目指すは「お節介なお母さん」ーー18歳が挑む、格差解消

2021.07.20.Tue

個人と社会が共創する未来

目指すは「お節介なお母さん」ーー18歳が挑む、格差解消

1990年代中盤以降に生まれた「Z世代」。そのひとり、高木俊輔さん(18)はN高校の起業部に在籍していた2020年10月、行政の支援制度を知らないがゆえに生じる「格差」をなくすことを目的とした通信会社を創業した。今は災害の被災者にも、利用できる支援内容をわかりやすく伝えている。公共性の高い事業だが、思いついたきっかけは何だったのか、これからどんな社会を創りたいのか。お話をうかがった。(取材・文/FQ編集部 岩田庄平)

幼少期の読書が原動力

「戻れる意思決定であれば、いくら失敗してもあんまり関係ないと思っています」

こう話す高木さん。昨秋、個人それぞれに適した行政サービスを、チャット機能を通じて伝える株式会社「Civichat」を創業した。行政の子育て支援や補助金制度など、情報を知っている人が得をして、知らない人が損をするーーそうした格差を無くしたいと思ったからだ。

行政の方とのミーティングの様子(高木さん提供)

行政の方とのミーティングの様子(高木さん提供)

18歳という若さで起業できたのは、幼少期から古典など様々な本を読んできた"基礎"があったからだという。

「小学校の頃からジャンルを問わずたくさんの本を読んでいて、図書館では毎回貸出上限まで借りていましたね。そこで、物事を俯瞰して考える構造主義という概念を知りました。複数のジャンルから同じ構造を見出して抽象的に考えることが得意でした」

また、SNSやスマホが当たり前のZ世代ということもあり、身近だったインターネットで新しい情報を収集し、Twitterでさまざまな価値観を持つ人と関わることも好きだった。

高校入学1カ月で転校

その高木さんに大きな変化があったのが高校1年生の時だ。生まれ育った大阪から、サッカーで香川県の高校に推薦入学したものの、校風が合わずにわずか1カ月で転校する決断をした。インターネットで起業家や同世代で活躍している人らと触れ合ううちに、KADOKAWA・ドワンゴが運営するインターネットの高校、N高等学校の存在を知る。親に学費を出してもらうのは後ろめたく、30万円をクラウドファンディングで集めた。

「香川の高校に入学してすぐ辞めたいとか、クラウドファンディングをしたいとか言っていたので、先生からすれば面倒くさい子どもだったと思います。でも、新しい学校に転入することに怖さはなく、楽しみだけでした」

2018年7月、N高に入学。勉強をしながらIT関連のベンチャー企業でフリーランスとして働く機会を得た。そこで自分にあった奨学金制度を探すことができる、便利なwebサービスの構築に携わった。

世の中には国や大学、NPOの奨学金制度があるが、どれが自分に最適かを見つけ出すのはひと苦労。情報のフォーマットもばらばらで整理されていない。でもテクノロジーを駆使すれば、自分の希望と合うものが簡単に見つけられるのではないか――そんな思いで作り上げた。

その後、奨学金制度のみならず、行政の支援やサービスも最適なものが選べるようになれば世の中がもっと便利になるのではと考えた。例えば、妊娠・出産に関するサポートや介護の助成などだ。格差をなくす目的で2020年10月、Civichatを創業した。

使える制度や補助金が表示

具体的にどんなサービスなのだろうか。Civichatは既に公開されている公共制度から、自分に最適なものを自動で案内してくれる。操作も簡単で、ユーザーはLINEやTwitter上で設問に答えるだけで、自分が使える制度や補助金が表示され、申請も簡単にできる。

Civichatのサービスの様子

Civichatのサービスの様子

「検索エンジンって能動的な人が有利になる仕組みだと思っています。自分の知らないことって、当たり前ですけど検索できないじゃないですか。例えば、留学だって色んな制度を使えば、無料で行くこともできるのに、それを知らない人は『留学無料』と入力することができない。このように、公的制度を知らなかったからお金がもらえないといった機会損失を減らして、選択格差をなくしたいんです」

Civichat独自のアルゴリズムを利用したものとして、熊本地震の被災者が支援制度を探すサービスもある。被災者はSNS上で「被災明書は持っていますか」「家族構成は」といった設問に答えていくことで、およそ100ある支援制度の中から、使える制度や補助金が表示される。

さらに現在は、より幅広い地域のユーザーに対応できるように効率化を進めている。
これまでは、個別の自治体にサービス内容を収集する必要があったが、そうした行政データを集めた民間企業と提携。情報量を増やし、各地のユーザーが利用しやすいようにしている。

先日の熱海市などの豪雨に対して、先んじて「令和3年7月豪雨 災害緊急支援チャットサービス」を開始できた。熊本地震の取り組みと同じく、災害後に自治体が整備する公共制度から、チャットを通して利用できるものを教えてくれるという。

そもそも、あまり知られていない行政の支援制度を、市民にしっかりと知らせる通知機能の強化にも取り組んでいる。

「Civichatのおかげで、全く知らなかった役所の制度を知り、申請できたというように、本当の意味で『お節介なお母さん』のようなサービスにしたいと思っています」

「政治の見える化」も目指す

さらに高木さんは、Civichatは政治の見える化をすることができ、ユーザーが政治に興味を持つきっかけにもなるという。

「スーパーに、生産者が表示されている野菜が売られているじゃないですか。だから、消費者は安心して購入している。商品から生産者に目がいっていると思います。同じようにCivichatで優れた支援制度を知って、そこから制度を作った政治家に興味を持ってもらうという流れを作れたら、かっこいいなと思っています」

「例えば、渋谷区は子どもが生まれるとお祝いに乳児の衣類やオモチャなどがもらえるんです。これって区独自の取り組みなんですけど、ずっと住んでいる区民はそれが特別なことって気づかない。そんな時にCivichatを通じて、行政からお祝いがもらえるのは、○○区長や△△議員が渋谷区を子育てしやすい街にしたいと思っているからだと知らせることで、政治に興味を持ってもらうみたいな形にしたいわけです」

今の資本主義的な構造を打破したい

世間一般の価値観は全く気にならない。個人としてのポジションがなく、変わりがいくらでもいるような存在になることの方がよっぽどリスクだと語る高木さん。10年後、どんな社会にしたいのか。

(高木さん提供)

(高木さん提供)

「いい車を買う人より、寄付している人のほうがかっこいいよねみたいな、『美意識の変化』を起こさせたいですね。今流行っているサービスは、人間の欲求に基づいて作られていると思っています。欲求はお金になるので、資本主義という枠組みでは正しいと思いますが、この構造だと欲求を煽ってしまう。最近の例としては、インスタグラムで他人と比較して自分を犠牲にしたり、誤った情報がネットで拡散され差別や偏見が生まれたりしてしまう。だから、新しいルールや文化を作っていくことで、今の資本主義の構造を打破していきたいです」

高木さんの考える美意識や価値観の変化は、すでに国内でも少しずつ起き始めている。2020年3月には、東京都の新型コロナ対策のサイトがオープンデータで誰でも活用できる形で公開された。

「情報を公開するオープンデータって、アメリカのスタートアップや大企業では見られることもあるけど、日本の行政では画期的なこと。情報を隠すのではなく公開することで、年齢や地位問わず、『こうしたい』という思いを持った人たちの手によって活用され、発展していくという流れをCivichatでも作っていきたいですね」

Z世代へのメッセージ

最後に高木さんに、同じZ世代に伝えたいことを聞いた。

「Z世代と他の世代の違いは、気づいたときからスマートフォンが当たり前にあること以外は変わらないと思っています。だけどこの違いがあるから、個人の考えを簡単に発信でき、自分だけのポジションを取ることができる。そんな環境にいるのに、行動を起こさないってすごい損失じゃないですか。みんなが自分だけのポジションを取ることができれば、もっと面白くなるんじゃないかと確信しています。なので、ポジションを取りましょう!(笑)」

高木俊輔さんプロフィール
2002年、大阪府生まれ。角川ドワンゴ学園N高等学校の在学中に「起業部」の仕組みを使い、2020年10月に株式会社Civichatを創業。Code for Japanの主催するハッカソン:CCCu22で優勝、その後にアジア最大のシビックテックカンファレンス:g0v Sumit 2020に登壇した。自分に合った公共制度がわかるCivichatで熊本市との実証実験を行う、卒業後に資金調達をし現在に至る。
https://scrapbox.io/tkgshn/(外部リンク)https://twitter.com/tkgshn(外部リンク)

Special Issue Vol.06