「未来をつくる」ファッション

2022.11.09.Wed

FQイベントレポート

「未来をつくる」ファッション

“2040年、私たちは何を身にまとうのか”をテーマに、素材やテクノロジー、環境問題といった切り口から「ファッションの未来」を探った本特集。今回は連動企画としてオンライン配信された、座談会イベントをレポートする。
登壇したのは、新星ギャルバースなどを中心にNFTアートの最前線で活躍するアーティストの草野絵美、若者のファッションアイコンであり海外のアーティストとも楽曲をコラボしているアーティスト・モデルのMANON、3DCGを活用して新しいファッションの捉え方を提示しているデザイナーのosumi。「“未来をつくる”ファッション」についてそれぞれの視点で語ってもらった。

テクノロジーの発展で身にまとう日常はどう変化したか

イベントの冒頭ではまず、テクノロジーやデジタルサービスの進歩による日常の変化がシェアされた。

絵美「洋服を買うときにリセールバリュー、つまりフリマサイトで売れるようにタグを取っておいたり、SNSにあげるためにブランド品をレンタルしたりと、服の資産価値が流動的になっているのは身近なところで感じる変化ですね」

MANON「アプリケーションのフィルターを使ってファッションやメイクを楽しめるようになったこと。リアルよりも盛れたりするので、そこはテクノロジーの進化のありがたみを感じます。最近、雑誌やInstagramを見ていてよく目にするのが、3DCGと人間の組み合わせ。aespa(エスパ)という韓国のグループはそれぞれのメンバーに分身的な3DCGのアバターが存在するのですが、彼女たちが火付け役なのか、最近はアバターと自撮りをしている写真を見ることが増えた気がします」

テクノロジーが新たな価値観や楽しみを創出する一方で、クリエイターの視点では現状に難しさを感じる点もあるようだ。バーチャル空間で洋服やスニーカーをデザインするosumiは、今後クリアすべきポイントをこう示唆する。

osumi「技術的な話では、最近まで高額だった3DCGのソフトが月に数千〜数万円と、比較的安価で使えるようになり、YouTubeで無料ソフトの日本語版チュートリアルが見られるようになったことで、個人でも3DCGを使用した作品制作に挑戦しやすい環境になってきています。ただその反面、リファレンスが一緒なので差別化が難しくなっているとも感じます。『3DCGでファッションをデザインしているなんて珍しいね』と言われることもあるのですが、3DCGはツールとして使っているだけなので、今後は今まで以上に、なにを伝えたいかという表現の目的が重要になってくると思います」

草野 絵美(くさの えみ)

草野 絵美(くさの えみ)
東京生まれ。慶應義塾大学SFC 環境情報学部卒業。 2021年、当時8歳の長男のNFTアートプロジェクト「ZombieZoo」が世界中のアートコレクターたちの目にとまり、最高4ETH(160万円相当)で取引される。2022年、自身がクリエイティブディレクションを手がけるNFTプロジェクト「ShinseiGalverse」を開始。同年4月のリリースでは世界最大のNFTマーケットプレイスOpenseaの24時間売上ランキングで世界1位を記録した。

ファッションの今とこれから

そうしたテクノロジーの進歩によるメリットや課題を踏まえ、「ファッションの今とこれから」のテーマでは、それぞれの領域で今後起こりえる未来について語られた。

絵美「NFTを扱う事業者としてもアーティストとしても、ファッションが好きなイチ消費者としても、バーチャルのファッションとリアルのファッションが互いに刺激しあう未来になるのではないかと思います。今はまだARやInstagramのフィルターでファッションを楽しむことに限られていますが、例えばARグラスで現実世界でもバーチャルの洋服を着ている状態に見えたり、逆にバーチャルの服を3Dプリンターで作ることが可能になったり、そういった融合が起こるのではないかと考えています」

osumi「私はファッションデザイナーの捉え方を、少し先の未来を感じられるワクワク感を届ける存在であり、見知った世界を見知らぬ世界に変貌させる役割なのではないかと考えています。私が作品を制作する際、例えばスニーカーのソールを3DCGで非現実的な動きで見せるなど、人に驚きや楽しさを与えるような表現を心がけて取り組んでいます。ファッションデザイナーはリアルで洋服を作る人のみを指す言葉ではなく、3DCGでビジュアルを提案する私の立場も、ファッションデザイナーであると公表していきたい。ファッションでなにかをクリエーションしたいと思っている若者たちに、もっと自由にファッションを捉えていいんだよ、という新しい提示になればと考えています」

osumi(おおすみ)

osumi(おおすみ)
3DCGを用いた作品で新たな人物像を提案するファッションデザイナー。新マロニエファッションデザイン専門学校とここのがっこうプライマリーコースでデザインの基礎を学び、「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」のデザイナー坂部三樹郎が運営するファッション学校「me」に進学。2020年からファッションブランド「ウォーターブルー(Water Blue)」をスタートし、3DCGの世界観を体感できるプロダクト制作にも注力している。

Osumiのブランド『Water Blue』の3DCG作品

MANON「私が行なっている音楽活動や楽曲制作においても、より自由自在にファッションを取り入れられるようになると感じています。これからテクノロジーが進化していくにつれて、たとえば楽曲をコラボしたけど実際に会ったことのないアーティストとバーチャル上で一緒にライヴを実施できたり、バーチャルだからこそ実現するイベントが増えていくと思う。会場に行けない人も、リアルタイムで同じ音楽のバイブスを共有できたらすごくいいんじゃないかなと思います」

MANON(まのん)

MANON(まのん)
次世代カルチャーアイコンとの呼び声が高い、福岡県出身の20歳。
dodo、LEX といった新鋭アーティストから藤原ヒロシ、ケロ・ケロ・ボニトまで多岐のコラボも話題になってきたアーティスト活動、ストリートからモードまで着こなすモデル活動と音楽・ファッションを横断した活躍で注目を集めている。

MANONの楽曲『GALCHAN MODE』、『Girlfriend』

これらの可能性を具体的に捉えられる私たちもまた、このバーチャルやSNSでの過渡期をリアルタイムで体験していると気付かされる。ここでさらにもう一つ、草野絵美がクリエイティブディレクターを務めるプロジェクト『新星ギャルバース』の運営からは、リアルとバーチャルの位置関係について興味深い動きが見られるという。

絵美「新星ギャルバースは、ギャル×メタバース×ユニバースをコンセプトに、イラストレーターである大平彩華さんと共に作りました。80〜90年代の少女アニメの感性を取り入れた作風で、ランダム生成されるジェネレラティブNFTを展開しています。おもしろいと感じたのは、購入された方がプロフィールピクチャと自分のアイデンティティをどんどん融合していくところです。たとえば、ブルーの髪のNFTを買った人が自分の髪もブルーにする。愛着が湧いてくると自分のアーティスト写真としてアイコンを使ったり、グッズを作ったりする方もいらっしゃいます。それぞれのプロフィールピクチャには性格や名前、物語がメタデータとして埋め込まれていて、そのストーリーから触発され、関連する小説を書いたりアートを作ったり、二次創作を楽しんでいる方が多い。NFT作品を購入して楽しむことと、物理空間で洋服を買って楽しむことと、感覚が似ているのだと感じます」

草野絵美が展開するNFT『新星ギャルバース』

未来をつくるファッション

パネリストの3名によってここまで語られてきた「テクノロジー×ファッション」の現在地と今後の可能性。その総括として「未来をつくるファッション」では、次の新時代におけるファッションのあり方を予想してもらった。

絵美「今後さらに性別や障害など、すべての属性を超えて誰でも様々なファッションを楽しめる時代になると思います。前提として、フィジカルで洋服を楽しむこと自体はなくなりませんし、逆に今着ている洋服が、未来では古着として幅広く価値が上昇するという視点もある。情報やマーケットが整備されていくと、『2013年のRAF SIMONS(ラフシモンズ)期のJil Sander(ジルサンダー) の服をバーチャルで着たい』という要望があったから、バーチャルで販売しましょうというような過去を未来に変換することも可能になる。それにosumiさんの言うように、誰しもがトライできる環境になってきているからこそ、個人で創作するクリエイターもより増えてくると思います。例えば、絵が描けない人でも自分で着たい洋服のイメージを画像で組み合わせてAIに描いてもらい、発注したら次の日に届くシステムができれば、個人の創作はもっと拡大します。そういった自由な制作が可能な時代が近づいていると思います」

osumi「一年位前、私のブランドの展示会「me Think course 修了展」にて、VR空間で作品を楽しんでもらう企画を行ったのですが、VRを体験したお客様から『意外とVR空間って居心地がいいね』と言っていただけて。そのとき、現実世界からバーチャルへ日常的に行き来できるようなアクセサリーや洋服があったらおもしろそうだな、と思ったんです。眠りに入るときの心地よさと同じように、リアルとバーチャル の居心地について追及していきたい。日常的にバーチャル空間へ移動できる未来が来たらワクワクするなと思います」

MANON「先日、きゃりーぱみゅぱみゅさんのライブを観に行ってきたんですけど、MCできゃりーさんが『ナシをアリにする存在になりたい』っておっしゃっていて。その言葉にすごく感銘を受けて、今までには起こり得なかったことが実現できる、そんな時代になっていくと肌で感じました。たとえば私の場合、ライヴで衣装を決めるときに悩んでしまうことがあって。ライヴのパフォーマンスではすごく動くので、厚底の靴を履いたら転んでしまうかなとか、ミニスカートを履きたいけどキワドイかなとか、考えてしまうことが多い。でも、バーチャルのライヴならどんな靴でも転ばないし、ミニスカート履き放題だし、自分の好きなスタイルを体系とかジェンダーとか、なにも気にせずに楽しめますよね。今まで自分の中でナシだと思っていたことをアリにするような、自由な発想が実現できるようになればいいですね」

ファッションの未来は楽しさに溢れている

異なる分野で活躍しながらも、ファッションという軸で共感し合うことが出来たというパネリストの3人。デジタルカルチャーの最前線に立つ彼女たちのディスカッションから、新たなトレンドが生み出される予感に満ちた座談会となった。

絵美「今回、お二人と話す中でファッションは過去と未来を行ったり来たりする、おもしろい魅力を持っていると思いました。MANONちゃんの幼少期に見た『かわいい』を再構築する活動にシンパシーを感じましたし、osumiさんのお洋服も早く現実でもバーチャルで着られるようになりたいな。すごく楽しみにしています」

osumi「私は普段、パソコンの前で作業することが多いので、今日はほかのクリエーターさんの視点、未来のバーチャルに対する視点など、様々な見解を聞けてとても楽しかったです」

MANON「私も普段接することのないクリエイターの方のお話が聞けて、すごく新鮮でした。3DCGやバーチャル空間、アバターなど、すごく大好きなんですけど、まだ自分で作ったことがないから、作り手の視点を聞くことができてすごく興味が湧きました」

リアルとバーチャルの融合が進むにつれ、広がっていく私たちの自己表現の場。デジタルファッションで示すアイデンティティや、3DCGから着想を得たフィジカルの装いなど、テクノロジーの進化はファッションにさらなる可能性が宿っていると教えてくれる。少し先の未来の日常になるであろう、まだ私たちが体感したことのないファッションのあり方に胸を高鳴らせるばかりだ。

本イベントの音声は下記からご視聴可能です。

文:野中 ミサキ(のなか みさき)
編集・取材:Qetic(けてぃっく)株式会社
国内外の音楽を始め、映画、アート、ファッション、グルメといったエンタメ・カルチャー情報を日々発信するウェブメディア。メディアとして時代に口髭を生やすことを日々目指し、訪れたユーザーにとって新たな発見や自身の可能性を広げるキッカケ作りの「場」となることを目的に展開。
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