2019.04.15.Mon
3/18 FQイベントレポート
超高齢社会のイノベーションを実体験
Future Questions#02「超高齢社会でイノベーションは起きるか?」に連動したイベント、『「高齢化×VR×美女」2040年、わたしの面倒、誰が見る!?』が3/18、オープンコラボレーションスペース「LODGE」にて開催された。こちらの模様をレポートしつつ、改めて今回のテーマから感じたことを論考してみたい。
AI漫才、認知症VR体験。盛りだくさんのコンテンツ
今回もコンテンツが盛りだくさん。まずは「ロボットは超高齢社会を救う」の記事にも登場いただいた、甲南大学 知能情報学部 4年・原口和貴さんが登場し、「漫才ロボット」のデモを実演。ミニ版のAI漫才ロボットコンビ「あいちゃん」と「ゴン太」のかけあい漫才が、微妙な笑いを取る。おもろいかおもろくないかでいうと「おもろい」のだが、AIが「高齢者の爆笑」を本格的に得るにはまだまだのようだ。
続いては、株式会社シルバーウッドで認知症VRファシリテーターの黒田麻衣子さんが登壇し、認知症についての基本知識を講演した。
シルバーウッドは実に面白い会社だ。「薄板軽量形鋼造(スチールパネル工法)躯体販売事業」を主とする堅実な会社なのだが、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」を2011年より開始し、さらにバーチャルリアリティ事業「VR認知症プロジェクト」にもアグレッシブに事業を広げてきた。
「インターネットで医療情報を検索すると正しいのは2%程度、認知症も同様。認知症を正しく理解し、ネガティブでなくポジティブなイメージにすることが大事」と語る黒田さん。ひとくちに認知症といっても、アルツハイマーのように症名がついているものは70%で、それ以外にもいろいろな症状がある。空間の認知領域が壊れている場合もあれば、記憶が続かない場合もある。
参加者全員で、認知症になった状況を疑似体験できるVRコンテンツに挑戦した。ビルから落とされそうになるシチュエーション、電車に乗って突然知らない場所に来てしまったシチュエーションがVRで再現される。
ちょっと不思議な光景ではある。これは未来だ!
これらは全て患者さんからの聞き取りを元に再現した映像コンテンツだ。「怖かった」「不安」という声が参加者からこぼれる。最後は「レビー小体型認知症」の際の幻視をVR体験した。黒田さんは「近視、遠視、乱視、幻視というくらいに一般的なこととして知ってもらいたい」と語る。体験をすることで認知症患者がどんな気持ちでいるのかを理解することができ、理解することが共に暮らしていく社会の実現につながる。
高齢者の気持ちに「共感すること」の大切さ
続いてのパネルディスカッションに登壇したのは、原口さん、黒田さんに加えて、東京大学先端科学技術研究センターの登嶋健太さん(高齢者向け旅行VR開発者)、介護福祉士でモデルの上条百里奈さんだ。
上条さんは介護福祉士として働きながら、2011年からはモデルとしても活動するようになった。「老老介護のおばあちゃんが、お風呂に一年間入っていないってことを聞いて、これは情報発信が必要なんだと思った」と、モデルを志した理由を熱く語る。
介護職は現在すでに7~8万人も不足しているが、2025年には38万人が不足するといわれている。これをどうするのか。負のスパイラルはさらなる日本経済の停滞や少子化を招きかねない。イノベーションが期待されるゆえんである。
「VR旅行はどこまで進化するのか」にも登場いただいた登嶋健太さんは、2014年からVRを体験。クラウドファンディングを通じて世界を巡ってコンテンツを集め、高齢者向け旅行VRを開発した。VRを通じて身体が動かせない高齢者でも、認知症の予防や回復にも役立つかどうか検証中だという。
高齢者や要介護者だって、おしゃれをしたいし楽しみたい、人間的な喜びを得たいのは当然のこと。VR旅行はそれを実現する可能性があると、登嶋さんは強調した。その後のVR体験でも多くの人が登嶋さんのコンテンツを興味深げに楽しんでいた。
痛感したのは、体験することで理解は圧倒的に進むということ。私たちは体験することなしに判断することが多くなってしまってはいないだろうか。VRはもちろん、AIやロボットのようなテクノロジーは、高齢者や障害者を健常者に近づけるために今後も発展していくだろう。そのためにまず必要なのは、「体験」し「共感」することなのだろう。
超高齢社会のイノベーションは増加中
超高齢化社会におけるイノベーションは、まだまださまざまな可能性を秘めた新しい市場になりうる。今回の記事では紹介しきれなかったが、超高齢社会におけるビジネス・イノベーションは大小さまざまなイノベーションが進行中だ。
高齢福祉というと施設や介護士の不足が課題だと捉えられがちだが、いちばんの課題は「在宅ケア」であるともいわれている。
たとえば、在宅マッサージ業を拡大し、IPO(株式上場)した事例もある。フレアス(外部サイト)という会社だ。マッサージの施術法をタブレットで効率化することで、事業を急拡大させてIPOにまでこぎつけた。夢のある話だ。
たとえば「介護スナック」という業態がある。 横須賀にある介護スナック「竜宮城」(外部サイト)は、要介護の高齢者の「スナックに行きたい」という要望を元にこの事業をスタートした。「介護車両を使用した無料送迎」「スタッフのきめ細やかな健康管理」といったサービスで、高齢者のニーズは大きい。
海外でもこうしたデモグラ、人口構成比の急激な変化に対応したビジネス・イノベーションは増えている。注目すべきは「世代間マッチング」である。ボストンのスタートアップ「Nesterly(外部サイト)」は、高齢者世帯と学生をつなぐ世代間同居のためのマッチングサイトだ。そのタグラインは「Homeshare with another generation」。
同様の「異世代ホームシェアリング」サービスは欧米では普及しており、日本ではまだまだこれからだが、京浜急行電鉄株式会社と提携した「NPO法人リブ&リブ(外部サイト)」が日本でも地道な活動を広げている。若者と高齢者とがともに暮らし、互いに助け合う"世代間同居""異世代ホームシェアリング"は今後日本でも増えていくだろう。
地方以上に、都市部での独居高齢者は問題化するのが必須と言われている。都会でのリビングシェア、コ・リビングや空き室マッチングなどの需要が高まるかもしれないし、「ADDress(外部サイト)」のような登録拠点がどこでも住み放題になる、サブスクリプション型の住居シェアサービスも今後増えていくだろう。もしかしたら現在ふえつつあるコワーキングスペースが将来は富裕層の独居高齢者と起業を志す若者とのマッチングプレイスに変化するといった可能性だってある。
いずれにしても今後の人口動態の変化は、日本経済においてはピンチであると同時に、提供されるサービスやイノベーションを誘発するチャンスといえるのではないだろうか。ピンチをチャンスに変えるのは私たち次第である。
取材・文 FQ編集部