〜ドローンは私たちの仕事と暮らしをどう変える?〜

2019.11.07.Thu

「空の産業革命」

〜ドローンは私たちの仕事と暮らしをどう変える?〜

誰でも一度は思い描いたことがあるであろう、空を飛ぶロボットが行き交う未来。東京から北海道まであっという間に移動でき、宅配便は空から届く。災害現場では『サンダーバード』さながらに危機に面した人々が救出されるーー。そんな未来が、間も無く到来しようとしている。

Future Questions(FQ)は10月8日、特集企画「2030年、私たちはクルマで空を飛べるか」に連動したイベントを、ヤフー本社のオープンコラボレーションスペース「LODGE」で開催した。

ドローンスタートアップに特化した投資ファンドの創立者である千葉功太郎さん、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之さんを迎え、ドローンの現状や、空の産業革命によって私たちの生活はどう変化するのかお話いただいた。モデレーターは、イベントを共同主催する株式会社ドットライフ代表取締役社長の新條隼人が務めた。

イベントは2部構成で進行。第1部は、千葉さんが「ドローン産業最前線」と題してドローン産業の現状をプレゼンテーション。その後、杉山さんとともに「ドローンを社会実装する」をテーマにトークセッションした。ワタナベエンターテインメント所属のドローン芸人、谷+1(たにプラスワン)さんもゲスト出演し、実際のドローンの操作を披露し会場を沸かせた。

第2部は「ドローンは私の仕事と暮らしをどう変える?」をテーマにワークショップを開催。参加者がグループごとに意見を発表した。当日の様子をレポートする。

【ゲスト】
・千葉功太郎さん(個人投資家、慶應義塾大学SFC特別招聘教授、Drone Fund創業者/代表パートナー) ・杉山知之さん(デジタルハリウッド大学 学長、工学博士) ・谷+1さん(ワタナベエンターテインメント所属 ドローン芸人) 【モデレーター】
・新條隼人(株式会社ドットライフ代表取締役社長)

「ドローン前提社会」がやってくる

まず最初に、ヤフー株式会社代表取締役社長CEOの川邊健太郎があいさつした。

ヤフー株式会社代表取締役社長CEO 川邊健太郎

「情報技術と経済のグローバル化によって、未来は予測するものから創るものに変わりました。新しいチャレンジをする個人によって未来はいくらでも変わる。実際に未来を作ろうとしている人や組織を盛り上げ、多くの人が未来に向けてアクションできるようにとこのメディアをやってきました。

私は2010年、株式会社GYAOの社長をしていた時、次のようなスピーチをしたことがあります。『21世紀になって10年たとうとしているが、現在に子どものころ想像していたような未来感はない。特に、なぜいまだに車にタイヤがついているのだろう。車からタイヤをなくせるような、そんな新しい未来を作っていける会社にしよう』と。

昨今、ドローンが台頭し、子どものころ想像した未来の実現が近づいています。本日は空飛ぶ車、というところから広がりを持って、みなさんと未来を考えていきたいと思います」

イベントは、ドローン芸人・谷+1さんのドローンパフォーマンスから始まった。参加者が腕で作った輪の中を、谷+1さんが操縦するドローンがスイスイ飛んでいく。操縦のためにはアマチュア無線の専用免許が必要だというが、ゴーグルを身につけて操縦すると機体のパイロットのような感覚になれるという。操縦側と機体側との誤差はほぼなく、かなり精緻な動きも可能になったそうだ。

千葉さんは「まずワクワクしてください」と話す。「未来は待つものじゃなくて、自分たちで作るもの。僕はドローン前提社会を作りたい」。

千葉功太郎さん

千葉功太郎さん/Drone Fund 創業者/代表パートナー、慶應義塾大学SFC特別招聘教授、個人投資家

慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)に入社。株式会社サイバード、株式会社ケイ・ラボラトリー(現・KLab株式会社)を経て、2009年株式会社コロプラに参画、同年12月に取締役副社長に就任。採用や人材育成などの人事領域を管掌し、2012年東証マザーズIPO、2014年東証一部上場後、2016年7月退任。国内外のインターネットやリアルテック業界のエンジェル投資家(スタートアップ60社以上、ベンチャーキャピタル40ファンド以上に個人で投資)でありながら、2017年6月からDrone Fund 創業者/代表パートナーを務める。 2019年4月より、慶應義塾大学SFC特別招聘教授に就任。

千葉さんは2年前、ドローンや空飛ぶクルマへの投資に特化したベンチャーキャピタル「Drone Fund」(ドローンファンド)」を立ち上げた。国内外合わせて32社が加盟しており、ハードウェア開発の会社やオペレーションシステムを制作する会社、そのオペレーションシステムを主体としたサービスを提供する会社、人材を供給する会社まで、裾野は広い。クルマ産業と同じように、あと数年で10兆円規模の市場ができるという見込みもある。ドローン産業に参入したきっかけを、千葉さんはこう語る。

「僕はインターネットがなかった頃、20年後には水や空気のように当たり前にインターネットを使う時代がくるぞ、と大学の先生に言われ、インターネット関連の仕事を続けてきました。すると本当に、インターネットが社会インフラになる時代が来た。20年たった今、ドローンも同じように社会のインフラになるんじゃないかと考えています」。

特に日本は、ドローン産業によるビジネスチャンスが大きいと千葉さんは話す。人口減少、インフラの老朽化、気候変動、自然災害など、日本には多種多様な課題がある。課題先進国とも言える。それを憂うのではなくチャンスと捉え、課題を解決できるロボティクスを世界へ広げていくべきだという。

ドローンが当たり前に使えるようになれば、さまざまな可能性が考えられる。例えば、toCでは忘れ物を届けてくれたり、傘をさしてくれたり、子どもを見守ってくれたりするドローンが考えられる。toBでは、人間が入れないような狭い場所、危険な場所を点検したり、重量のある荷物を運んだり、災害現場の緊急対応をしたり、農作業を代替したりするドローンが出現するだろう。実際、すでに点検現場での実用化が始まっているし、2トンの荷物に耐えられるドローンの開発も進んでいるという。

さらに、「空飛ぶクルマ」の開発も進む。タイヤがなくなり空を飛べるようになった車は、離陸ポイントから高速道路に入っていくように「空の道」へと入っていき、自動運転で目的地まで走行する。そんな世界の実現を目指す。

「僕自身、理想を言っているだけじゃダメだと思って、プライベートジェットを購入しました。空の歴史も学ばなければならないと考え、パイロットライセンスの取得も目指しています。先月は初めてソロフライトをしましたが、かなり大きな恐怖やプレッシャーがありました。でも、これを自分自身で学ぶことには意味があると思っています。お金を集めてただ投資をするだけではなく、自分自身がリスクをとって、空の産業革命を起こすんだと本気を伝えていく。その本気が、世界を作っていくんだと思っています」。

実際、2019年6月には内閣府で「2022年度に有人地帯における目視外飛行によるサービス実現を目指す」「2023年度に空飛ぶクルマ(エアモビリティ)の事業化を目指す」という閣議決定がなされた。日本が世界の中でも先駆けて、空の産業革命に向けて乗り出したのである。

「頭を未来においてください。2022年までにドローン前提社会が実現すると想像すると、考えるべきことはたくさん出てくるはずなんです。来るべき社会でどんな課題が出るのか、どんなビジネスチャンスがあるのか、そんな風に今日は議論していければと思います」。

空は回線、ドローンの機体はパケット。

続いて、杉山さんをゲストに迎え、「ドローンを社会実装する」をテーマにしたワークセッションに入った。セッションの内容をレポートする。

杉山知之さん

杉山知之さん/デジタルハリウッド大学 学長/工学博士

1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との 合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。VRコンソーシアム理事、ロケーションベースVR協会監事、超教育協会評議員を務め、また福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

新條:杉山さんはドローンのどんな部分に可能性を見いだされていますか?

杉山:私は、特にエンターテインメントの領域に活用の可能性を感じています。今もドローンを活用していろいろな取り組みをしていて、例えば小型のドローンを飛ばしてリアルタイムでCGをつけて壁面に絵を描いたり、いっぺんに千台くらいのドローンを飛ばして空中に絵を描いたりしていますね。

うちでは小型の、コントロールしにくいドローンの操縦を教えています。初めは45歳以上の男性ばかりでしたが、最近は若い女性の方もいます。趣味というより、これで何かしようという覚悟を決めて来ている人が多い印象ですね。まずは自分で操縦できるようになれば、何か生まれるだろうと。

千葉:僕も実際にパイロットをやってみましたが、逆に人間が操縦しちゃいけないなと思いました。人間が操縦するからミスが起きる。なのでできる限り自動化していくことが正しい未来であると。一方で、トラブル時の対応など人間じゃないとできない細かい作業もたくさんあるので、人間と機械の棲み分けが大事だと思います。

杉山:そうですね、自動化が進む一方で、技術のあるパイロットのニーズは上がっていくでしょう。

新條:なるほど、自分でやってみることで、できる、できないの線引きができるんですね。お二人の取り組みの中で、ドローンによって可能になったことを教えてください。

杉山:僕は八王子市で、災害対応時のドローンの導入を支援しています。災害時は人が行っても道路封鎖で現場に入れなかったりするので、まずドローンを飛ばして現場を見にいけば状況がわかるじゃないですか。役所の人に話をしたら賛成してくれて、ドローンの導入が決まったんです。災害時の状況把握を念頭に、若手の職員に操縦の指導をしています。

千葉:今始まっているのでいくと、農業や点検検査の領域ですね。これらの領域は法律の整備が必要ない私有地の中で行えるので、導入が早いんです。特に農業は人手不足の問題に直面しているため、人がやっていたことがどんどんドローンに置き換えられていくと思います。例えば農薬の散布など、ドローンの自動飛行で明らかに人間がやるよりうまくできるようになっていますね。

千葉功太郎さん/杉山知之さん

新條:どういった条件下だと導入が進むのでしょうか?

千葉:人がいない地域がやりやすいですね。すでに人口の少ない地方では、無人飛行が実装されています。

杉山:八王子も、人口密集地じゃない場所が多いので結構練習ができるんですよね。あとは限界集落や山あいの一軒家なんかも、ドローン向きだと思います。

千葉:ですね。例えば郵便局でも、地方で定期輸送ルートでのドローン活用を始めています。最初は、緊急性が高いもの、高価なものが運ばれるのではないかと考えています。アフリカではすでにドローンによる薬の運搬が実用化されていますし、三重県の伊勢市では、とれたてのアワビを対岸の愛知県まで届けるという取り組みも始まっています。

新條:ドローンが手付かずのマーケットであることは世界共通だと思いますが、日本のマーケット特性はありますか? 今後の可能性を教えてください。

杉山:最初の千葉さんのプレゼンにもあったように、日本は課題が多い国なので、ここでやったことが他の国でも役立つモデルになると思います。それが特徴ですよね。あとは、アメリカだと飛行機を持っている一般人も多いですから、ドローンの登場はあまり意味がないかもしれませんが、日本はまだそうじゃない。だからこそ、意味があると思いますね。

千葉:ブルーオーシャン(競合のいない市場)ならぬ「ブルースカイ」ですよね。僕は、空にできる道はインターネットの回線であり、ドローンの機体一台一台はパケットだと思っています。物体があって、センサーとして情報を取得できるところ以外は、インターネットと同じなのではないでしょうか。

インターネットが出てきた1999年にわれわれがスマートフォンを想像できなかったように、ドローンの登場後の未来は、まだ何も語れていないのかもしれません。

***

講演後は、参加者から「バッテリー問題はどうなっているのか」などの具体的な質問から「空にも価値ができていくのか」など未来を描いた質問があり、二人がそれぞれに答えて会場全体でドローン前提社会を想像する時間となった。

空の産業革命で世界は変わる

盛り上がりを見せたトークセッションの後は、参加者とともにワークセッションを開催。

①空の産業革命であなたの仕事・業界はどう変わる?
②空の産業革命で実現できる理想の暮らしとは?
③空の産業革命で生まれるビジネス/なくなるビジネス
の3つをテーマにまず個人が考え、その後チームで発表。チームの中から代表1名が全体に発表した。

ワークセッション

理想の暮らしに対しては、

「ドローンを使うことは、移動時間の解放になると思う。何時にどの交通手段でどこに行く、という調整をすることがなくなるし、自動運転なので移動中の時間が自由になる」

「ECサイトでものを買った時国内なら12時間、ブラジルからでも12時間でも届くようになる。歩行中にドローンが荷物を渡してくれるので、郵便物受け取りの手間がなくなる」

「すごく小さいサイズのドローンが普及すると、プライバシーの保護が重要になると思う。しかし、同時に人が空を飛ぶことも当たり前になれば、今よりプライバシーに対する意識が下がり、見られることが当たり前の時代になるのではないか」などの意見が出た。

ワークセッション

空の産業革命によるビジネスに関しては、「自分の林地、山、農地にドローンを飛ばしていいという許可を取り付けることが一つのビジネスになると考えている。農家の方々には例えば上空100メートルから画像を送り、人工衛星よりも高性能な画像で農作物の生育がわかるようにするなど、メリットを考えたい」などのアイディアや、「これだけインターネットが普及しても新聞がなくならないように、自動車が普及してもイベントで馬車が登場するように、ドローンに置き換わるものが増えてもなくなるビジネスはないのではないか」という意見が出た。

千葉さん、杉山さんのコメントもあり、それぞれがドローン前提社会到来後の未来について思いを馳せた。

最後は、ドローンを使って全員で映像撮影。閉会後もドローンの操縦を体験したり、互いに意見交換したりと、参加者同士が交流を深めていた。

ワークセッション

#06 2030年、私たちはクルマで空を飛べるか?