サンゴと海の可能性で世界を変えたい

2020.03.23.Mon

FQ×文化放送 連携企画第四弾
ゲスト:高倉葉太 さん(株式会社イノカCEO)

サンゴと海の可能性で世界を変えたい

水槽に広がった色とりどりのサンゴたち。アクアリウムをビジネスにするという一風変わった事業内容に興味がつきない。Future Questionsと文化放送の共同企画(2月11日放送の「浜松町Innovation Culture Cafe」内)では、株式会社イノカ CEOの高倉葉太さん(25)をゲストにお招きした。(取材・文 FQ編集部)

【出演者】
パーソナリティー
入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)

ゲスト
高倉葉太(株式会社イノカ CEO)
宮内俊樹(Yahoo! JAPAN FQ編集長)

アクアリウムをビジネスに

「アクアリウムベンチャー」。

なんだそれは、と思うかもしれない。

高倉葉太さんが起業した株式会社イノカは、アクアリウムを事業化するというベンチャー企業だ。「海の可能性を信じている」と高倉さんは自身のビジョンを語る。

「シリコンバレーのようなスタートアップのやり方がすべてだとは思っていない」

そんな鋭い言葉をさわやかに語るイノカ高倉さんに、文化放送にゲストとして出演いただき、海の可能性への思いを存分に語ってもらった。

そもそも筆者も、彼の事業がよく分かっていなかったので(笑)。

沖縄の海を東京に持ってくる!?

文化放送内のスタジオにて、イノカCEOの高倉葉太さん

文化放送内のスタジオにて、イノカCEOの高倉葉太さん

冒頭、入山さんから「これまで登場いただいたゲストの中で、間違いなくいちばん若い!」と紹介された高倉さんは、今年26歳。東京大学入学時から起業することを決心していたという彼は、在学中からスタートアップに関わり、修士課程時代の2019年4月にイノカを起業した。

「僕たちがやっているのは『環境移送』。簡単にいうと沖縄の海を東京に持ってくるということです。人工的にサンゴ礁や海の生態系をテクノロジーを使って再現するというコア技術です。それをベースに絶滅危惧種の保護活動をしたり、子供たちに本物の生物を見せて教育支援をしたり、さまざまな事業を手がけています」

中学生のときから水槽で、熱帯魚やエビなどを飼い始めた。インターネットを通じて、愛好家の年配層たちと、子どもながらに交流していたという。東京大学の修士課程では、暦本純一研究室で機械学習や人工知能による人間拡張について学んだ。

「暦本研だったんですか、それは間違いなく超秀才、そして超異能だ!」と入山さん。沖縄や石垣の海が大好きだという入山さんも、高倉さんの不思議な経歴と事業に興味津々のようだ。

文化放送内のスタジオにて、入山章栄さん

文化放送内のスタジオにて、入山章栄さん

「2・3年前に西表島に行った時に少し素潜りをしたんですけど、世界でいちばんきれいだって言われていて。でも台風や気候変動の影響だと思いますが、あの辺サンゴが少しやられています。それを守りたいということですね」と、入山さん。

海への思いを語るトークが止まらない

いくつかあるイノカのユニークな事業アイデアとして、テーマパークでサンゴの所有権を売るというビジネスを考えているそうだ。なんだ、それは?、と思わず聞かずにはいられないが、高倉さんは、

「サンゴって枝みたいな小指ぐらいのサイズで、それを折って植えればそこからぐんぐん大きくなっていわゆるテーブル型のサンゴになるんです」、と説明。

入山「そうなんだ! そうすれば誰でもできる?」

高倉「いや、それはうちの技術だからできるんです。例えば子どもがサンゴを植えて、それが育ったときにその場に対してのロイヤルティーをいただく。マイサンゴですね。さらに面白いのが、同じ種類のサンゴだとうまくいけば合体するんです。なのでカップルに植えてもらって(笑)」

虎ノ門のイノカオフィスには、さまざまな水槽でサンゴが育てられている

虎ノ門のイノカオフィスには、さまざまな水槽でサンゴが育てられている

入山「最近若い人も家庭菜園や畑を作りたいっていうニーズが出てきてますが、海ってまだ誰もやってない。ある意味、海という畑が東京で気軽にできるようになるんですね」

高倉「そうです。植物工場の海版を作って、都市に海を作りたいというのが僕たちのビジョンのひとつです。理想はアップルストアみたいなガラス張りの空間、あれが丸ごと水槽になって、人といろんな生き物が密接に関わるような世界観(笑)」

「ラジオ聞いてる人はわからないでしょうけど、今めっちゃうれしそうに話してます」と、入山さん。

文化放送内のスタジオにて。写真右はアシスタントのたがえみこと田ケ原恵美さん

文化放送内のスタジオにて。写真右はアシスタントのたがえみこと田ケ原恵美さん

高倉さんは、他の人には見えない景色を想像し、未来を創造しようとしている。だが、ちょっと心配になったりもする、この事業は、本当にビジネスとして成立するのだろうか。

それを言うなら、イノベーションとはどういうものか、歴史を振り返ってみるといい。インターネットが出たときも、回線速度が遅いから日本でははやらないと言われたし、iPhoneが発売されたときも、ガラケーが普及している日本では脅威ではないと言われた。結果としてどうなったか--。

海の可能性は、さらに宇宙まで

「あとは、月に生態系を持っていくというプランもあります。月に海を作る!」と、高倉さんがさらに話題を広げると、

「わー面白い」、とたがえみちゃん。

文化放送内のスタジオ。写真左から田ヶ原恵美さん、入山さん、文化放送の砂山圭大郎アナウンサー

文化放送内のスタジオ。写真左から田ヶ原恵美さん、入山さん、文化放送の砂山圭大郎アナウンサー

高倉「サンゴ礁は海洋面積の2%しかないんですけれども、それが生態系の25%を賄っていると言われていて。いわば海のマンションなわけです。でも2040年にはサンゴの8〜9割が死滅するんじゃないかと言われてます」

入山「保護は追いつくんですか?」

高倉「なので最終手段としてもし海がダメになった時でも、ノアの方舟を作ってその中にすべての生き物が生きていけるようなものを最終的には作っていきたいと思ってるんです」

実際にイノカはJAXAが推進しているプロジェクト「Space Food X」に参画して、月での生態系の再現を進めようとしている。言葉だけではない、本気なのだ!

サンゴの人口産卵にも挑む!

高倉さんがこうした事業を、NPOではなく、株式会社、つまり営利企業として進めているのには強いこだわりがある。日本をひとつにまとめてサンゴを守る活動に向けたい、特に大企業が本気でサンゴ礁を守ろうと動かないとダメだと思っているからだ。そのためには、サンゴ礁の精神的な価値だけでなく、経済的な価値を提供していきたい、という。

「生態系の研究から見つかった技術、例えばオワンクラゲから見つかった蛍光タンパク質は人の顔の治療に使われてたりしますし、ヘルスケアの会社には新しいアニマルセラピーの提案ができたりします。海からいろんなイノベーションが生まれている。だから、経済的にも循環する環境保全のモデルを作るのが僕たちのいちばんのミッションなんです」

ここで入山さんから、FQ編集長の宮内にもコメントがふられると、

「めちゃめちゃロマンありますよね。動物から学ぶっていうのは、最近バイオミミクリーという言い方をされていて。生態系から学んだモデルを技術に生かすスタートアップも増えてきていますよ」とのコメント。

高倉「今研究しているのはサンゴの産卵です。ぷくぷくと何万個もサンゴの卵が生まれてすごいきれいなんですよ。完全的に人工的に産卵をしたのはまだ4例しかなくて、小型水槽ではまだ1例もない。それを東京の虎ノ門で目指しています。水温でIoTも使って、沖縄の海と同じ環境になるようにしています。6月の満月の夜にしか散乱しないので」

入山「なるほど。テクノロジーもそこに絡んでくるんですね。うまくいかなかったらまた1年待つしかないって、すごい話だなあ」

スタートアップの定石ばかりが選択肢じゃない

後日、高倉さんにさらに話を聞いた。イノカのやろうとしている事業はとてもユニークだ。

「うちがさらに特殊なのは、会社を継続するため、そして優秀なエンジニアを確保するために受注事業もやってること。それがあるから柔軟に経営と事業継続ができる」

高倉葉太(株式会社イノカ CEO)

高倉葉太(株式会社イノカ CEO)
1994年、兵庫県生まれ。2013年、東京大学入学。2016年、モノ作りサービス会社「Makership」の創業メンバーとして参画。COO(最高執行責任者)に就任。2019年東京大学大学院卒業。2019年4月、アクアリウム設置会社「イノカ」設立

彼らは人工知能(AI)の受託事業をずっと続けている。そこで建てた売上を、海の研究開発へと先行投資しているというわけだ。いわゆるスタートアップというと、新しいサービスをつくり資金調達をして上場をして、というステップだとイメージしてしまいがちだが、そういう先入観をあざやかにくつがえしてくれる。

「ベンチャー企業やスタートアップの定石としてのやり方。それだけが選択肢じゃないって思います。逆に言うとVC(ベンチャーキャピタル)から資金調達してしまうと自由にやれなくなる。ベンチャーは結構トライアルとして大企業にサービスを無料提供したりしますが、僕らはこういうやり方だからこそ大企業と対等にやりたいと思っているしやれていると思います。ぶっちゃけVCから調達するよりも、大企業の口座を開く方が難しい」

起業家は自身のペイン(pain)を元に、その課題を解決するために事業をする。だが高倉さんの課題意識はペインというよりも「可能性への信念」というべきだろうか。「何か大きいことをしたいわけではなくて、生物の可能性を証明したい」のだと高倉さんは言う。

「宇宙に行く技術が絶対に地球でも生かせるはずなんです。例えば月面は過酷な環境なので、そこで生きられるサンゴ、そのDNAが生まれたとしたらそれが環境破壊された地球を救うかもしれない。月でのミューテーションという言い方をしてます。それを目指す過程で非常に複雑な技術開発が必要です」

2040年にどんな未来を創造するか?

2040年、高倉さんはどんな20年後の世界を描いているのだろうか?

「10年スパンで考えているのは『生態系の完全再現』です。その先の10年は、新しい生態系を作ること。いわば『生態系の再編』ですね、ゲノム編集に近い。そうすると絶対にありえない密度、絶対にありえない空間で魚が健康に生きているということが可能になる。10年で生態系を完全に理解して、もう10年でそれをコントロールできるようにしていくのがビジョンです」

海やサンゴが、宇宙にまでつながっているなんて、ロマンがあるではないですか。そんな未来を無邪気に想像しているとこちらまで楽しくなってくる。

そして、それを高倉さんは本気で実現しようとしているのだ。

※放送内容は、以下のURLからご視聴いただけます。高倉さんの登場は46分ごろからです。
http://podcast.joqr.co.jp/podcast_qr/hamacafe_pod/hamacafe_200211_net_full.mp3(外部サイト)

<浜松町 Innovation Culture Cafe>
東京・浜松町地域で次々と新しいプロジェクトが生まれ、再開発が進んでいることから、JR浜松町駅の真正面にある文化放送が中心となり、新しいイノベーションが浜松町から生まれることを目的として展開されているラジオ番組・イベント。早稲田大ビジネススクール教授の入山章栄さんらがモデレーターとなって、いま注目の話題から、今後のために考えておかなければならない社会課題までを取り上げる。FQは同イベントとコラボして、毎月第2火曜日のゲストをキャスティング。未来とイノベーションを創る人たちを紹介、発信していく。

Vol.03 Special Issue Vol.03