市民の政治参加は進んでいくのか

2021.10.08.Fri

広がるネット活用

市民の政治参加は進んでいくのか

2030年、日本の就労人口の6割がデジタルネイティブになるという予測がある。様々な分野でデジタル化が進んだ社会で、暮らしは今以上に豊かになっているのだろうか。今回、私たちの生活に密接な政治が、デジタル活用でどう変化するかを考えてみた。

インターネット投票は投票率を上げるのか?

デジタルと政治のかかわりでは、「インターネット投票」を思い浮かべる人は多いのではないだろうか。インターネットを使い、国内外のどこからでも投票できるようになれば、選挙が身近になり、投票率も上がるという期待の声は根強くある。

「電子国家」として注目されるエストニアでは、すでにインターネット投票を実現している。人口は130万人ほどで、「e-government」と呼ばれる国民データベースが構築されており、ICチップ付きIDカードによって、ほとんどの行政サービスがオンライン上で完結する。

2002年に地方議会の選挙でインターネット投票を可能にする法律改正が行われた。その後、2007年には国政選挙で、2009年には同国における欧州議会選挙でもインターネット投票が可能になった。これまで10回以上の選挙でインターネット投票が行われている。

2019年の国政選挙では、全投票に占めるインターネット投票の割合は40%を超えた。ただし、選挙の投票率そのものは、インターネット投票導入前と大幅には変わらず60%程度。インターネット投票により政治参加が促進されたとは言い難い。

e-estonia WEBサイト

e-estonia WEBサイト( https://e-estonia.com/(外部サイト) )電子政府としての取り組みを発信

市民と政治家を近づけるSNS

一方、インターネットを活用した政治家の活動は活発化している。自身のホームページで取り組んできた政策を発信したり、ツイッターなどのSNSを活用して有権者との対話の時間を増やしたり。また、各政党の政策を比較できるサイトの登場など、投票に行く人を増やすための取り組みも多々ある。

しかし、選挙は数年に一度行われるものだ。日常的に、長いスパンで政治や政策と関わることも求められている。

生活と政治が密接にリンクする――そんな未来を彷彿とさせてくれるメディアが一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」(本社:東京都渋谷区)だ。「若者が声を届け、その声が響く社会をつくる」というコンセプトで、Instagramを中心に運営。政治や社会について、U30世代の目線から、インフォグラフィックスや数字を用いてわかりやすく伝えている。Instagramのフォロワー数は6.7万人を超え、U30世代の声を政治に届けるような活動も行っている。

NO YOUTH NO JAPAN Instagramアカウント

NO YOUTH NO JAPAN Instagramアカウント( https://www.instagram.com/noyouth_nojapan/(外部サイト)

自分たちの暮らしの中で直面する課題は、どんな背景があって起きているのか。それは、政治とはどのような関係があり、どうしたら変えていけるのか。そうした情報に触れ、かつ自分たちの声が届くようになれば、政治と自分の生活との関わりは深まっていくだろう。

政策に関わることができるプラットフォーム

より直接的に、政策立案のプロセスに関わることができるサービスもある。政治家に直接声を届けたり、政治家が国民の声を聞くことができるサービス「PoliPoli」だ。

政治家から政策が投稿され、読者はその内容にコメントしたり、直接会いに行ったりすることができる。政策の進捗状況も知ることができ、自分がコメントした政策がどのように検討されているのか、追っていくことも可能だ。現在は、主に与野党の国会議員が利用しており、育休取得や子どもへの性犯罪防止、新型コロナウイルス感染症に関する対策など、さまざまな政策を発信している。

ここから実現した政策もある。例えば「コロナと闘う看護職に危険手当を!」というテーマでは、医療・介護職へ最大20万円の慰労金が給付されることになった。

PoliPoli

PoliPoli( https://polipoli-web.com/(外部サイト)

日常的に政策に関わる社会

PoliPoliを運営するのは、慶應義塾大学4年生の伊藤和真さん(22)。多様化する国民の意見を政治に反映していくために、インターネットの力が不可欠だという。

「インターネットで誰もが発信できるようになったことで、社会のいろんな意見が可視化されるようになりました。それに伴い、政策立案のプロセスも変わる必要があると感じています。政治家が特定地域の人の話を聞くだけでは、多様な意見を把握できない。いろんな人が政策の議論に参加し、一つの意見にまとめていくことが、時代の流れからみても必然です。これまで限られた人のみで政治家にしていたロビイングを、インターネットを使って誰でもできるように取り組んでいます」

これまでも政策の決定プロセスに関わることはできたかもしれないが、身近に感じる人は少なかった。クラウドファンディングの登場で個人による企業やサービスへの投資が身近になったように、政治と個人の距離をPoliPoliは縮めている。そして「小さな成功体験」を得ることが、政治への関心をより高めると指摘する。

「同世代で政治に関心がない人はやはり多いです。政治に関わって何かが変わったという体験がありませんから。自分がベンチャー企業に関心があって、選挙で票を投じても、それが政策に反映されているかはわからない。一票の有効性を薄く感じている人もいると思います。だから僕たちは、選挙以外の政治や政策に参加するプロセスを作っています。地元の議員さんに取り組んでほしいことを伝えたら、結構政策って動いたりするんですよね。議員にアプローチすることで、実際に政策が変わることを体験してもらいたいです。変化が激しい社会において、数年に1回の選挙の機会だけだと少なすぎる。選挙以外でも、リアルタイムに関わることが大事なんだろうなとは思います」

伊藤和真さん。株式会社PoliPoli CEO。

伊藤和真さん。株式会社PoliPoli CEO。 F Venturesの東京インターンとしてスタートアップ投資に関わった後、2018年春に毎日新聞社に俳句アプリを事業売却。現在、政治プラットフォーム PoliPoliを運営中。 慶應義塾大学4年生。現役学生としてはじめて、九州大学にて非常勤講師をつとめた。

日常的に、自分の生活と政策を結びつけて暮らす時代がくるのかもしれない。一方で私たちがすべての政策に関心をもつことは可能なのだろうか。

「すべての国民が、すべての分野を網羅して社会参加できたら良いと思いますが、現実的に不可能だと思います。ただ、それぞれ2つ3つ関心のあるテーマをもっていると思います。僕だったらベンチャー企業やストリートカルチャーです。アニメやゲーム、美術が好きな人もいるでしょう。それそれが関心あるテーマで、政策の決定プロセスに参加すればいいと思います」

それは、選挙で代表者を決めて代表者が議会で政策を進める「間接民主制」と、国民が直接政治に参加する「直接民主制」の中間とも言えるかもしれない。

「政治家は、しっかり勉強して、すべての分野を網羅しようとしている。そういう全体をわかった政策のプロが、いろんな人の意見を聞いて調整するということも大事。ただ、これまでのような間接民主制だけだとやっぱり限界がある。よく言われるデジタル民主主義は、間接民主制と直接民主制の間、良いとこ取りをしていくと捉えるとわかりやすいと思います」

PoliPoliは、この10月に行政向けの政策共創プラットフォーム「PoliPoli Gov」のベータ版をスタートした。行政が検討中の政策を一般公開し、参加者はコメントを書き込むことができる。政治家と国民だけでなく、行政と国民のコミュニケーションの活性化も通して、より日常的な政治・政策との関わりが期待される。

先進的な台湾「vTaiwan」の仕組み

伊藤さんがベンチマークする仕組みとして、2014年に立ち上がった台湾の「vTaiwan」というオンライン討論プラットホームがある。台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンさんが提案したもので、市民が立法プロセスに参加できる仕組みとして注目されている。

vTaiwanは、様々なオープンソースのツールを活用して、市民の間で賛否が別れるテーマへの意見を集めている。オンラインとオフラインをかけ合わせて、主に提案ステージ、 意見ステージ、反映ステージ、批准ステージの4つのプロセスを経て、様々な関係者の合意形成を構築。賛成/反対や、どのような意見を持つ人がいるか、どんな点が重視されているかなどを、AIを使いグルーピングされる。その情報は、その後に行われる意思決定者同士の議論の土台となり、政府によるガイドライン、政策、政府アナウンスメントなどのアウトプットに活用される。

このプラットフォーム上で、Uberに対する規制やアルコールのオンライン販売など、いくつかの法律に関する議論が行われた。vTaiwanを運営するg0vによると、過去5年間で26の法律制定に関わったという。

vTaiwan

vTaiwan

また、台湾では、政府が運営する公共政策オンライン参加プラットフォーム「JOIN」も浸透している。もともとは、国民から行政への嘆願書をオンラインで届ける仕組みとして2015年にスタートしたが、オードリー・タンさんがデジタル担当大臣になり、選挙権を持たない世代も含めて幅広い年代の人が、提案や議論できるプラットフォームに進化を遂げた。

JOIN上では、一つの提案に対して60日以内に5,000人以上の賛同者が集まると、政府の関連部門は書面で回答する必要がある。これまでに約1,000万人のユーザーが参加。2,000件以上の政府プロジェクトについて議論し、政策に反映されてきたという。

台湾の人口は約2,300万人ほど。人口の4割以上がJOINを通して、政策に関する提案や議論に参加していることになる。サイト上では、「動物の虐待に対する罰則強化」「海を観光アクティビティで活用できるようにするために法律改正したい」など、生活に身近なテーマから政治への意見が上がっている。

それぞれの市民が、関心のあるテーマに沿って声をあげる。それは、周りの人が知らなかった社会問題を知る機会にもなる。声をあげる人が増えることで、世の中の人が社会問題を自分のこととして捉えるようになっていくのかもしれない。

デジタルは関係性を変化させるツール

これまでも政治や行政に意見を届けることはできたが、デジタルツールはそのハードルを格段に下げている。さらに一部の人だけでなく、多様な声があげられるようになったことで、より多くの人が、自分らしい幸せを掴むチャンスが増えたともいえる。

変化する暮らしに、最初は戸惑うかもしれない。しかし、デジタルツールを道具として使いこなすことで、自分たちが望む社会は、自分たちでつくることができる。デジタルの浸透は、私たちの個性や意思がよりしっかりと反映された未来をもたらすかもしれない。

編集・文:株式会社ドットライフ

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