空飛ぶクルマの挑戦者たち

2019.10.07.Mon

実現に近いエアモビリティとは?

空飛ぶクルマの挑戦者たち

現在、世界中で空飛ぶクルマの開発が進められている。その中で走行実現が最も近いとされるエアモビリティ、「ホバーバイク」の開発に挑むのが株式会社A.L.I. Technologies(以下、A.L.I.)だ。片野大輔代表に開発中の機体と今後の展望を聞いてみた。エアモビリティ開発のいまに迫る。

道なき道も浮きながら走れる! SF映画のような「ホバーバイク」が実現

A.L.I.は、ドローン・エアモビリティの開発やインフラの設計を手掛ける、スタートアップ企業。千葉功太郎さん率いるベンチャーキャピタル Drone Fundの投資先でもあり、千葉さんと同じように、ドローン前提社会の実現を目指している。

「現在、ホバーバイクの開発とともに、ドローンや空飛ぶクルマが安全に飛ぶためのインフラ構築システムを作っています。トップレベルの高機能ドローンも開発していて、操縦士の提供も行っています。『最新のドローンです、どうぞ使ってください』と企業に提供しても扱えなかったら意味がないですからね」

力を入れるホバーバイクは、近未来的なスタイリッシュなデザインが特徴的で、まさにSF映画に登場するようなビジュアルだ。

ホバーバイク 量産機イメージ

「開発者である会長の小松はSF映画の象徴ともいえる『スター・ウォーズ』が昔から好きで、見た目にはこだわりましたね。乗っている姿もかっこいい! と思えるようなデザインを意識しています。デザインのかっこよさだけでなく安全性と安定した乗り心地も最大限に追求しました」

また、小型に作られているのもこだわりだという。

「現段階のホバーバイクは、ヘリコプターではなく、あくまで車の延長線上と考えています。車としても走れれば、みんなが利用しやすくなりますからね。小型化にこだわったのもそれが理由でした。浮きながら走れるので、車が入れない場所での災害対応や警備での利用はもちろん、川・湖・砂漠地帯などの移動が難しい場所でも重宝されると思います。将来的には、レースやレジャー観光地などで手軽に楽しんでいただけるアクティビシティも視野にいれていますよ」

片野大輔さん

3月には公開飛行試験を行い、リミテッドエディションは年内に予約受付もスタート予定。今年10月の東京モーターショーで初めてリミテッドエディションの出展も予定されている。

「航空機の開発だと、大きな予算と時間もかかるので、私たちは近い未来を想定してホバーバイクの開発に取り組んでいます。来年の初めにはドバイで試乗会を行う予定です。まずは富裕層に向けて販売していきますが、量産機を開発できるようになると、手の届きやすい価格帯で販売できると思いますよ」

順調に進んでいるように見えるが、ここに至るまでには多くの困難があったに違いない。どんな苦労があったのだろうか。

「会長の小松が事業を立ち上げた当初は1、2人しかメンバーがいなかったので、そこからプロペラに詳しい人、車体に詳しい人などを集めていきました。チーム作りが最初の難関でしたね。開発の過程では、機体の小型化に苦労しました。機体は大きい方が浮かせやすくて、小さくすればするほど浮かせにくくなります。最適なサイズを見つけて、安定して飛行させるのには時間がかかりました」

未来のモビリティが勢揃い! 注目の空飛ぶクルマをピックアップ

空飛ぶクルマを開発するのは、A.L.I.以外にも世界中に存在する。ここでは編集部がピックアップした空飛ぶクルマの開発に挑戦する企業を紹介しよう。

●SkyDrive(スカイドライブ)

スカイドライブ

CARTIVATOR・SkyDrive

『モビリティを通じて次世代に夢を提供すること』をミッションに、有志団CARTIVATORから生まれたのがSkyDrive社(東京)だ。開発するのは陸空兼用の空飛ぶクルマ。日本で初めて無人での屋外飛行試験を2018年12月13日に成功させ、2020年のデモフライト実現を目標に掲げている。

株式会社SkyDrive
所在地:〒169-0072東京都新宿区大久保3-8(東京本社)
https://www.skydrive.co.jp/(外部サイト)

●teTra aviation(テトラ・アビエーション)

パーソナルヘリコプター teTra

パーソナルヘリコプター teTra

東大発のベンチャー企業。一人乗りの小型モビリティ「teTra」を開発している。現在、ボーイングがスポンサーを務める賞金総額2億円の「空飛ぶクルマ」開発コンテスト「GoFly」に日本で唯一出場することが決まっている。

テトラ・アビエーション株式会社
所在地:東京都文京区
https://www.tetra-aviation.com/(外部サイト)

●AIRBUS(エアバス)

AIRBUS AIRBUS

®︎AIRBUS

欧州の航空機メーカー、エアバスは空での移動を実現すべく4人乗りの空飛ぶクルマ「CityAirbus」を開発している。従来のヘリコプターよりも静音で、最高速度120km/hで飛行できる。2023年の実用化を予定している。

AIRBUS
https://www.airbus.com(外部サイト)

●Uber(ウーバー)

Uber Air

Uber Air

日本でもおなじみになってきたアメリカの大手配車サービス「Uber」も空飛ぶクルマの開発に積極的だ。渋滞解消のためのドローンタクシー「Uber Air」を開発中。離着陸するエアポートは、駐車場や活用されていない建物の上など複数の場所に設置することを想定している。

Uber
https://www.uber.com/jp/ja/elevate/uberair/(外部サイト)

●Ehang(イーハン)

Ehang 216

Ehang 216

中国のドローンNo.1シェアを誇る企業。開発する「Ehang 216」は、全自動飛行が可能で、パイロットがいらない。これまでに1000回以上の有人飛行を成功させ、今年の4月にウィーンでデモ飛行も行った。

Ehang
http://www.ehang.com/ehang184/(外部サイト)

いつか、日本のエアモビリティが世界トップシェアに!

紹介したように世界中でさまざまなエアモビリティが開発されている。片野さんは日本と世界の機体開発においてそこまでの差は感じていないという。

「機体開発に差は感じていません。ただし、アメリカや中国に比べると日本のスタートアップは海外に比べてまだ少ないため、資金や人材が集まりにくいですね。それはエアモビリティ事業に限りません。まだインターネットサービス事業であればお金を出しやすいと思いますが、エアモビリティのようなハードウェアのビジネスは難しい状況ですね」

失敗してもまたやり直せるという国の文化的背景も関係しているのかもしれないが、アメリカのシリコンバレーでは日々、多くのスタートアップ事業が生まれている。海外と比べると日本では新しい挑戦に対して、お金などのサポートが得にくいのかもしれない。そんな状況でも片野さんは力強い。

「自動車をはじめ日本人はもともとモノ作りが得意です。今後、空飛ぶクルマの開発者が増えていけば、産業として活性化し、拡大していくはずです。だから、開発に携わっている人をライバルだと意識しているわけではありません(笑)。未来を作るための仲間ですね」

いつかは自動車だけでなく、エアモビリティでもトップシェアが取れる企業が生まれる可能性はある。そのためにはエンジニアや一緒に夢を実現するパートナーが増えることを願っていると片野さんは語ってくれた。

片野大輔さん

最後に、日本では難しいとされるエアモビリティの開発を続けられた理由を聞いてみた。

「エアモビリティは日本が抱える社会問題を解決できると思っています。インフラが整っていない場所の移動を快適にして、移動弱者を救うこともできるようになるし、災害時や被災地でも活躍できると思います。私は子どもの頃、物理学者か数学者になりたいと思っていたほど、問題を解決することが大好きで、それがモチベーションになっている部分はありますね(笑)」

エアモビリティの産業化に向けて、これからも課題は山積みだ。しかしその状況こそ、片野さんにとっては大きなやりがいにつながるのかもしれない。これからのA.L.I.をはじめとしたエアモビリティの開発者たちの未来に期待したい。

株式会社A.L.I. Technologies
代表取締役社長
片野大輔さん
東京大学工学部を卒業後、Boston Consulting Group、Dream Incubator にて、メーカーから飲食まで国内外の幅広いプロジェクトに従事。その後、アジア最大級の独立系コンサルティングファームの日本法人代表取締役に就任。欧州への海外展開プロジェクトを推進後、10年以上に亘る戦略コンサルティング・経営支援の経験を経て、エンジェル投資家として参画していた株式会社A.L.I.Technologiesに2018年7月代表取締役COO就任。2019年3月現職に就任。
編集・取材・文:都恋堂
Web、紙、SNS、イベントなど様々なコンテンツの企画から運営までを行う制作会社。「価値あるコンテンツと連動してFANをつくる」をモットーにエンドユーザーの視点と裏取りのある1次情報にこだわった泥臭い制作スタイルが特徴。全国26,000人の働く女性が集うコミュニティ・メディア「女子部JAPAN(・v・)」の運営もしている。
写真:友田和俊(ともだ・かずとし)

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