社会活動が対価になる世界

2022.08.29.Mon

2040年、欲しいものをどう手に入れるか?

社会活動が対価になる世界

「ミス・ビットコイン」として、10年ほど前からビットコインやブロックチェーンの可能性に注目してきた藤本真衣さん(36)。ブロックチェーンの技術は「新しい価値の得方」を広げるものだと語ります。そんな藤本さんが考える、これからの「お金」との関係性について伺いました。

分散型ネットワークがもたらすインセンティブ革命

未来の社会でも、人は欲しいものを今と同じように、お金で手に入れるのだろうか。藤本さんは、ブロックチェーンの活用が進んだ先には、現代の労働とは違う形でお金や欲しいものを手に入れる選択肢が広がると予測している。

ブロックチェーンは、ビットコインで使われている技術。改ざんされづらい構造を持っていることなどから、次世代の社会基盤となる可能性が注目され、世界中でブロックチェーンを活用したプロジェクトが進められている。ブロックチェーンによって分散型のネットワークを築こうとする取り組みは「Web3」とも呼ばれる。

藤本さんは、Web3によりもたらされる「インセンティブ革命」に注目しているという。

「わたしがWeb3に一番ときめく部分は、インセンティブ革命が起きることです。例えば、YouTubeは今ではとても大きいサービスになりましたが、サービスが育った要因は、初期に動画を投稿する人が頑張ってヒット作を作ったことや、応援してくれる人がいたことがあると思います。しかし、既存の仕組みでは、サービスが大きくなったときに利益を享受できるのは、会社の株を持っている人や一部のユーチューバー等に限られます。もちろんYouTubeの成功によってお金持ちになった視聴者はいません。

同じようなサービスをWeb3でやるとした場合、初期にサービスを利用して『暗号資産』という形で権利を取得できたユーザーは、企業やサービスの価値が向上したときに、株主と同じように利益を得られ、成功を喜ぶことができます。YouTubeがわかりやすいので例えましたが、アイドルやタレントとの関わりも同じです。初期から応援してくれた人に還元できるものが増える。そういった社会の実現が、Web3によって近づくと思います。この流れがわたしは好きですし、可能性を感じています」
独自の暗号資産を発行して経済圏をつくる「トークンエコノミー」は、ゲーム内通貨や、特定のサービスで貯まる/使えるポイントと近い概念だが、ブロックチェーン技術により、他の経済圏やリアルな世界との価値交換が容易になったことで注目を集めている。さらに、Web3のサービスでは、暗号資産の割り当てがオープン化されている。

「多くのサービスで暗号資産の配分計画が発表されています。それを見ると、設立者の割合が少なくて、コミュニティに還元するようなロードマップが引かれているものが多いので、起業することに旨味を感じないという感想を持つ人もいるかもしれません。逆に言えば、それくらいコミュニティに還元するようなプロジェクトでないと、人が集まってこないとも言えます。これまでとは人々の意識が一変したのが、面白いところだと思います」

(提供:adobe stock)

ただ面白いから使うのではなく、「コミュニティに入ったらインセンティブも得られる可能性があるから応援しよう」そんな行動原理が生まれてくるのかもしれない。さらにコミュニティに貢献できる実感も得やすいという。

「これまで事業に初期段階から投資できるのは一部の投資家だけだったかもしれませんが、一般の人でも暗号資産を買って参入することができます。さらに、そのコミュニティ内でのアクティブ度や頑張りが評価されるので、自分の頑張りを評価してもらっている実感が嬉しいですね」

生き方の選択肢を広げるテクノロジー

ユーザーとしてサービスに関わることが、お金を得ることにもつながる。それは、自由な生き方を後押しする可能性があると藤本さんは話す。

「世界中にある自分の好きなプロジェクトを応援して、その収益を得られる。そんな世界が実現したら、生まれた国や地域に縛られない生き方にもつながると思います」

実際に、好きなことに関わりながらインセンティブが得られるサービスは増えており「Play to earn」(〇〇〇して稼ぐ)と呼ばれる概念が生まれている。ゲームをすると暗号資産やNFTを得ることができ、現実世界のお金に変えることも可能だ。これらのPlay to earnを実現しているのが「GameFi(ゲームファイ)」と呼ばれるシステムだ。コロナ禍で仕事がなくなった人の代替手段になった事例に藤本さんも注目している。

「ベトナム発のAxie Infinity(アクシーインフィニティ)というゲームで遊ぶと、ゲーム内通貨が得られるのですが、それを暗号資産に変えられ、さらに法定通貨に交換することができるのです。コロナ禍で仕事を失い困窮していた人たちが、ゲームをすることで普段と同等のお金を稼いで生活をしのいだという話はすごくイノベーティブです」

さらに、ゲームを中心としたエコシステムが育つ面白さにも言及する。

「ゲームを始めるときに、キャラクターのNFTを購入しなければならなかったのですが、その価格が月給相当ほどの高額で、お金がない人はゲームを始めることができない状況でしたが、NFTを貸すギルドが立ち上がったのです。キャラクターを買えない人に貸して、売上をシェアするようなプロジェクトも生まれました。様々なコミュニティが互いに補いながらエコシステムが成長する面白さがあります」

(提供:adobe stock)

ゲームで遊ぶことなど、従来の消費活動に付加価値がつき、お金を得る選択肢が広がったことに藤本さんは可能性を見出している。

「どんな働き方をするか、選ぶのはその人自身です。例えば、今まで工場で働いていた人が、そのまま工場で働き続けてもいいですし、メタバース上で働いたり、ゲームで遊ぶことを生業にしてもいい。先ほどのゲームでNFTを貸し出す仕組みも『誰かを働かせる仕組みだ』という批判も一定あります。それでも、テクノロジーによって生き方、暮らし方が広がっていることに価値があると思います」

一方で、自身のデータを自分で取り扱うWeb3の世界では、サービスを能動的に理解することや、個人情報を個人で管理することが求められる。例えば、従来のインターネットサービスでは、個人情報はサービス提供者が保持しており、パスワードを忘れても再発行することができた。ある意味、サービス運営者に個人情報を管理してもらっていたとも言える。しかし、Web3のサービスでは情報を管理するのは自分なので、所有者であることを証明する秘密鍵など、自分の資産を管理する重要な情報を忘れてしまったら、誰にも助けてもらえない。その他にも、Web3に対する懸念点はいくつかあり、そのリスクやコストを理解した上で利用することが必要になる。

(提供:adobe stock)

お金持ちより、信用持ちに

Web3という概念により、旧来の「働く」とは違った、自分の行動により価値を得るという選択肢が広がっている。さらに先の未来では、お金を払うのではなく、自分の行動の対価として欲しいものを手に入れる未来が訪れるのかもしれない。

「20年後の未来では、今と同じように、企業に就職して、お給料をもらって、その中から好きなものを買う生活をしている人もたくさんいると思います。一方で、違う方法で欲しいものを手にする人も増えると考えています。それは、社会的に価値のある行動をした対価として、欲しいものを手に入れる世界です。社会的行動の履歴がブロックチェーンに記録され、第三者にも可視化される。その度合いに応じて社会信用ポイントのようなものが計算されて、スポンサー企業の商品やサービスを提供してもらえる世界です。

今までは、お金をたくさん払えば素敵なサービスが受けられて、お金を持っていることが有利であるような感じがする社会だったと思うのですが、これからはどんなにお金を積んでも社会信用ポイントが高い人の方が優先される場面も増えて来ます。社会的に意義のある行動をしている人が、今よりも報われる社会になると考えています。」

社会的に意義のある行動をすることにインセンティブが働き、さらに意義のある行動をする好循環が生まれるということだ。中国で普及している「信用スコア」と近い概念だが、ブロックチェーンを用いることがポイントだという。

「信用スコアと聞くと、嫌悪感を持つ方も一定数いるかと思います。ただ、一つの違いとして、ブロックチェーンを用いることで、スコアリングが適正かどうかを第三者が検証できることです。例えば、一つの国や企業がクローズドなデータでスコアリングしていると、不正や癒着があっても外部から検証するのは難しい。ブロックチェーンを用いると、情報をオープンにできるので不正が発生しづらい状況を技術的に作っています。これを『Don't be evil(悪いことをしない)』から、『Can't be evil(悪いことができない)』と例えられる事がよくあります。」

(提供:adobe stock)

中国では2018年に、車メーカーが脱炭素のプロジェクトで、近い取り組みを行っていた。ガソリン車の代わりに電気自動車を運転すると、ガソリン車と比べてどれだけ二酸化炭素排出量が抑えられたかがブロックチェーン上に記録される。車両の運転実績と炭素削減量のデータを元に、それぞれのドライバーに「カーボンクレジット(炭素排出量削減証明)」に応じた暗号資産が、報酬として提供される。獲得した暗号資産は対象商品やサービスと交換することができる。藤本さんの描く世界は、技術的には実現可能な世界とも言える。

「私もビットコインの寄付プラットフォームの運営や、NFTチャリティーなどやってきましたが、将来的には寄付してくれた人に、信用ポイントを付与するようなことができたらと考えています。Web3はインセンティブ革命だといいましたが、人々がより平等に生きられる社会につながると考えています」

Web3の世界が広がることで、今ある仕事だけでなく、それぞれの人が自分らしいやり方で社会に価値を発揮し、金銭的報酬をえることができる。さらには、金銭に変換することなく、価値を交換する世界が訪れるのかもしれない。

藤本真衣(ふじもと・まい)
藤本真衣(ふじもと・まい)
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。 自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントであるNon Fungible Tokyoを毎年主催している他、2020年以降は、エンジェル投資家として、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinityを開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、STEPN等に出資している。2022年からはスイスに拠点を移し、Ryodan Systems AGを共同創業。EthereumのLayer2プロジェクトに力を入れている。
編集・文:株式会社ドットライフ

Special Issue Vol.07