに対して日本人がどう行動すべきか書かれている。日本の将来に対する危機感から書かれているが、悲観論や現状批判では決してない。残すべき未来を描き、未来への行動を仕掛けるための武器である。

現代の人口減少について解説するパートでは、人類の三大死因として、戦争、飢餓と並んで疫病が挙げられていた。奇しくも我々はその脅威を体感することになったが、地球上に生きる生命として、ウイルスを前提として生きる方がむしろ建設的だという

「デング熱や西ナイル熱のように、人類は何度も新しい疫病に襲われてきました。ヘルペスウイルスには1.2~1.8億年の歴史があるとみられ、コロナウイルスだってそれくらいの歴史があってもおかしくありません。15万年程度しか歴史のない我々ホモサピエンスより1000倍近く長くこの世に存在しているわけです。感染症病床の不足や、特効薬開発への期待値からしても、コロナとの戦いは長期戦になることは間違いない。打ち克つのではなく、どう共存するか「withコロナ」の発想を前提に考えるのが建設的だと思います。

さらに、南極や北極、グリーンランドの氷の中にはインフルエンザなど様々なウイルスが眠っています。温暖化に伴って氷解することで、それらが出てくる可能性が高い。陸地では表土があれば特定の病原体は簡単に拡散しないとも見られ、その点からも、土を削り過ぎた文明の限界を感じますね。メソポタミアなど多くの文明が鍬を入れ土を掘り起こし、様々な塩が吹き出てきて土地がだめになり砂漠化したこともあまり知られていません。人類があまりにも自然をなめてきたということでしょう」

新型コロナが意味するものを直視すると、現在の都市空間のような"密閉"の限界が浮き彫りになる。それはつまり、人類が歩み続けてきた「密閉(closed)×密(dense)」「密密」による価値創造の限界を意味する。安宅さんは、今後の社会は「開疎化」に向かう可能性が高いと言う。密密の逆、「開放(open)×疎(sparse)」の価値が追求されるというのだ。

「開疎化とは、単に都市を離れて地方に移ればよいということではありません。地方においても都市は都市です。コンパクトシティも都市です。密密空間を中心に考えられているのです。Withコロナ状態がこのまま続けば、都市においても、オフィスや飲食店、娯楽施設などの空間は、空気の開放性や通気の良さなど、開疎化されているかどうかによって評価される時代が来ます。開疎的なビルと非開疎的なビルがあったら、人は開疎的なビルに移りますよ。土木建設業によっては大きなリノベーションチャンスになるでしょう。主要な都市それぞれで、ひとつ導火線的な開発が行われれば、ドミノのように進み始めると思います」

写真:アフロ

「風の谷」というオルタナティブ

開疎化した社会の一つの形は『シン・ニホン』の中で「風の谷」として言及されていた。コロナの以前から地震や台風などの災害が襲う度、私たちは都市型社会の弱点を認識させられてきた。安宅さんは、その状況に対する先駆的な活動として、3年前から「風の谷を創る」プロジェクトに取り組んでいた。

「いま、古くから人が住んできた町や村が限界集落となって棄てられつつあります。これは日本だけでなく、世界中で起きていることです。このままいくと、我々は映画『ブレードランナー』のようなメガシティにしか住めなくなるかもしれません。そうではない選択肢、つまり都市集中型未来へのオルタナティブを生み出そうというのが、『風の谷を創る』プロジェクトです」

「風の谷を創る」が目指しているのは、単なる原生林でもなければ、田舎暮らしでもない。テクノロジーを最大限に活用して、自然と共存する人間らしく豊かな暮らしを実現することだ。安宅さんによると「開疎であり、かつ文化的な人が価値を感じられるような、多義的な空間」だという。

開疎空間での生活の実現に欠かせないのが、インフラとテクノロジーである。

「日本のインフラはとにかくコストが高い。SFC安宅研の調べでは国道1km作るのに平均で3億円近くかかっています。県道は約7000万円。市道でも約4000万円。これだけ水が豊かな国において、水道料金もなんと水の何割もをマレーシアから輸入しているシンガポールよりも高い。9割くらいは取水、浄水費用ではなく、水道管の維持費用です。とある東日本大震災の被災地では、町民一人あたり900万円近い予算が毎年組まれています。四人家族で年間約3500万円。それだけないと土地のインフラを維持できない。一人年間100万円以上の公費投入が必要な自治体は数百にも登ります。これらの土地は、都市からお金を送れなくなった瞬間に維持できなくなるということです。また海外の美しい田舎と比べて見ても異常なレベルのインフラコストです」

できる限り維持可能にするために、インフラの作り方をゼロベースで見直し、テクノロジーを活用する。森の管理であれば木にタグをつけて異常を感知すればよいし、道路であればこれまでの近代舗装の概念をゼロベースで考え直す。たとえば、ローマの道と同じように、ブロック的にモジュール化し、傷んだら、気づいた人やメンテロボットなどが詰めればいい。配管も掘り返しを最小化で済むようにつくる。工夫と技術を用いて派手に人を動かさないことが、コスト削減になる。テクノロジーとは「そういった知恵も含めたものだ」と安宅さんは語る。

「今ある最新の技術を詰め込めばいいというものではありません。そもそも実現したいことは何なのか。その目的に沿って、知恵を働かせて利用するものです」

「風の谷」は都市集中型の生活を否定するものではない。あくまで「それしかない未来」を避けるためのもので、オルタナティブな選択肢の提示だ。とはいえ、withコロナ時代、都市の周囲に風の谷のような場所がいくつか存在しないと、都市自体が価値を失う未来もあり得る。

「今回の流れが美しく延長するならば、都心に通勤して働く度合いが、かつての2~3割程度に落ちる人が多く現れると考えられます。週1~2日ほどしか都市に行かないのであれば、もう少しゆったりと生活したい人も増えて、都市より離れた場所に居住空間が生まれます。居住空間の周りにオフィス的な機能を持つ空間が必要になったりと、分散型の職住近接、一体型の空間開発が現実味を帯びてきます」

都市から見た、居住空間として「風の谷」の需要が高まる一方で、経済合理性を考慮すると実現するのはかなり難易度が高いという。「数百年規模で続けなければ安定化しない運動だ」と安宅さんは話す。

「オルタナティブを作っていくというベクトルであり、運動論ですので、明確なゴールはありません。ゴールという発想自体が高度成長的。そうではなく、僕らはずっと続ける流れを生み出したいのです。正直なところ、僕の命があるうちに単独で経済的に折り合いがつく状態に到達できる自信はありません。腰を据えてやる必要があるし、一世代や二世代では無理なんじゃないかなと思います」

写真:アフロ

コロナが与えた社会インパクト

新型コロナの影響は国内に限った話はではない。世界経済を牽引してきた欧米では25万人以上もの人が亡くなり、経済的な影響も計り知れない。安宅さんは、新型コロナによる国際的な影響をどう受け止めているのか。

「全体的に見てですが、東アジア全域からオーストラリアまでを含めたAPACの国々では、死者が比較的少ない。これからはAPACの時代と思われてきましたが、今回の欧米のダメージを考えると、その勢いが加速すると思われます」

『シン・ニホン』では、人口増を前提とした規模の経済を追いかけるのではなく、「何らかの意味づけによる価値創造」と、それによる経済成長の重要性が説かれていた。この流れは加速するという。

「『サスティナブルな未来に寄与している』といった価値が、ますます重要視されていくと思います。その意味においては、SDGsやグリーンリカバリーの中心地であった欧州の経済が破壊されてしまったのは、本当に苦痛度が高いです。欧州のGDPは、この3か月だけで少なくとも3割は下がっているはずです。残念ながら、人類史は少し歪んだでしょうね。

コロナの感染は時差で広がっていて、この後インドやアフリカで広がると予想されます。ウイルスは各地でインキュベートされて、より強力になり、再びOECD諸国を襲うことも十分に考えられる。その時にどう手を打つのか、今から対策を講じていくべきだと思います」

国際的に見れば、日本は被害を小規模に抑えることに成功し、その対応を評価する声もあった。だが、安宅さんは今回のことで日本の課題が浮かび上がったと指摘する。

「行政の対応については、映画『シン・ゴジラ』と似ている部分を感じます。あの映画が示したのは、今の行政の仕組みが、不連続性の高い事象とは折り合いがつかないということです。コロナのペースはゴジラより100倍ゆっくりだったけれど、やはりうまく機能しなかった。どんなに賢い官僚と政治家がいても、対応が効かない。政権の問題ではなく、統治システムの問題だと思います。

何より一番の問題は、将来への負債ですよ。ただでさえ若者たちに負債を背負わせているところに、60兆円の税収で160兆円という予算を積んでいます。国債の金利だけでも馬鹿になりません」

教育現場で露呈された貧富の差の問題も大きい。端末やネットワークの性能差により、まともな環境で教育を受けられなかった子供はかなりの数いると見込まれる。この数ヶ月で彼らに与えたダメージは一生の影響があり、さらなる二極化を生む火種になりかねない。子供たちを育てることは、未来に直結する課題。安宅さんはこれまで何度も教育の重要性を説いてきたが、あらためて「一丁目一番地として取り組むべき課題だ」と語気を強めて話す。

「時間の射程」を伸ばして考える

環境破壊や経済格差など、従来の国家的な課題に加え、新型コロナは様々な課題を浮き彫りにした。私たちが新しい未来を作り、よりよい社会を実現するために、安宅さんが考える重要なこととは何なのか。

「未来に対して投資すること。そして、作るべき人材像を刷新すること。この二点に問題は集約されるというのがこの何年間かこれらの課題を見てきた私の結論ですね。国家予算全体として、未来に投資する割合を3%程度は増やした方がいい。人物像も、従来の号令型・マシン型人材ではなく、自分で考え行動する人材を作っていくべきです。

そして何よりも重要ななのは『どんな未来を残したいのか』を考えることです。皆さんが考える『残すに値する未来』は何なのか、それはどうすれば作れるのか。この二点を常に考えることがキークエスチョンだと思います。それなくして、いい未来なんてできるわけがない。やたらとAIやテクノロジーを注ぎ込めばいいという風潮があるけど、そもそもどういう未来を作りたいのかを描くことの方がずっと大事です。

残すに値する未来とは何なのか。従来の常識に縛られず、New Think、自由な発想で、もう一度根本的なところから考えればいいと思います」

さらに、「明るくやり直せばいい」と安宅さんは語る。明治維新のスクラップアンドビルドをはじめ、日本は良くも悪くも切り替えが早い国である。その特性を活かして、深く考えずにやり直せばいいと。

ただし、やり直すといっても、すべて消し去るわけではない。文化的な蓄積から活かせるもの活かせばいいという。

「例えば「風の谷」では、古代から残っている遺跡の延長にある居住空間の可能性を検討しています。気候変動の影響で風速90m級の台風が発生するとされていて、それに耐えられる家が必要だからです。本当に必要なものは何かを考えて、縄文時代まで遡って考えています。弥生時代以降の歴史が2千年程度しかないことを考えれば、1万数千年も続いた縄文時代は日本の原点です。5000年前を見ながら、次の5000年後に残せるものは何かを考えています。そこまでの射程で考えれば、真に残すに値する未来が生まれるのではないかと。

今は、何にしても思考の時間的仮定が短かすぎます。来世紀以降の未来に何か意味のあるものを残すのであれば、最低でも100年200年、500年単位で考えなければロクなものは作れないのではないのでしょうか」

未来を作るのは、想像力ではない。意志だ

数100年単位で先を見据え、どんな未来を残すかを考える。つい目先のことに追われがちな私たちは、どうすればその意識を持てるのだろうか。

「人間なんてちっぽけな存在です。ライフサイエンス(生命系の科学)を学んだものとして言えば、生まれてくることは単なる偶然です。何の必然性もない。自分に意味を与えることができるのは、自分しかいないわけです。人間いつ死ぬか分からないこと、命の大切さを今回のコロナで皆実感したはずです。目先のことだけを考えていたら、何の足跡も残さずに死んでしまう。それでいいのかと、日々、自分に問うことが大事なのではないでしょうか。

未来の話というと『どうすれば想像力が磨かれるか』と聞かれますが、想像力なんて考えるから、問題が解けないんです。未来を作るのは想像力じゃない。意志です。50年後に振り返っても自分で恥ずかしくないようにどんな未来を作るのか、あるいは200年後の玄孫(やしゃご)に自分は何を残すのかを考えるんです。作りたいもの、欲しいもの、あった方がいいものという視点で考えれば、自ずと視界は開けていくし、時間の尺度も変わるはずです。

次の世代を担う人たちには、目先のことより、遠い未来の視点で考え、自分からどんどん仕掛けて欲しいです。遠い目線で動いていくと、取り組みの本質的な価値も上がり、全てが良循環に落ちてくるものです。みんなが遠くを見て生きていける社会を、私も作りたいと思います」

どんな未来を残したいのか。その根源的な問いこそが、新しい未来を作っていくのだろう。コロナによる今回の事態は、それを根本から考えるいい機会なのかもしれない。未来は、今、私たちの手の中にある。

安宅和人
慶應義塾大学SFC 環境情報学部教授。ヤフーCSO( チーフストラテジーオフィサー)。
マッキンゼーを経て、 2008年からヤフー。
前職のマッキンゼーではマーケティング研究グループのアジア太平洋地域中心メンバーの一人として幅広い商品・事業開発、ブランド再生に関わる。ヤフーでは2012よりCSO。途中データ及び研究開発部門も統括。2016より慶応義塾SFCでデータサイエンスを教え、2018秋より現職(現兼務)。イェール大学脳神経科学PhD。データ×AI時代での変革をテーマにした政府委員を多く務める。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版)『シン・ニホン』(NewsPicks)
編集・文:株式会社ドットライフ
「another life.」という個人のストーリーにフォーカスした媒体を元に、各種サービスを展開。1,000人以上のインタビューで磨かれたノウハウを活かして人のストーリーを引き出し、伝わりやすい表現に整え、共感されるコンテンツを生み出す。

07 コロナとどう暮らす?
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