2020.01.14.Tue

FQ×文化放送 連携企画第一弾
ゲスト:流郷綾乃さん(ムスカCEO)

29歳CEOがハエとともに未来を変える

「ハエ」と聞いて、どんなイメージを持つだろう?
汚い、うっとうしい、嫌い…マイナスのイメージを持つ方が多いのではないだろうか。そんなハエを活用して、世界の食糧問題を変えようとしているスタートアップがある。その名も「ムスカ(イエバエの学名)」。なぜ、ハエなのか?同社が目指す未来とは?11月12日放送の『浜松町Innovation Culture Cafe』(文化放送)にCEOの流郷綾乃さん(29)を招き、入山章栄・早大ビジネススクール教授、Future Questionsの宮内俊樹編集長と、ハエとごみの持つ潜在力について語っていただいた。

【出演者】

パーソナリティ
入山章栄(早稲田大学ビジネススクール教授)

ゲスト
流郷綾乃(株式会社ムスカ代表取締役CEO)
宮内俊樹(Yahoo! JAPAN FQ編集長)

ごみに「価値」? ハエが肥料・飼料に

想像してみてほしい。私たちが日々排出する残飯などの有機物がどれくらいあるのかを。それらは「ごみ」として「価値がない」とみなされがちだ。しかし、もしそのごみが野菜・果物などの食物を育てる肥料になったとしたらどうだろう。さらに、ニワトリや豚などの家畜を短時間で大きく育てられる餌に化けたとしたら......。そんな夢のような着想を、「ハエ」を使って実用化にこぎつけようとしているのが、ムスカだ。

スタートアップ企業の登竜門TechCrunch Tokyoで優勝したり、有名雑誌や新聞に取り上げられるなど、注目度は高い。

しかし、本当にそんなことは可能なのだろうか?

入山教授、ムスカの流郷CEO、FQの宮内編集長

生放送のトークが繰り広げられた文化放送内のスタジオ。右端が入山教授、同3人目がムスカの流郷CEO、左端がFQの宮内編集長

テクノロジー×ハエ=「持続可能社会」

ムスカのビジネスモデルはこうだ。

有機廃棄物、特に、家畜排泄物等にイエバエの卵を植え付け、幼虫が分解し、1週間で肥料に変え、イチゴ、アスパラといった野菜や果物の肥料とする。また、成長したハエバエの幼虫はボイルし、家畜や養殖魚の餌にする。そうすることによって、ますます人口が増える地球において、限りある資源を最大限に活用し、持続的な社会を目指す。

そもそも創業者は「食料問題を解決すれば争いごと、戦争がなくなる」という強い理念を持ってこの事業を始めたという。そう聞くと腑に落ちる。

2019年12月時点のムスカの公式サイトのトップページには以下のようなステートメントがある。

「食糧危機。増えつづける有機廃棄物。MUSCAは、イエバエを使った独自のテクノロジーで、今までなかった新しい資源をつくってゆく。自然がもつ『循環するチカラ』をあるべき形で、あるべき場所で、活かし切る」

ムスカの公式サイト

ムスカの公式ページのトップ画面

「私は虫嫌い...でも面白い」

ムスカは2016年に創業。そんなムスカをいまCEOとしてけん引しているのが流郷さんだ。しかし、そもそもなぜ同社、あるいは流郷さんはハエを活用しようと思うに至ったのだろう。

「昆虫に興味があったんですか、それとも地球の問題を解決しようと思ったんですか、どちらから(きっかけになりましたか)」

入山さんが素朴な疑問を投げかけた。

すると流郷さんは「当初はどちらも興味なかったに等しいですね」と即答。さらにこう続けた。

「私そもそも虫がめちゃくちゃ嫌いなんですね。さらに『ハエなんて』と思ったんですけど、やってることと創業者がずっとやり続けているこの研究などにすごく共感して。私、仕事を選ぶときにひとつ決めていたことがあります。それはうちの長女(8)と息子(6)が80歳になったとき(のことを想像して)、この事業面白い、面白くないどっちだ、ということです。面白いなら、私がやる価値があるなっていうので、選択の基準にしていたことにドはまりだったんです」

入山教授

トークが盛り上がり笑顔を見せた入山教授

面白いし、社会の役に立つ事業。流郷さんにとっては、それがハエを活用した新ビジネスに挑むムスカだったのだ。

旧ソ連の宇宙開発で発案された技術

ハエを使った食の循環という発想のルーツは50年以上前までさかのぼるという。

流郷さんが解説する。

「この技術って旧ソ連の宇宙開発技術のひとつだったんですね。宇宙船の中で宇宙飛行士さんの排せつ物と食糧をどうしようかという問題があって、その問題の解決のために選ばれた生物がイエバエ(を使った循環)だったんですね。ただ、過密な空間で生かさなければいけないので(ストレスに弱いハエは)結構な割合で死んじゃうんですよ。その中で、ピンピン生きているハエを優良種ととらえ、選別交配したのです」

入山教授、流郷CEO

意見を交わす入山教授(手前)と流郷CEO(右端)

ムスカの創業者はこの技術に目をつけ、ハエの可能性を信じて研究を重ねてきた。その結果、選別交配は1200世代にもおよび、ムスカの事業を支える"サラブレッド"のハエが誕生した。

ムスカの事業に欠かせないイエバエ、流郷さんは敬意と愛着をこめて「ハエちゃん」と呼ぶ。流郷さん曰く、「ハエちゃん」の肥料・飼料を使った食物、肉類は成長が速くて大きいだけでなく、「おいしい」という。さらに、ハエの幼虫は高たんぱくで抗菌性があると言われているため、「抗生物質のいらない養殖魚や家畜」の生産にもつながるらしい。

目指すは2021年までのプラント稼働

ただ、まだ事業が軌道に乗ったとは言いがたい。

現時点では肥料も飼料も手作業で作っているため生産量が限られており、一部の農家にイチゴ、アスパラ、キュウリ、ブロッコリーなどの生産で実証実験的に使ってもらっている段階だ。家畜にしても、大量に餌を食べる豚や牛に供給するだけの量はないため、養鶏場で試行している段階だという。いまは本格的な生産に向けた設備の計画しており、2020年中の着工、2021年までの稼働を目指している。

流郷CEO、宮内編集長

ムスカの事業について語る流郷さん(右)とFQの宮内編集長

流郷さんは言う。

「まだ、(ムスカのビジネスに)お客さんがいる段階ではないので、プラントを建設し、工業化して、商業化して、安定的に大量にごみから資源を作る循環を回すことができたら、本当に世界中の飢えをなくし、環境問題を解決していく」

年間8000万トンの畜産排泄物も解決?

「料理はしないんですよ」と話す流郷さんだが、母や祖母が無農薬野菜を買っていた姿を見て育ったことで、自然と環境負荷のない(あるいは少ない)食品に関心を抱いたかもしれないと語る。「無農薬の生産だと手間がかかり、末端価格も高くなる。しかし、そういう農家さんに敬意を払い、多少高くても買ってくる家庭環境だった」

同時に、食品ロスに対する問題意識も高い。

「まずご飯を残さず食べるとか、残す量を作らないとか、環境についてもうちょっと知ることが非常に大事。ごみが増えるってことは、環境が汚染されるということで、人類の食糧をとる海とか、畑とかも汚していく。日本でも畜産排泄物だけで年間約8000万トンのごみが出ている」

と指摘した上で、「それを(私たちのハエを使って)たい肥処理をすることで、肥料と飼料を安定循環でき、ごみだったものに価値を与えることができる」と言い切った。

ムスカの公式サイト

ムスカの公式サイトより。ムスカは数カ月前に公式サイトのデザインを刷新した。コンセプトは、「循環」と「資源に無限の価値がある」ということ。

「食の選択肢ある」次世代へ

国連によると、地球に暮らす9人に1人にあたる8億2000万人以上が飢えに苦しみ、5歳未満の子ども1億5000万人近くが栄養不足による発育阻害に直面している。そうした観点もあって2013年には家畜の餌、そして人間の食糧として昆虫食が推奨され、話題となった。

しかし、流郷さんは「ムスカは昆虫食ではありません。私たちが提案しているのはあえていうならば、間接昆虫食」と述べ、昆虫そのものを食べる「直接昆虫食」とは異なる、と強調。「文化として食べるところはあると思います。けれど、人類史を振り返ると『おいしい』と思って昆虫を食べてきたことは少なく、栄養価が高いから食べてきた側面が強い」と話す。

「昆虫しか食べる選択がないという状況に子どもたちをおきたくない。昆虫を食べると機能性はあるのは確か。しかし、ニワトリ、豚、魚、そして昆虫もある。そんな食の自由を残して次世代につなげたい。(何を食べるか)選択できる世の中を残すのが今を生きる人の責務だと思います」

※放送内容は、以下のURLからご視聴いただけます。流郷さんのご登場は47分20秒ごろからです。

http://podcast.joqr.co.jp/podcast_qr/hamacafe_pod/hamacafe_191112_net_full.mp3
(外部サイト)

<浜松町 Innovation Culture Cafe>
東京・浜松町地域で次々と新しいプロジェクトが生まれ、再開発が進んでいることから、JR浜松町駅の真正面にある文化放送が中心となり、新しいイノベーションが浜松町から生まれることを目的として展開されているラジオ番組・イベント。早稲田大ビジネススクール教授の入山章栄さんらがモデレーターとなって、いま注目の話題から、今後のために考えておかなければならない社会課題までを取り上げる。FQは同イベントとコラボして、毎月第2火曜日のゲストをキャスティング。未来とイノベーションを創る人たちを紹介、発信していく。

Vol.01 Special Issue Vol.01