海外・国内の注目のスタートアップ

2018.11.14.Wed

「フードテック」は世界を救うか?

海外・国内の注目のスタートアップ

「フードテック」のスタートアップ界隈が、いま活況を呈している。海外で日本で、そして技術やアイデアによって、「未来の食」を創ろうとするパイオニアたちをまとめてご紹介!

ピンチをチャンスに! 社会問題解決型「フードテック」の新規ビジネスに世界が注目!

「フードテック」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。

人工知能(AI)をはじめとする急速なテクノロジーの進化は、ソフトウエア業界だけでなく、既存のサービスや製品を大きく変え、従来型の産業に変革を起こしている。このような「XTECH(クロステック)」と呼ばれる動きは加速しており、金融業界の「FinTech(フィンテック)」、教育業界の「EdTech(エドテック)」などに続き、次なるターゲットとなっているのは食品業界だ。
「フードテック」という言葉が2014年頃からトレンドワードとして台頭しているが、これは、フード(食品)とテクノロジーを組み合わせた造語で、食品生産や調理、流通などにIT技術を取り入れて業界にイノベーションを起こす「食のIT革命」なるものである。欧米では2015年頃から、この「フードテック」のスタートアップに、ベンチャーキャピタルの投資資金が急速に流れ込み始めた。
特に脚光を浴びているのは、「代替肉」や「完全食」、「昆虫食」の分野である。

近年、海外および日本国内で注目を浴びている「フードテック」業界のスタートアップをいくつか紹介してみよう。

投資家たちが熱い視線を注ぐ、海外の「フードテック」スタートアップ一覧

代替肉のスタートアップ

欧米を中心に製品化されているのが、動物性の肉の代わりに、植物由来の成分で見た目も食感も肉そっくりに作られた「代替肉」である。低価格かつヘルシーで、伝染病の流行など思わぬ経営リスクを避けられ、動物を殺さずに済む。そのため、人道的な観点からベジタリアンになった人も代替肉であれば、口にすることが可能となる。動物愛護団体もこの動きを歓迎している。
既存の大手企業も代替肉への移行に積極的であり、アメリカの食品大手も代替肉のスタートアップに出資するほどだ。

Beyond Meat(ビヨンド・ミート)
ビル・ゲイツ財団などが巨額の出資をしており、レオナルド・ディカプリオ氏も投資したことで注目を集めている、アメリカのスタートアップ。大豆やエンドウ豆などを主原料とした、植物由来のひき肉やソーセージ、鶏肉を開発している。肉のタンパク質や脂質などが、分子レベルでどのように構成されているかを分析し、植物性タンパク質や植物由来の油など、より自然で健康な代替物を用いた代替肉を開発した。このように、食品を分子レベルで解析し、新たな食品や料理の開発を研究することを「分子ガストロノミー」と言い、注目を集めている。
米小売大手のホールフーズをはじめ、すでに全米各地のレストランや小売店で販売されている。

肉のほかにも、鶏卵を植物性の原料から作る「植物卵」のスタートアップも。

JUST(Hampton Creek)
ビル・ゲイツやビズ・ストーンが出資している、「植物卵」製品を開発するアメリカのスタートアップ。植物性タンパク質を使い、マヨネーズやクッキーなど卵を使った製品の代替品を「Just(ジャスト)」というブランドで展開している。米ウォルマート・ストアーズを含む、主要小売大手で販売されているほか、公立学校や大学の食堂などで採用されているほか、米国セブン-イレブン社にサンドイッチに使用するマヨネーズを供給している。
Beyond Meat とHampton Creekの2社には、日系企業の三井物産も出資している。

そして、最近注目を集めているのが「培養肉」だ。動物の個体からではなく、可食部の細胞を組織培養することによって得られた肉のことを指し、「クリーンミート」と表現されることも。動物を食肉処理する必要がない、厳密な衛生管理が可能、食用動物を肥育するのと比べて地球環境への負荷が低いなどの利点があり、従来の食肉に替わるものとして期待されている。

Memphis Meats(メンフィス・ミーツ)
元Microsoftのビル・ゲイツやVirgin Group創設者のリチャード・ブランソンら、米精肉最大手のタイソン・フーズが出資している、アメリカの培養肉のスタートアップ。
しかしながら、まだ生産費にかかるコストが高く、1ポンド(約455g)で約9000ドル (約100万円)もかかるそうだ。実用化に向けて、未だ乗り越えなければならない壁も多いが、安価な値段での販売が可能になれば、食肉市場で大きなシェアを獲得することも可能であろう。

完全食のスタートアップ

1日に必要な栄養素を全て摂取できる食品「完全食」の市場も拡大しつつある。

Soylent(ソイレント)
Rosa Labs, LLC. が販売している「生存に必要な栄養素がすべて含まれ、従来の食事が不要となる」とされる完全食。Google Ventureなどから5000万ドルを調達するまでに成長しており、2017年からは米セブン-イレブンでも販売が開始された。

昆虫食のスタートアップ

「昆虫食」の分野も、サステナビリティの観点から投資額がどんどん増えている。

Hargol FoodTech(ハーゴル・フードテック)
低カロリー・高タンパクな昆虫に着目し、バッタを使ったプロテインパウダーを開発するイスラエルのスタートアップ。
EXO(エクソ)
大学生2人が立ち上げた、コオロギを原料にしたプロテインバーを開発するアメリカのスタートアップ。コオロギを原料とした食品を製造する同業の米テキサス州の企業「Aspire Food」に今年3月、買収された。

実は日本でも盛り上がりを見せている! 国内の「フードテック」スタートアップ

完全食

アメリカでは2013年に「ソイレント」が発売されて以降、完全食の市場が広がっている。日本国内でも複数の企業がこの市場に参入しているが、なかでも知名度が高い企業が「COMP」である。

COMP(コンプ)社
ヒトが生きるのに必要なすべての栄養素を、理想的に補える「完全食」を日本独自で開発・販売するCOMP社。
「エンジニアが寝食を忘れて没頭する時間を確保するための栄養食品」として、粉末、グミ、ドリンクを開発している。10種類以上の栄養が含まれており、糖質を抑えながら1食で1日に必要な栄養の1/3が摂取できるという。
ベースフード
BASE PASTAは、1食で必要な栄養素がすべてとれるパーフェクトフード。2017年にグッドデザイン賞を受賞など、ブレイクが期待されるスタートアップだ。面倒だった栄養管理の手間をできるだけ省けるうえに、パスタ、ソースだけでなく、お湯を入れて切るだけでできる「即席カップパスタ」も開発している。からだにいい・おいしい・かんたん、すべての実現を目指している。

培養肉

動物を殺すことなく、細胞培養技術を通じてお肉などのタンパク源を確保できる未来を作ろうとしているビジョナリー企業は、日本にも存在する。

インテグリカルチャー株式会社
人工肉などの培養技術を開発し、細胞培養による食料生産「細胞農業」の社会実装を目指す、インテグリカルチャー株式会社。主に生物学研究をバックグラウンドとする人たちが集まるスタートアップ。細胞を低コストで量産する技術に取り組んでおり、年内に小規模な培養設備を設け技術開発を加速する予定だ。2025年頃に、従来のお肉と同程度の価格で、培養肉を大量生産する技術を確立することを目標にしている。

昆虫食

ムスカ

(写真提供:MUSCA)

身近にいるイエバエを活用して、畜産排泄物(糞尿)などの有機廃棄物を1週間で分解して肥料にすると同時に、昆虫タンパク質の飼料を作り出す技術を開発するスタートアップ。
イエバエの幼虫を養魚飼料原料として提案しており、キロ200円を下回る低コストで大量生産できる体制が整い、来年度は大型実証プラントを建設予定だ。
エリー株式会社
京都大学との共同研究開発により誕生した、日本初の機能性昆虫食「シルクフード」を開発するスタートアップ。「シルクフード」とは、昆虫食の特徴である「環境負荷が低い」「高い栄養価」に加えて、多くの「機能性」成分を含む次世代の食品。主に取り扱っている昆虫は蚕(カイコ)。
特に、蚕の中でももっとも美味とされるエリサンに着目している。原産国のインドでは、高級食材としても扱われているそうだ。
Future Insect Eating
昆虫食を、食料問題解決のいち手段やゲテモノ料理ではなく、美味しく美しい食としてデザインしている組織。昆虫を一食材として捉え、下処理の研究、混合肉やレシピの開発、試食の提供など魅力的な昆虫食への仮説と検証のサイクルを回し続けている。

日本国内では、藻類を用いた「フードテック」ビジネスにも注目が集まっている。
水と微生物を利用した生産システムを開発し、これまで人類が食料を生産する手段は農業しかなかったところに、もう一つ別の藻類を用いた新しい生産手段を得ようと奮闘する企業がある。

ユーグレナ
藻の一種であるミドリムシ(学名:ユーグレナ)を主に活用し食品や化粧品の販売、バイオ燃料の研究等を行っているバイオテクノロジー企業。
東京大学出身者らが中心に設立し、東京大学内に研究拠点を有する東大発のベンチャーであり、沖縄県石垣島にてユーグレナを培養する生産と研究活動を行っている。
タベルモ

タベルモの培養池(写真提供:ちとせグループ)

"食べる藻"の開発を手掛けるバイオベンチャー企業。バイオ技術の研究機関である「ちとせ研究所」のひとつのプロジェクトが母体となっている。
取り扱う藻類はの品種はスピルリナ。タンパク質含有量が高く、ビタミン、ミネラル、食物繊維などを豊富に含むことから、海外を中心に「スーパーフードの王様」として広く知られている。
同社では、このスピルリナを、生きたまま冷凍して提供している。

文:藤橋ひとみ

#01 20XX年、人類は何を食べるのか?