ベトナムから世界を健康にする

2020.12.24.Thu

未来の選択肢を広げるために

ベトナムから世界を健康にする

2020年10月にForbes JAPANが発表した「30 UNDER 30 JAPAN 2020」の中から、活躍する人を育て、環境や社会に働きかける若きリーダーにインタビューし、その原動力を紐解く。第2回はWELY CEO 松岡奈々さん(23)だ。

20歳で起業し、ベトナムで食育事業を手がける。子どもの健康管理や、保育士の業務を改善させる新しいICTサービスも来年スタートする予定だ。高校時代にビジネスコンクールで準グランプリを受賞するなど輝かしい実績を誇るが、「もともと引っ込み思案な性格」だったという。松岡さんが変わったきっかけは何だったのか、これからどんな世界を創ろうとしているのか。お話をうかがった。(取材・文/FQ編集部)

ベトナムを拠点にスタート

ベトナム中部にある商業都市ダナン。人口は113万人で、高層ビルや歴史的建造物が立ち並ぶ。松岡さんは「発展途上国の栄養問題を解決したい」という目標を持っていて、2018年4月に活動拠点を東京からダナンに移し、WELYの事業を本格スタートさせた。

「高校生の時からお世話になっている経営者の方がベトナムで事業をやられていて、2017年に私が起業したときに初めて行ってみました。ダナンは人と人との距離が近くて、現地の人とすぐに打ち解けられる。街に活気があって農業も盛んだったので、ここでやろうと決めました」

ダナン市の街並み(写真:アフロ)

ダナン市の街並み(写真:アフロ)

食育カードゲームが人気に

ベトナムの都市部は経済発展する一方で、子どもの肥満や栄養過多が社会問題化していた。親が「太っている子どもは健康、痩せている子は不健康」という誤った認識をもっていたことが一因だった。

松岡さんは「子どもと親に栄養バランスの知識を身に付けてもらうことが重要」と考え、食育カードゲーム『MoGuMoGu』を開発した。従来の座学で学ぶタイプではなく、遊びながら能動的に栄養について学ぶことができる。デザインは美大出身でWELY COOの小笠原正観氏が担当した。

食育カードゲーム「MoGuMoGu」。カード1枚につき食材が1つ描いてあり、赤や黄色、緑などの印で栄養素が理解できる

食育カードゲーム「MoGuMoGu」。カード1枚につき食材が1つ描いてあり、赤や黄色、緑などの印で栄養素が理解できる

保育施設で松岡さんやスタッフが『MoGuMoGu』を披露すると、親子で楽しみながら学んでくれた。保育士からも好評で、その後口コミが広まり、病院でも看護師らが『MoGuMoGu』で学ぶようになった。

子どもにも人気

子どもにも人気

病院で看護師に栄養指導をする松岡さんとスタッフ

病院で看護師に栄養指導をする松岡さんとスタッフ

新サービスを開発中

現在は、保育施設向けの新しいICTサービス「MoGuCare」の開発をスタッフと共に進めている。

園児の身長、体重、食事、睡眠などの日々の記録を保育士が電子入力して可視化。園児の健康管理がぐんとしやすくなるのが特徴だ。また、これまで園児の記録は保育士が紙に記入して保管していたが、電子化によって保育士の負担軽減にもなる。

「ベトナムで教育事業に携わる中で、保育士と保護者のコミュニケーションに課題を感じていました。保育士は業務量が多いので、離職率も高い。『MoGuCare』はその解決策になると思っています。現在は新型コロナの影響で日本にいますが、来年2月からはダナンに戻り、これを広めていく予定です」

内気だった中学時代、高校で変化

異国の地でチャレンジを続ける松岡さん。子どものころから積極的で、海外にも興味をもっていたのかと思いきや、中学時代は「教室の隅にいる内向的な子」だったという。

高校は、地元から少し離れたところに行きたいという思いから、京都府立桂高校の園芸ビジネス科を選んだ

地元の伝統野菜を研究していた1年生のとき、いくら栽培技術を向上させて美味しいものを作っても、しっかり流通させなければ売れないし、生産者も減ってしまうと感じた。ビジネスコンクールに参加すれば「売れる仕組みを学べるかも」と思い、いくつか応募することにした。

はじめのうちは人前に出てプレゼンをするよりも、資料作成といった裏方に徹していたが、その後研究室のリーダーになり、少しずつチームをまとめたり、自ら先頭に立って発表したりするようになった。担当教諭も優しく後押ししてくれた。

「そういう環境になって、自分が少しずつ変わっていった感じですね。大会で結果も出るようになり、何事もやればできるんだと思えるようになりました」

コンクールでのプレゼン風景

コンクールでのプレゼン風景(撮影:高校生ビジネスプラングランプリ運営事務局)

準グランプリを獲得

高校時代の代表的な実績が、日本政策金融公庫主催の高校生向けビジネスコンクールでの準グランプリだろう。1年生のときに発表した「新たな京ブランドの確立と機能性食材の可能性について」と題したハスの抗酸化作用に着目したプランは、1500件の応募の中で見事2位に輝いた。

翌年には「"TATAMI"を世界共通語へ!」と題し、食用イグサの抗菌作用を活用してカンボジアの食中毒や貧困問題を解決するプランで応募。2年連続でファイナリストに選出された。

「第1回 高校生ビジネスプラン・グランプリ」で準グランプリに。右端が松岡さん(2014年1月)

「第1回 高校生ビジネスプラン・グランプリ」で準グランプリに。右端が松岡さん(2014年1月、撮影:高校生ビジネスプラングランプリ運営事務局)

その最終審査会では、ユーグレナの創業社長である出雲充氏の特別講演があった。「農業やバイオテクノロジーは人々を救い世界を変える」という話に衝撃を受け、「農業や食のビジネスで世界を変えるために、私も起業したい」と決意を固めた。

まさかの大学不合格

起業するには、東京の大学で農業と経済を勉強したほうがいいと考え、国立大学を受験した。しかし、結果はまさかの不合格だった。

「そのときはすごくショックでした。先生や周囲からは合格間違いなしと言われたので」

滑り止めは受けていなかった。たまたまネット広告で、大前研一さんの通信制「ビジネス・ブレークスルー大学」を見て入学を決めた。

入学後、知人から「デザインの力で社会の問題を解決したいと考えている面白い人がいる」と紹介されたのが、多摩美術大学の学生だった小笠原正観さんだった。それぞれの領域で社会の問題を解決したいという共通点から、2人は意気投合。世界中の人々を健康にすることを目指し、合同会社WELLNESONE JAPAN(現WELY)を創業した。2017年5月9日、松岡さんの20歳の誕生日に合わせた船出だった。

「MoGuMoGu」でベトナムのテレビ局のインタビューを受ける松岡さん

「MoGuMoGu」でベトナムのテレビ局のインタビューを受ける松岡さん

10年後、20年後の目標

大学生であり、起業家でもある松岡さん。10年後20年後の目標を聞いてみた。
「会社の目標と似ているのですが、世界を健康にしていくことです。それにこだわる理由としては、本来であれば防げたはずの病気が原因で、未来の選択肢が狭まってしまうのが悔しいと感じるからです。じつは1年半前に父が病気になって、より強く思うようになりました。人々を健康にすることで、未来の可能性を、人類の可能性を最大限に広げられると思っています。ちょっと大きいですけど」

さらに2040年の日本はどうなっているかも尋ねた。
「20年後は、これまではバラバラに記録したり、保管されたりしている医療データや健康記録が1つのものに集約されて、個人に合った医療や薬のサービスを提供するっていうことが、日本では当たり前になっていると思います。より健康になるので、みんなやりたいことができる。今は人生80年ですが、将来は100年になる。生きるために働くんじゃなくて、自分がしたいからこれをするっていうように変わっていくと思います。好きなことがよりしやすくなる世の中に、なるんじゃないでしょうか」

松岡奈々さん

※クレジットのない写真はすべて「提供:松岡奈々」

松岡奈々さんプロフィール
1997年、鹿児島県生まれ。高校生の時に農業の可能性に興味を持ち始め、2017年WELLNESONE JAPAN(現WELY)を設立。現在は同社とMoGuMoGuの2社を経営。ベトナムを拠点とした食育や栄養改善事業に取り組む。現在、大学4年生。高校1年生のとき、高校生ビジネスプラン・グランプリで準グランプリを獲得。2017年、「孫正義育英財団」の第1期生に選ばれる
Forbes JAPAN「30 UNDER 30 JAPAN 2020」
30 UNDER 30 JAPAN 2020では、フォーブス ジャパン編集部と各界を代表するアドバイザーがビジネス、アート、テクノロジー、教育、メディア、音楽、サイエンス、スポーツ、フード、社会起業家などのカテゴリーから次世代を担う若者を選出。
特集サイト: https://forbesjapan.com/30under30/

Special Issue Vol.04