2021.02.26.Fri

価値観は変わり続ける

長寿における幸せとは

未来の高齢者は、私たちが思い浮かべる「今の高齢者像」とは違うかもしれない。寿命は延び、体も健康。年齢にかかわらず、仕事や趣味や社会活動にアクティブに取り組み続けている。「高齢者」と「若者」の区別すらなくなっているかもしれない。そんな時代を生きる人々は、どのような価値観を持ち、何に幸せを感じるのだろうか。未来の高齢者像から考えてみる。

2050年、経済の主役は高齢者に?

2050年には、65歳以上の割合が全人口の4割近く(37.7%)に達し、生産年齢(15~64歳)の割合はほぼ半分まで低下すると予測されている。これに伴い、日本の経済成長率は低下し、財政難に陥るとも言われているが、それはあくまで65歳以上の高齢者が「支えられる側」と考えた場合だ。

そもそも、生産年齢という定義自体が揺らぎ始めている。

例えば、2000年代半ばより65歳~69歳の就業率は伸び続けている。水準としては、1990年台と同程度だが、自営業比率は下がっており、定年後も企業で働く人が増えていることが想像できる。

健康寿命の伸びも見逃せない。高齢者の体力・運動能力が、過去10年強で約5歳若くなっているというデータもある。人材不足の中、高齢者がこれまで培ってきた経験・スキルを有効活用したいと考える企業は多いだろう。

特に飲食業界ではその動きが顕著だ。すかいらーくグループは2019年に、パート・アルバイトの上限年齢を70歳から75歳に引き上げた。モスバーガーは、アルバイトに年齢制限を設けていない。定年退職後にモスバーガーのスタッフとして活躍する高齢者が「モスジーバー」と称され話題となった。

モスバーガーでは60歳以上の高齢者を積極採用している

モスバーガーでは60歳以上の高齢者を積極採用している

高齢者の意識も変わってきている。60歳以上の就労者の約8割が、70歳以降も働くことを希望しているという。

また、起業する高齢者もいる。定年退職をする前に起業を検討するケースが多く、世界の経営学者が実施する「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)調査」によると、55歳から64歳で起業する日本人は、2015年時点で約63万人。2005年の約37万人から1.7倍に膨らんだ。

就労意欲や健康意識が高い高齢者は「アクティブシニア」と言われ、趣味にも意欲的なことから、市場も注目している。定年退職後に習い事を始めたり、新しいサービスを積極的に活用する高齢者が増えている。

例えば、若者の間で流行しているTikTok。15秒から1分ほどの短い動画を作成・投稿できるプラットフォームで、現代の若者文化を象徴するサービスだが、運営するByteDanceの日本法人では、シニア世代を対象にした「オトナTikTokセミナー」も開催している。年齢制限はなく、最高齢で90歳の参加者もいるようだ。実際にTikTok上では、高齢者のパフォーマーも多い。「テクノロジーに疎い高齢者像」は崩れつつあるのだ。

このように、働き手としても消費者としても高齢者の存在は大きくなっている。人口比率の大部分を占める高齢者が、支えられる側ではなく、支える側に回りつつあるのだ。経済における主役となることで、未来の高齢者の価値感はさらに変わっていくのかもしれない。

(提供:Adobe Stock)

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Social Good な未来の高齢者

さて、ここからは未来の高齢者像を探ってみよう。当然のことだが、現代の高齢者もかつては若者だった。いまの若者たちの価値観に目を向けることが、50年後の高齢者像を描くことにつながる。

現代の若者の価値観を紐とくキーワードに「Social Good」という概念がある。
近年、企業はESG投資やSDGsなどの観点で、環境活動や社会貢献活動に力を入れている。その傾向がデジタルネイティブ世代の経済活動や消費行動にも現れている。社会に良い行動・生き方をすることに喜びを見いだす若者が増えてきているのだ。

社会貢献意識の高い若者の力で世の中を変えようと活動する団体がある。一般社団法人Sustainable Gameだ。「他者を大切にする心と責任を持つ人」を生み出すことでサステナブルな世界を創造することを目標に掲げ、中高生向けの学習プログラムを提供したり、SDGsに関心の高い中高生を集めたオンラインコミュニティなどを運営している。代表の山口由人氏が団体を設立したのは、中学3年生のときだった。

「私は生後5ヶ月から11年間ドイツに住んでいました。当時ドイツには、シリアからの難民が大勢やってきていて、日常的に彼らを目にしていたんです。時には彼らが警察に連行される場面を目の当たりにしたこともありました。『助けて』という叫びを聞きつつも何もできない自分に罪悪感のようなモヤモヤとした想いを持っていました」

一般社団法人Sustainable Game代表 山口 由人氏

一般社団法人Sustainable Game代表 山口 由人氏

何かしてあげたいけれど何もできない、そんな悩みを抱えながら日本へ帰国した山口氏が出会ったのがSDGsだった。国連加盟193か国によって掲げられた持続可能でよりよい世界を目指すための目標。そのなかには貧困や飢餓、国家間の格差など、かつて見たシリア難民の方々が直面していた問題も含まれていた。

「SDGsの理念に共感するとともに、これは誰にも答えがわからない社会実験なのだと感じました。だからこそ参加しなくては意味がない。でも、どういう風に参加するのか学校で教えてくれることはありませんでした。友達や学校の先輩と一緒に自分たちでプログラムをつくって、街で環境問題や社会課題を自ら発見し、考えはじめたのがきっかけです」

山口氏は、活動を通して子どもたちにシンパシー(共感)ではなく、エンパシー(他者の感情を知的に想像する力)を身に着けてもらいたいと話す。

「いまの社会は理想が多様化していると感じます。様々な理想がある一方で、そこには必ず現実の社会との乖離が生まれる。その乖離こそが社会問題の正体だと僕は定義しています。そしてそれを理解するには、エンパシーなのです」

エンパシーを身に着けた学生は、新しい価値観をもち未来社会をデザインする人材として、企業から意見を求められる存在となる。

中学生3年生のメンバーに、初めて企業向け研修のメンターを依頼したところ、数日たって「自分の話が大人に通じるなんて思っていなかった」と興奮して伝えてきたという。

「学外で社会貢献ができるということを、もっと同世代に伝えていきたい。同世代にそう思ってもらえるような環境を作る、例えば年齢や性別、情報格差による壁を無くすようなことが次の世代のためになると考えています」

多世代共創プログラムの様子※現在はオンラインで実施(提供:一般社団法人Sustainable Game)

多世代共創プログラムの様子※現在はオンラインで実施(提供:一般社団法人Sustainable Game)

山口氏は、中高生と企業がもっと簡単につながりあえるためのプラットフォームをつくりたいと話す。多様なステークホルダーがつながりあうことで課題を解決する「マルチセクターアプローチ」が一般化した社会を目指しているのだ。

多くの社会問題は、社会のシステムの中に多様性がもたらされないと解決しないと山口氏は話す。中高生も社会問題の当事者であり、変革者足りうるという訴えは、彼らの権利を主張するためだけにしているのではない。多様な世代が一致団結することが、これからの時代に不可欠であるというメッセージでもあるのだ。

資本主義的な価値から脱しつつある若者たち

現代の若者の考え方を、別の角度からも見てみよう。

高校生・大学生を中心に10から20代の若者のインサイトを研究する電通若者研究部の吉田将英氏に、現代の若者の特徴を聞くと「リアリストになりつつある」と話す。

「人類は成長至上主義をもって経済を発展させてきました。そのような従来の資本主義にほころびが生まれつつあることが近年指摘され始めています。地球という資源は有限であり経済成長は無限に続きません。気候変動対策の抜本的な改革を訴える環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏を支持するように、現代の若者は夢想される未来に対し現実的な可能性を考え、ちゃんと踏みとどまろうとしているんです」

車離れやゴルフ離れなど、近年の若者の嗜好性が変わってきているという話題は多い。しかしそれは、バブル期前後のトレンドに対してだ。若者は「お金持ちになりたい」「出世したい」といった従来の資本主義的幸福の追及をも考えなおすようになっている。

「それが幸せなのかどうかはもはやその人次第なんです。幸せの形はますます多様化していて、自分がどうしたいのか次第だという考え方を持つようになってきています。意思決定を他人に丸投げしない強さがあるんです」

電通若者研究部 吉田 将英氏

電通若者研究部 吉田 将英氏

また、予測のつかない未来に対し「開き直った前向きさ」を持つことも、現代の若者の強さだ。

「答えはない。分からない。そうした事実を受け入れて、"やるしかない"と前向きになる。夢と希望にあふれた前向きさとはちょっと違うかもしれません。また、そのように未来が読めないなかでは、ローンを組んだり、流動性の低いキャリアを歩んだり、状態を固定し身動きが取れなくなることにリスクを感じたりもします。時代の流れに合わせ柔軟に対応できる状態でいたい。だからこそ、例えば本業にとらわれず二枚目の名刺を欲しがったり、仕事後に別のコミュニティに参加したりする人が増えている。自分に残る経験を獲得しながら、何かあったときにぱっと動けることを考える若者は増えているんです」

急激な社会の変化だけでなく健康寿命の伸びも視野に入れるからこそ、現代の若者たちは柔軟なキャリアを築こうとしている。

幸せを維持する仕組みが重要

超長寿社会に足をかける現代の若者は、価値観や幸せのあり方が大きく転換していることは明らかだ。ただ、何を幸せに感じるかは年齢によっても変わるだろう。長寿社会における"高齢者"となったとき、人は幸せをどのように感じるのだろうか。

幸福学を研究する慶應義塾大学大学院の前野隆司教授は、長寿社会では、"悟り"のような超越的な幸せを、長期に渡って享受できる可能性があると話す。

「"老年的超越"という概念があります。老年者はある種超越的な幸せを感じるもので、90から100歳程度の人の幸福感はとりわけ高いんです」

慶應義塾大学大学院 前野 隆司教授

慶應義塾大学大学院 前野 隆司教授

年を経るごとに、自己中心性が減少し、寛容性が高まる。空間や時間を超越する傾向が見られるようになり、高い幸福感を得るのだという。物欲よりも精神的な成長に喜びを見いだし、ただ生きているだけで幸せを感じる境地に至るというのだ。

「仮に90歳から老年的超越状態に入るとすれば、120歳まで生きられる時代には、30年もの長い間高い幸福感を得られる可能性があるんです」

もちろんこれらは仮説で、老年的概念は現代の寿命に応じた研究成果であり、超長寿化がなった世界では、高齢者がより長い期間、幸せを保てるための仕組みが重要になってくると前野教授は語る。

「寿命が伸びる分、生きがいや人のつながり、助け合いの仕組みを設計しなおす必要があるかもしれません。社会と関わることで、感謝されたり、利他的になったりするから、幸福度を高められる。孤独は幸福度を下げてしまいます。超長寿の高齢者を含めた多世代の交流を再設計していくことが超長寿社会に向けて必要なことでしょう」

超長寿時代においても老年的超越は成り立つのか。幸せは持続するのか。高齢化の先頭を行く日本が、行く末を握っているのかもしれない。

(提供:Adobe Stock)

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超長寿とは、いくつもの時代を生きること

超長寿が実現するのはまだまだ先だ。ただし、その入口に我々は立っている。高齢者も、未来の高齢者たる若者も、考え方や価値観、行動を変えてきている。社会の仕組みもこれから加速度的に変わっていくことだろう。

長く生きるほど、向き合わなければいけない変化も増えていく。我々はひとつの時代に生きるのではなく、いくつもの時代を生きることになるのだ。自らの生き方や価値観を柔軟に変えていくことが、想像だにしない長い人生を幸せに送るためには必要不可欠かもしれない。

編集・文:株式会社ドットライフ

#09 不老長寿は人類を幸せにするのか?