少量多品種で「スニーカーの民主化」を目指す

2022.09.26.Mon

3Dプリント×靴づくり

少量多品種で「スニーカーの民主化」を目指す

2010年代に世界中でブームとなった「スニーカー」。NIKE、adidasなどの大手ブランドがさまざまな改良とデザインのアップデートをおこない、新作をリリースするたびに長蛇の列と価格高騰が起きた。そんなスニーカーブームを経ていま、フットウェアブランド「MAGARIMONO」が業界の常識を覆そうとしている。「すべてのパーツを3Dプリンターで製作し、スニーカーの民主化を目指す」という前例のない挑戦。その具体的な内容と目指す未来について、同社の代表兼フットウェアデザイナーの津曲文登氏(34)に話を聞いた。

デジタルファブリックでつくるスニーカーには大きな可能性がある

― 2010年代の爆発的なスニーカーブームを経て、2020年にMAGARIMONOが創設されました。なぜテクノロジーの力を使ってスニーカーをつくろうと思ったのでしょうか?
もともとの興味は、スニーカーよりハイヒールにありました。専門学生の時にアルバイトをしていた「FabCafe Tokyo」でレーザーカッターや3Dプリンターに触れながら、学校の自由課題ではヒールを手で作ろうとしていました。しかし学校で靴作りを習う中で、クオリティ第一という考えのもと、左右の足を均等で作ることを教えられていたのですが、ふと人間の足の形はそもそも左右バラバラで、手作りである限りは差が出ると思ったんです。そこで、3Dプリンターを使用すればミラーができるのではないかと考え、それがフットウェアにテクノロジーを取り入れようというMAGARIMONOの起点になりました。


― そこからどのように今のプロダクトの製品化に繋がったのでしょうか?

専門学校卒業後、現在共にMAGARIMONOのデザイナーをしている小野正晴くんがベンチャー企業から声をかけてもらい、一緒に本格的なデジタルテクノロジー × シューズ のプロダクトの開発を行ったんです。最初に製作したのは、レザーや塩化ビニールなどの一般的なファブリックをアッパーに使ったデザインでしたが、完成してみると特に大手のシューズメーカーと変わりがないことに気づきました。そこで、デジタルファブリックでつくるスニーカーに挑戦してみたところ、ファブリックが変わっただけではあるのですが、とても可能性を感じ、そこから実験を重ねていきました。

― 当時のスニーカーブームの勢いからすると大量生産が当たり前でしたが、そこにテクノロジーの力が加わることで、作り方自体もサステナブルでデザインも個性が出ますよね。
当時はまだ「サステナブル」という言葉すらも世の中に浸透していない時代で、業界としては、スニーカーというプロダクト自体が工場で機械的に大量生産されていました。だからこそMAGARIMONOは、製造数に縛られずに少量多品種でつくれるシステムを打ち出すことに意味があると思いました。

― 具体的な制作プロセスについて教えてください。
試作段階では、一般的なプラスチックで一体成形にチャレンジをしましたが、履き心地や怪我のリスクを考え、アッパー(足を覆う部分)とソール(靴底部分)は別々につくろうと考えました。
別々につくることで履き心地に配慮できた一方、使用した素材に対して既存の接着の仕方ではうまくいきませんでした。アッパーをジップロックのように袋状にすることも考えたのですが、強度の面では弱く、3Dプリンターだと袋状にすることがまず難しいなど、さまざまな課題に直面しました。
そのような中で、靴のリペアなどに使用される「TPU(熱可塑性ポリウレタン:プラスチックであるのと同時に、弾力性があり、柔らかいのが特徴)」を使用してみたところ、うまくいき、そこから製法のプロセスへと移行していきました。

TPU材料を使いソールは「粉末焼結積層法(SLS方式:赤外線レーザーを使い高温で粉末を焼結させる3Dプリンティング手法)」で造形。アッパーは、「熱溶解積層法(FDM方式:材料を溶かして一層ずつ積み重ねてモデルを造形していく3Dプリンティング手法)」を採用。

― デジタルファブリックや3Dプリンターなど、テクノロジーだけではなくデザイン性としても既存のシューズのかたちとは違った試みをしていますよね。
初めのうちは、現代のスニーカーのデザインに近づけようと実験をしていました。しかし、果たして先人が残してきたラインの上を歩く必要があるのか自分たち自身に問い直したときに、3Dならではの技術で既存の概念を壊したいという想いが出てきたんです。一般的な靴作りの製法だとベースの木型に沿ってつくりますが、実験を重ねていくなかで3Dであればその型にとらわれず自由な造形ができる魅力に気がつき、「3Dプリンター」と聞いて想像するプラスチックの硬いイメージに対し、履き心地の良い、やわらかさを想像させるようなイメージをデザインで表現できないかと考えました。すでに大手のシューズメーカーも同じくクッション性をイメージさせるようなデザインを打ち出していましたが、MAGARIMONOの独自性としては、普段目に見えるけれど、物体化されていないものとして自然物の「蒸気」から着想を得て「CLOUD」が生まれました。

― 「CLOUD」で展開されているラインナップやMAGARIMONOという名前自体も日本語がベースになっていますが、あえて日本を意識してネーミングしているのでしょうか?
海外から逆輸入してきたブランドのようなイメージでネーミングは考えています。「MAGARIMONO」は、日本人でも意味はわかるけど日常会話ではあまり聞かない言葉であり、海外に行けば「異端児」という説明で理解してもらえる言葉でもあります。「日本」をより意識している部分としては、シューズ作りのプロセスにおいて職人の方と協業している点です。3Dプリンターである程度完成に近い状態までつくるですが、最終的に気持ちいい、心地いいと思う感覚は、機械数値で割り出せない部分があると考えていて、最後の仕上げは職人の方に依頼をしています。人が使うものだから、そこに人間味が介入することは大切なことだと思っています。

― 効率性を考えると、3Dプリンターのみで全て仕上げたほうがコストバランスとしても良さそうな気がしますが。
そうですね。3Dプリンターを使っている限り、一体成形でいいんじゃないかと提案をいただくこともありますし、実際コストとスピードを優先して一体成形で大量生産をしているブランドも出てきました。しかし、完璧な工業化を求めることは、ある意味、職人の方がいる生産背景にとってエゴが強すぎるような気がします。それよりもMAGARIMONOは少量生産を取っていることも然り、個体差が生まれる遊びや美しさを大切にしたいと思っています。それこそがクラフトマンシップの醍醐味のように感じています。

― まさに今年4月にリリースしたA-POC ABLE ISSEY MIYAKEとのプロジェクト「TYPE-III Magarimono project」は、クラフトマンシップとの融合でした。どのようなプロセスで製品化まで至ったのでしょうか?
知人を介してA-POC ABLE ISSEY MIYAKEのデザイナー、宮前さんへMAGARIMONOの取り組みを紹介する機会がありました。彼が率いているのは、服づくりのプロセスを変革した"A-POC"を発展させるブランドですから、改めてそのプロセスを変えることに興味を持ってくださったことが最初のとっかかりでした。そこから、ひたすらブレストを重ねていくうちに宮前さんから「素肌で履けるやさしさのあるプロダクトを作りたい」というアイデアをいただいて。そこに3Dならではの技術を使うと考えたときに、中身の詰まった立体編みを行う「ソリッド編み機」で製品を作っている友人のことを思い出しました。何度かソリッド編みですべて編み込みのスニーカーがつくれないか模索したのですが、結局生産する上でのインフラ整備を想定した時に難しく断念。そこで宮前さんに編みであれば、草履に応用できるんじゃないかとアイデアをいただいて、今回リリースしたかたちにおさまりました。

©ISSEY MIYAKE INC.日本古来の製法の履物をモチーフに、素足で履くことができる男女兼用のサンダル。3Dプリントの技術を駆使して、手で紐を直に編み込むことができる特別なソールを生み出した。

大量生産ではなく、1足単位から生産できるのが魅力

― デジタルファブリケーションの分野で興味深い動きはありますか?
FabCafe 時代に知り合った大日方伸さんが手がけるデザイン会社「積彩(外部サイト)」と、スペキュラティヴファッション・ラボラトリ「Synflux(外部サイト)」の活動は興味深く、MAGARIMONOとの親和性も感じています。「積彩」は積層のプリンターを使うことで色を表面にのせるのではなく、積み重ねていき、見る角度によって色を変えることができる技術を持っています。「Synflux」にはアルゴリズムの力を借りて既存のパターンメイキングに効率性とサステナブルなアプローチが出来ないか実験している姿勢から、MAGARIMONOの活動とも近い部分を感じて、なにか一緒にできたらと話しています。そういった繋がりのある方々と一緒にデジタルファブリケーションの分野をさらに盛り上げていきたいと考えています。

― Synfluxとも協業を行なっている HATRAとは、今年5月に金沢21世紀美術館で開催された展覧会「甲冑の解剖術ー意匠とエンジニアリングの美学」でシューズを開発・展示していましたね。
「甲冑の解剖術」というタイトルの通り、現代版の甲冑をイメージしながらHATRAの長見(佳祐)さんとデザインを考えていきました。長見さんにMAGARIMONOのソール自体気に入っていただいていたので、ソールは活かしつつアッパー部分で新しい表現の仕方を模索していきました。今回はアッパーにハニカム形状を何層にも重ねることで、従来のスニーカーについている鳩目(紐を通す穴)を隠すようなデザインに仕上がりました。「甲冑」と聞くと武将の威厳や攻撃的な印象を持つと思うのですが、それを現代版のスニーカーに落とし込むためのブレストを重ねる中で、かっこよさも可愛さも兼ね備えたデザインに行き着きました。展示の際に、キュレーターの長谷川祐子さんから製品化への期待をいただいたのですが、実際生産するにはまだまだ課題があって。ただ、今回の取り組みの中で感じた、エンジニアリングをデザイナーが使うことで生まれる新たな可能性というのは今後も表現していきたいと思っています。

MAGARIMONO x HATRA AURA 金沢21世紀美術館「甲冑の解剖術展」はLow / Mid / Highの3モデルからなるデジタルメイド・スニーカー。3Dプリンタを駆使するMAGARIMONOのデジタルクラフトマンシップにより結実した。

― 近年プロセスエコノミーで消費者との共感性を図る動きが拡大化し、ファッションでもブランドが持つ生産背景や思想で消費者がアイテムを選ぶようになったと思います。テクノロジーを使ったMAGARIMONOの生産背景に対してのリアクションはどのように感じていますか?
少し言い方が厳しいかもしれないですが、既存のブランドコラボレーションの仕方でサンプル費を生産数にのせる考え方は、MAGARIMONOのやり方とマッチしないと感じています。大量生産ではなく、1足単位から適量生産できることがMAGARIMONOの良さなので、既存のビジネス形態では割りに合わなくなってくる。ですから、クライアントワークでお受けする場合はサンプル制作費をいただいてから、まずは土台となるデータをお話ししながら決めていきます。そのあと受注生産の段階ではフィックした3Dデータをサイズ調節するのみなので、あまり手間がかかりません。そのプロセスに可能性を見出していただけるクライアントと今後もご一緒できたら嬉しいですね。

3Dプリンターで自由に「靴」を生成する未来を目指す

― ファッション以外にも今後、親和性を感じる分野はありますか?
建築の分野には興味があります。A-POC ABLE ISSEY MIYAKE、HATRAとのコラボレーションでもお話しした通り、デジタルファブリケーションやエンジニアリングなどの技術を通して新たなデザインを見出す試みにMAGARIMONOとしての存在意義を感じるので、建築であればより新たなプロセスについて対話を起こしていけるのではないかと考えています。もちろんファッションの分野においても可能性を感じていますが、大量生産の仕組みで考えられてきた生産背景や物流への考え方が柔軟にならない限り、ビジネス面での課題はあります。自分たちもコンセプトとビジネスのバランスを模索していく必要性があると思っていますね。

― 今後20年以内に構想していることはありますか?具体的なビジョンをお聞かせください。
MAGARIMONOを創設した時から、いずれはオープンソース化したいと考えています。現状3Dプリンターで完成したものに対して、あとから修理やアッパーとソールのカスタマイズをすることは不可能なのですが、将来的には土台となる設計データをMAGARIMONOが用意して、3Dプリンターなど機材が揃ったスペースでお客様がアッパーとソールそれぞれを選びながら生成することができたらなと構想しています。そうなった時には、スニーカーの要でもあるアッパーとソールのつなぎ目に、コンバースやVANSなどが使っている「バルカナイズ製法」が活用できると思っています。アッパーとソールの間にまだ固まっていないゴムをはさみ、専用の釜に入れて高温の圧力を加えながら、硫黄等の加硫剤を加えることでゴムを硬化させて接着するものなのですが、一番自由度が高くて早くできる方法だと感じています。例えばですが、お客様が3Dプリンターで生成したあと、小さな釜でバルカナイズ製法を使って自分だけのスニーカーを作れるようにしたら、きっと今よりもみんなが「靴」というプロダクトへの関心が高まってスニーカーの民主化が起きると思うんです。プロセスを体験することで、今まであった生産方法、価格、デザインなどへの問題意識が向けられ、1足への幸福度が充実することで環境にも自然と意識が高まったら嬉しいですね。

津曲文登(つまがりあやと)
株式会社MAGARIMONO / 代表取締役 兼シューズデザイナー
1988年宮崎県生まれ。製薬会社に勤務後、ヒコ・みづのジュエリーカレッジで靴作りを学び、シューズメイキングの世界へ。その後、デジタル領域の技術者が集うDiGITAL ARTISANで出会ったデジタルデザイナーと2020年にMAGARIMONO Inc.を設立。同年6月には「Originals White」というコレクションを発表し注目を集めた。現在は、エンジニアリングデザイナーとエンジニアリングを通したプロダクトプロセス簡略化からデザインを探求している。
21年6月_Apple主催オンラインイベント講師出演
21年6月_福祉実験ユニットヘラルボニーとNPO法人アクセプションズ、株式会社MAGARIMONO、ラピセラ株式会社と協働し、ダウン症のある人の足の課題を解決するオーダーメイドサンダルのプロトタイプを発表。
21年8月「知財図鑑」のオンライン公開取材第1回目のゲスト出演。
22年4月_APOC ABLE ISSEY MIYAKEとの共同開発「TYPE-III」をリリース。
22年5月_ファッションブランドHATRAとのコンセプトスニーカー「AURA」を金沢21世紀美術館の企画展「甲冑の解剖術―意匠とエンジニアリングの美学」に展示。
取材・文:倉田佳子(くらたよしこ)
写真:三浦大(みうらまさる)
編集・取材:Qetic(けてぃっく)株式会社
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