2020.03.30.Mon
FQ×文化放送 連携企画第五弾
ゲスト:KiNGさん(アーティスト)
ビジネスこそアートが必要な理由
アートとビジネス、一体どのような関係があるのだろうか。
一見関係のないように見えるこの二つだが、山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」(光文社新書)』が、2019年ビジネス書大賞の準大賞となるなど、ビジネス界のアートに対する関心は高まっている。今回、FQと文化放送の共同企画(3月10日放送の「浜松町Innovation Culture Cafe」内)では、アーティストのKiNGさんをゲストにお招きした。これまでミュージシャンや俳優に向けたコスチューム等を提供し、自身のカスタムブランド”KiNG”や映画プロデューサーとして活躍する一方、国内外の企業で経営戦略アドバイザーも務める。マルチな才能を持つアーティスト、KiNGさんが考えるアート、そしてアートとビジネスの関係とは?
【出演者】
パーソナリティ
入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)
ゲスト
KiNG(アーティスト/デザイナー/プロデューサー/コンサルタント/エバンジェリスト/自由研究家)
宮内俊樹(Yahoo! JAPAN FQ編集長)
アートはコミュニケーションの1つ
「思考し続けること、仮説を立て続けること、繋がりを見い出すことこそが、アートである」
KiNGさんの公式HP(外部サイト)には、そう書かれている。どのようにしてその考えに至ったのだろうか。
KiNGさんがアートの世界と出会ったのは幼少期のころ。
当時、不定愁訴の症状(突然熱が出てしまったり、気分が悪くなってしまったりすること)があった彼女を救ったのはアートだった。
「言葉にできないさまざまな感情を絵で表し、色で表現するとホっとして、自分自身もとらえられるようになったんです」
アートで自己表現をしてきたKiNGさんが、多摩美術大学前期博士課程(美術研究科・彫刻)に進んだのは必然だった。
そしてあえて、絵画ではなく彫刻を選んだのにも理由があった。
「2次元の絵は重力や引力が関係ないが、彫刻は重さを体感、会得しないといけない。これがアートの中で唯一苦手だったから選んだんです」
多くのことをこなすKiNGさんに対して、入山さんが「ご自身は自分の肩書きは何だと思っているんですか?」という質問を投げかける。
「好奇心の赴くままにやるべきことをやっているだけです」
たくさんある肩書は気にせず、自分の中で腹落ちしたものをとことん追求していく。それこそ彼女の行動の原点であり、世の中の人を魅了する秘訣なのだろう。
ファッションは着ることができる彫刻
ここで話はKiNGさんの手掛けるアートのひとつ、「衣装」に移った。
これまで、NHK紅白歌合戦、FNS歌謡祭、レコード大賞、世界陸上の他、2017年に台湾で行われた世大運開幕式などでの衣装を手掛けてきた。
「学んできた彫刻とはどこかで関係があるんですか?」という質問を入山さんが投げかける。
「私はその人(衣装を着る人)が輝く晴れ着を、彫刻のような感覚で作っているんです」
「なるほど、なるほど」と、入山さん。
KiNGさんにとっての衣装とは、まさに身に付けることができる彫刻(ウェアラブルスカルプチャー)であり、身に付けることができる芸術(ウェアラブルアート)だ。独自の視点からファッションをとらえることで、身に付ける人の一世一代に立ち会う衣装を作ることができるのだ。
ビジネスとア―トの関係性
KiNGさんの活躍はアーティストとしての活動にとどまらない。
独自の体感・感覚値を基にした情報収集、分析を通して、企業の経営戦略アドバイザーとして活躍されている。
入山さんが「どういったことをしているんですか?」という素朴な疑問をぶつけた。
「いわゆるマーケティングではないマーケティングができるんですよ」
「?」マークを補足するように、KiNGさんは続ける。
「ファッションをただの流行ではなく彫刻ととらえるように、マーケティングを別の見方でとらえます。数値では見えないものをとらえて、それを言語化することができる。要するにとらえられていないような些細な前触れをとらえて伝えてあげるんですね」
これを受けて入山さんは「ビジネス界でアートがすごいと言われだしているが、その最大のポイントは暗黙知にあるんです」と続ける。
暗黙知とは、動作や言語で表現しにくい知識のこと(経験など)で、対義語である形式値は言語で表現しやすい知識のこと(数字など)のことを指し、これは入山さんの専門である経営学でも非常に重要なトピックだ。
「人とか組織の中には、言語化されていない、いろんな技術や情報が含まれていて、それを外に出さないと本質的なコミュニケーションはとれません。通常、最も多い表現として言語がありますが、それ以外に発露する表現の1つがアートではないでしょうか」
数字や人格、雰囲気に色が見える共感覚者でもあるKiNGさんは五感が連動することもあり、独特なとらえ方ができるそう。それをKiNGさんは企業の経営者に伝えアドバイスをしている。
しかし、別の視点から見ると言葉でいうのは簡単だが、実践することは難しい。
なぜ、企業がKiNGさんの感性を求めているのだろうか。
これに対して、FQの宮内編集長は考察する。
「企業は20年くらい定量的な数値、KPIで会社を経営してきたと思います。でもそれだけではダメで、イノベーションの限界になってしまった。そしてそのふり幅でアートとか感性が求められている」
また、新規ビジネスが生まれる過程はまさにアーティストが作品を作ることに通じる部分があると補足する
「アーティストがものを生み出す力ってすごい。必ず形にするんですね。抽象的なものであっても、とにかく形にする。それは、サービスを作る場合も同じだと思う。何かを形にするパワー」
つまり言語化できないものを形にするという意味でビジネスもアートも通じるところがある。
アートに対する誤解
ここで、「アートはすごく興味あるんですけど、絵を上手に書くのが難しくて」と、たがえみちゃんからの本質的な質問が。
それに対してKiNGさんはそれこそ、アートに対する誤解だという。
「絵が描けないって、たまたま出会ってしまった美術の先生の評価が悪かった、先生や周りの反応を見て勝手に絵が下手だとマインドセットしているだけだと思いますよ。アートや美術は前後の文脈によって変わるし、何がどう美しいかは見る人によって全く違う。自分の思うことを表現することが大切なんですよ」
そしてこう続ける。
「私にとってアートとは生きること、生きている様ですね。誰もがアーティストだと思っています」
アートで生計を立てている人をアーティストと考えてしまいがちだが、そうではない。
KiNGさん曰く、自分の日常のなかで感動を得て、それをしっかり自分なりの感性を追及し、表現している人こそアーティストであるということだ。
「自分の積み重ねてきた感覚があり、その中で自分が腹落ちするまで突き詰めることが大切。他者が言ったものさしを真似しようとしても、結局は追いかけるだけなので。美やアートってそういうもの」
アートがもたらすイノベーションとは
それはつまり、アートの知識を身に付けることが重要なのではなく、自分の感覚で腹落ちするまでやりぬくというアート的な思考が大切ということだろう。
KiNGさんの解説に対して、「なるほど!」と入山さんが大きくうなずく。今の日本に一番足りないものは入山さんも「腹落ち」だと考えている。
「上から降ってくる仕事をやらされている方が多いから、何のためにこの仕事をやっているか分からずに、変化しづらいんですよね」
それを受けて、
「サービスを作る人は社会にどういう価値をもたらすのかということを考えた方がいい。そこに自分の思いをちゃんとこめられるかが大事」
と宮内編集長はまとめた。
では、KiNGさんにとっての腹落ちとは一体なんなのだろうか。それは「鮮明さ」の違いと語る。そしてそれは、状況や場面、人によって大きく変わってくるそうだ。
「のどが渇いているときに飲む水がどんな水よりもおいしかったり、映画を初めて観るときと2回目で見るときの感動が違ったりするように、腹落ちは変化していく。そして、その感覚は1人1人違う。それと同じように、自分の中の腹落ちの基準を探すことがイノベーションのヒントになっていくと思います」
あなたにとっての「腹落ち」とは何だろうか? 問いは立てられた。その問いに向き合うことが、イノベーションを考える糸口になるのかもしれない。
※放送内容は、以下のURLからご試聴いただけます。KiNGさんの登場は45分ごろからです。
http://podcast.joqr.co.jp/podcast_qr/hamacafe_pod/hamacafe_200310_net_full.mp3(外部サイト)
- <浜松町 Innovation Culture Cafe>
- 東京・浜松町地域で次々と新しいプロジェクトが生まれ、再開発が進んでいることから、JR浜松町駅の真正面にある文化放送が中心となり、新しいイノベーションが浜松町から生まれることを目的として展開されているラジオ番組・イベント。早稲田大ビジネススクール教授の入山章栄さんらがモデレーターとなって、いま注目の話題から、今後のために考えておかなければならない社会課題までを取り上げる。FQは同イベントとコラボして、毎月第2火曜日のゲストをキャスティング。未来とイノベーションを創る人たちを紹介、発信していく。