宇宙で生活するのは日常の延長線

2022.03.01.Tue

星出宇宙飛行士インタビュー

宇宙で生活するのは日常の延長線

2021年4月から約半年間、JAXA宇宙飛行士として宇宙に滞在した星出彰彦さん(53)。国際宇宙ステーション(ISS)のコマンダー(船長)という重責を果たし、かつ船外活動は累計28時間17分という日本人宇宙飛行士の最長記録を達成した。米国のスペースシャトル、ロシアのソユーズ宇宙船、そして民間宇宙船クルードラゴンの3機に搭乗し、将来の月・火星探査にむけた技術開発にも貢献する星出さん。そんな「頼れる宇宙のエンジニア」にISS滞在の秘話や、理想の宇宙旅行についてうかがった。

7人の宇宙飛行士をまとめ、約200日の宇宙滞在

星出さんにとっては、2度目の国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在となった今回のミッション(2021年4月23日から11月9日)。アメリカ、ロシア、フランスから来た6人のクルーを束ねる船長として、宇宙環境を生かして取り組んだ実験を振り返ってもらった。

「国際宇宙ステーションの最大の目的である宇宙実験で、私自身JAXAの40テーマを含む127の実験に携わりました。新しい薬の研究に関わるたんぱく質の結晶をより効率的に成長させる手法開発に関する実験や、細胞が重力を検知するメカニズムを調べる実験などがありました。また、将来の有人月探査に向けて、様々な機器の検証もしました。新しい機器を月まで持っていっても壊れたら困るので、宇宙ステーションの中で検証して問題を洗い出し、より信頼性の高い機器に仕上げていくわけですね」

ISSではこうした宇宙実験に加えて、ISSという"宇宙飛行士の家"を守る仕事もある。

「国際宇宙ステーションに新しい太陽電池パネルを取り付けたり、新たに取り付けたロシアのモジュールのために船外にケーブル類を接続したりといったISSのアップグレード作業を行いました。想定外の事象もいくつかありましたけど、地上のチームと協力しつつ、取り組むことができました」

さらに、自分たちの身の回りのこともしなければならないという。

「自分たちの生活に関わる、食事の準備や掃除、保守点検作業も私たちの仕事です。ISSには7人しかいませんので(笑)。アメリカとロシアの無人の補給船が月に1回くらい来ます。物資の補給や、廃棄品や実験のサンプルを地球に戻すため船に詰め込むといったことも大事な作業です」

「実験機材を積んだ宇宙船がくることもあります。すぐに取り掛からなくてはいけないので、忙しさもピークになりますね。それが一段落するとちょっと落ち着いて、というようにISSの中で忙しさにはそれなりに波があります」

船外活動(EVA)を行う星出宇宙飛行士(提供:JAXA/NASA)

船外活動(EVA)を行う星出宇宙飛行士(提供:JAXA/NASA)

これから変わる宇宙飛行士の役割

テクノロジーの極みである一方、時間も利用できる資源も限られているISSの生活。想定外のことに対応する基本は、コミュニケーションだという。

「今回も、他のクルーの船外活動で想定外の事象があって、いったん船内に戻って出直すことがありました。大事なのは、地上のチームに対して、私たちが持っている情報を正確に伝えることです。カメラの映像を見てもらってはいますが、まずは『こういうこともやってみたんだけどダメだった』、『この部分が当たってるんだよ』など、事象をきちんと伝えます。その上で、地上のチームが『では、次はこうやってみたらと思うけど、どうだろうか』と考えてくれるわけです。地上のチームと一丸となることによって、想定外の事象にも対応することができます」

コミュニケーションの大切さは地上でも当たり前、と思われるかもしれない。ただし、様々な国出身の宇宙飛行士のいる国際宇宙ステーションでのコミュニケーションは、基本的に英語だ。宇宙飛行士は、母語とは異なる言語でチームをまとめつつ、地上と密なコミュニケーションを維持する。

宇宙服と星出宇宙飛行士らSpaceX Crew-2クルー(提供:JAXA/NASA)

宇宙服と星出宇宙飛行士らSpaceX Crew-2クルー(提供:JAXA/NASA)

そうした特別な訓練を受けたプロフェッショナルな人のみが宇宙に携わっていたが、星出さんは宇宙の世界に、もっと多様な人々が入ってくる将来を思い描いている。

「人類の活動領域は拡大し、宇宙に進出していくものだと思っています。ISSは20年以上運用されていますが、まだ限られた宇宙飛行士しか行っていない。本当の意味での人類の活動領域はまだそこまで広がっていないと思います。多くの一般の方が宇宙に行くこと、そして実験やビジネスという形で宇宙空間を活用するのがあるべき姿だと思うのです」

宇宙飛行士の世界が、パイロット出身者からエンジニアや研究者へ広がっていったように、今後も宇宙飛行士の枠の拡大が起きるのだろうか。

「一般の方が宇宙に来る場合、必ずしも現在、職業宇宙飛行士として求められるすべての要件を満たさなくてもよいのではと思っています。その人たちが宇宙でやりたいことは、実験や技術開発、あるいはエンタテイメントの分野かもしれません。そのやりたいことそのもの、そして必要な準備に集中できればよいわけです」

「そこで職業宇宙飛行士である私たちが何をするかというと、民間の航空産業をイメージしてもらえればよいと思います。乗客として飛行機に乗る人がいて、飛行機の安全な運行のために訓練をされたパイロットとキャビンアテンダントがいて、乗客を確実に送り届ける。同じように、職業宇宙飛行士は一般の方々に対して安全な宇宙利用の機会を提供する、だんだんとそのように変わってくるのではないかなと思います」

「丸い地球」を眺める宇宙旅行

星出さんがISSに滞在していた昨年9月、世界で初めて民間人だけの宇宙飛行が行われた。クルー4人が3日間、米スペースXの宇宙船「クールドラゴン」に乗り、高度約580㎞へ到達して地球低軌道を周回した「インスピレーション4」だ。

また実業家の前澤友作氏がロシアのソユーズ宇宙船でISS滞在を果たすなど、民間人の宇宙滞在が拡大しつつある。最初に宇宙旅行者がISS滞在を果たしてから20年になるが、これから20年後の宇宙旅行はどうなっているのだろうか。

「20年というスパンで考えると、月面拠点は実現しているはずです。一方、地球低軌道であれば、より多くの方が行ける時代になっているのではないでしょうか。今は一般の方が行くにあたってかなりのコストが掛かりますが、徐々に下がってきて、ちょっとした海外旅行に近くなってたらいいなと思います。これは私自身の期待も込めてですけども」

星出宇宙飛行士らクルーが搭乗するSpaceX Crew-2の打上げ(提供:JAXA/NASA)

星出宇宙飛行士らクルーが搭乗するSpaceX Crew-2の打上げ(提供:JAXA/NASA)

宇宙旅行は現在、ISS滞在、または高度100km付近で数分間の無重力を体験するサブオービタル飛行がある。星出さんがイメージする旅行はどんなものだろうか。

「2パターンあって、一つは地球の周りをグルグル回って、無重力の空間でぷかぷか浮きながら自分の好きなことをする。地球をぼーっと眺めるもよし、実験など、やりたいことをやるもよしというもの。インスピレーション4は同じことをしたわけですから、今後の一つのモデルになるのではと思います。もう一つはより遠くに行って、丸い地球を見るというもの。宇宙ステーションは高度400kmしか離れてないので、地球は丸く見えないです。水平線や地平線は丸く見えますが、まだ地球にへばりついている状態です。より遠くに行く、それも一つの旅行になるのではと思います」

累計の宇宙飛行日数が340日の星出さんにとっても、宇宙を回って地球を眺めることが楽しいという。宇宙はそれほど尽きない魅力に満ちた場所なのだ。その魅力的な宇宙を、エンタテインメントに利用したらどうなるだろう。ISSで映画を撮影するというプロジェクトもあるが、ISSで宇宙ならではのアクションシーンは可能だろうか。

「CGやピアノ線を使わずにすーっと重い物や人が飛んでいく、というのは可能なので、私たちも冗談でそうした撮影をしたことがあります。ですから、手で触らずに精神的な力でものを動かす! というシーンは宇宙ではやりやすいかもしれないですね。ただ、格闘シーンのようなアクションだと無重力ならではの難しさがありそうです。飛んだり跳ねたりという場合には、宇宙仕様に構成を考えないといけないかもしれません」

宇宙ならではのアクションを構成する、無重力コリオグラファーという発想まで出てきた。ひとつひとつ、こうして宇宙滞在のイメージは身近になっていく。

「宇宙で生活するのは日常の延長線上で、非日常ではないと感じています。もちろん宇宙食は加工された食品を持っていきますし、トイレもちょっと特殊です。シャワーや風呂はなくて体を拭くだけ、といった生活ではありますが、私自身は何ら過不足ない状態で生活ができたと思っています。ただ、もっと多くの民間の方が宇宙に来られるにあたって、『やっぱりシャワーを浴びたい』『こういうものが食べたい』という要望が出てくると思うのですよね。そうしたところを改善していくのは、これから一つのマーケットになるかもしれません」

離脱するSpaceX Crew-2から撮影されたISS(提供:JAXA/NASA)

離脱するSpaceX Crew-2から撮影されたISS(提供:JAXA/NASA)

宇宙飛行士を目指したきっかけ

宇宙の姿をいきいきと語る星出さん。同じように宇宙を目指す人たちは、現在JAXAの宇宙飛行士募集にチャレンジしている。星出さんに宇宙を目指したきっかけを語ってもらった。

「宇宙に行きたいと思い始めたのは幼少のころですね。3歳から7歳までの4年間、父の仕事の都合でアメリカに住んでいて、スミソニアン航空宇宙博物館やNASAのケネディ宇宙センターに連れてってもらい、実物の宇宙服やロケットを見せてもらいました」

『スタートレック』や『スターウォーズ』、日本で言えば『宇宙戦艦ヤマト』といったSF作品を見て育った世代。現実とフィクションの両方からの刺激で宇宙への思いが育っていった。

「当時は、どうやったら宇宙に行けるかもわかっていませんでしたし、日本人の宇宙飛行士はいない時代でした。高校生のときに初めて日本人の宇宙飛行士が選ばれて、『宇宙飛行士という職業があるんだ、目指してみよう』と考えるようになりました。

大学4年生の時に宇宙飛行士2期生の募集があり応募しようとしたのですが、応募資格に大学卒業資格と実務経験3年以上の条件がありまして。まだ4年生ですから、大学の卒業資格も実務経験もないわけです。それでも申込書を持って直談判しにいきました。もちろん『資格がないから落としますよ』ということになるわけですが。そのときは諦めたものの、JAXAの前身組織のひとつである宇宙開発事業団(NASDA)に入社することにしました。宇宙開発の現場で仕事をしながら、次の宇宙飛行士試験を受けて、また落ちて、3回目にようやく宇宙飛行士候補者として選ばれました」

NASDA時代には、宇宙飛行と密接に関わる仕事を経験している。日本が初めて国産技術で完成させた、衛星打ち上げロケット「H-II」の開発だ。

「入社して最初の2年間はH-IIロケットの開発の仕事を経験しました。特に1号機が打ち上がる直前の2年間で、開発も終盤に差し掛かっていよいよ打ち上げというところでした。実際に現場では最後の最後の追い込みで、さまざまな苦労がありました。技術開発の難しさも、挑戦してそれを乗り越える力があることも教えてもらいましたし、ハードウェアを見ながら本当にいろいろ勉強させてもらったなと思っています」

ロケット開発に関わった経験から、星出さんはある想いを育んでいる。

「やはり私たち日本人の宇宙飛行士として、ぜひ種子島から宇宙へと思います。もちろん、無人と有人の間には、人を乗せることに対する安全性の確保という大きなハードルがあります。ただ、JAXAと関係各社がこれまで蓄積してきた技術をベースにして、そして現在は開発の最終段階に入っているH3ロケットの技術をベースにしつつ、次はぜひ有人ロケットの開発ができたらいいなと。個人的な期待も含めてそう思っています」

SpaceX Crew-2から搬出される星出宇宙飛行士(提供:JAXA/NASA)

SpaceX Crew-2から搬出される星出宇宙飛行士(提供:JAXA/NASA)

星出 彰彦(ほしで・あきひこ)
有人宇宙技術部門 宇宙飛行士運用技術ユニット/宇宙飛行士グループ 宇宙飛行士
1968年東京都生まれ。1992年宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。1999年国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者として選抜される。2001年、宇宙飛行士として認定。2008年6月スペースシャトル「ディスカバリー号」に搭乗してISSへ。「きぼう」日本実験棟船内実験室のISS取り付け作業などに参加。2012年7月ソユーズ宇宙船に搭乗してISSへ向かい、約4カ月の長期滞在で小型衛星放出や3回の船外活動などを行った。2021年に3回目の宇宙飛行で、ISSに約200日滞在。期間中は、約5カ月間にわたりISSの船長を務めた。
取材・文:秋山文野
編集:株式会社ドットライフ


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