多様性を活かせるリーダーを育てる

2020.12.24.Thu

未来の選択肢を広げるために

多様性を活かせるリーダーを育てる

ライフスタイルが大きく変化する中で、未来を創るための取り組みは着実に続いている。今回Future Questionsが着目するのは20代の起業家たち。2020年10月にForbes JAPANが発表した「30 UNDER 30 JAPAN 2020」の中から、活躍する人を育て、環境や社会に働きかける若きリーダーにインタビューし、その原動力を紐解く。

第1回は教育起業家の小林亮介さん(29)だ。2020年12月、東京・下北沢に居住型の教育施設「SHIMOKITA COLLEGE(シモキタ カレッジ)」を開業した。小林さんは留学したハーバード大学での寮生活をもとに、日本の若者も様々な人たちと刺激し合い、力を伸ばせる環境を作りたいと、19歳で「HLAB(エイチラボ)」を創業した。

サマースクールの開催など10年間実績を積み重ね、今回の「SHIMOKITA COLLEGE」に。小林さんが目指す先はどのような世界なのか、日本をどのように変えていきたいか。語ってもらった。(取材・文/FQ編集部、撮影/倉増崇史)

生涯学び続けるコミュニティを作りたい

「SHIMOKITA COLLEGE」は下北沢駅から徒歩3分という好立地の5階建てで、定員は約130名。大学生や若い社会人が主な対象の2年制プログラムが2021年4月から、高校生が対象のプログラムが9月から用意される。正式な開校は2021年4月だが、現在はトライアル入居という形で、18歳から31歳までの男女34人が生活している。

SHIMOKITA COLLEGE。下北沢駅と世田谷代田駅の間に位置している

SHIMOKITA COLLEGE。下北沢駅と世田谷代田駅の間に位置している

建物内には各人が過ごす個室のほか、食堂やイベントができるパブリックスペース、学習をサポートするライブラリー、暖炉を囲む語らいの場、屋上菜園などがある。

「一般的な大学の寮との違いは、居住者の動線を意識している点です。共有スペースを各フロアの入口に配置しています。自分の部屋に行く前にそこを必ず通るので、入居者同士の会話や交流が自然と生まれるようになっています」と小林さん。

実際に筆者も見学させてもらったが、こうしたスペースがあると、雑談から真剣な悩みまで、自然な形で相談しやすいだろう。大学生が社会人に、今後入居を予定している高校生が大学生に、気軽に進路やビジネスの相談ができる。

多様なバッググラウンド、価値観を持った人々が交流することによって、自身の可能性を広げ、未来を創る。「住む」と「学ぶ」が一体となった新しい教育の場とも言える。

2階のパブリックスペース。居室に行く前にここを通ることでコミュニケーションが生まれる

2階のパブリックスペース。居室に行く前にここを通ることでコミュニケーションが生まれる

教育プログラムとしては、多種のワークショップの開催や、外部ゲストを招いてのフォーラム、互いの専門領域を教え合う「リベラルアーツ・セミナー」などを予定している。

内部の様子。左上から時計回りに、居室前の暖炉スペース、5階キッチンとテラス、居室、一階の食堂

内部の様子。左上から時計回りに、居室前の暖炉スペース、5階キッチンとテラス、居室、一階の食堂

衝撃を受けたハーバード大の寮生活

小林さんが「SHIMOKITA COLLEGE」を建設するうえで原点となったのは、11年前に留学したハーバード大学での寮生活にあるという。同大学は「多様な住環境の提供」を大学のミッションに掲げるほど寮での学びを重視しており、在学中にビル・ゲイツはMicrosoftを、マーク・ザッカーバーグはFacebookを立ち上げたのは有名な話だ。

小林亮介さん

そんな国籍、年齢を問わず、多種多様な人が集う寮生活を通して、「日本は同じ学校、学部、会社といった狭い範囲で繋がることが多い。縦割りが人生の早い段階から生まれ、多様な価値観をもてない。日本にも自然と交流や議論が生まれる場が必要ではないか」と考えた。

小林さんは、多様性の中で学び続けることができるコミュニティを日本で作ることを決め、ハーバード大や一橋大、東大を中心とした日米の大学生と共同で2011年に教育ベンチャー「HLAB」を起業した。

2014年、ハーバード大学の卒業式の様子(写真提供:HLAB)

2014年、ハーバード大学の卒業式の様子(写真提供:HLAB)

すぐに取り組んだもののひとつが、カレッジでの寮生活を再現した短期のサマースクールだ。

日本の大学だけでなく、ハーバードやオックスフォードなど、世界の名門大学の学生と日本の高校生が夏休みの1週間をともに過ごし、世界をけん引するスピーカーの講演やワークショップなどが行われる。参加者はこれまでにない刺激を受け、多様な価値観を知り、その後の人生に生かすことができる。

サマースクールは現在、長野県や宮城県の教育委員会とも協力し、全国4カ所で実施している。卒業生は10年間で約3000名にのぼる。海外の大学に進学して研究者になったり、外資系の企業で働いたりするなど、各方面で活躍中だ。

サマースクールの様子。国籍や文化の壁を超えた議論が行われている(写真提供:HLAB)

サマースクールの様子。国籍や文化の壁を超えた議論が行われている(写真提供:HLAB)

下北沢は多様性のある街

そんな小林さんが満を持して、今冬、居住型の教育施設「SHIMOKITA COLLEGE」を小田急電鉄、UDSとの三社協業で開業した。下北沢を選んだ理由についてこう語った。

「下北沢は昔からの学生の町です。一杯100円でお酒が飲めるような店があり、おしゃれなレストランがあり、アンダーグラウンドなバーに、アートや演劇といった文化もあります。多様性のある街なので、私たちの方向性とマッチしました。パートナーに出会えたことも大きかったです。小田急電鉄さんがこのエリア一帯を『下北線路街』として開発を進めていました。沿線人口を増やす上でも、若い人たちが地域に愛着を持てる場があれば良いのではと、今回の施設の提案をUDSさんと一緒させて頂きました」

小林亮介さん

寮の居住者は、地域や企業といった外部とも関わりをもち、ゆくゆくは街の活性化に貢献していければと考えている。

「SHIMOKITA COLLEGE」 で2年間の寮生活を経験した人たちには、「世代の違いを超えて共創できるようになってほしい」そうだ。

「ここで、様々な人と信頼関係を作る作法を学ぶことで、違いを乗り越えて学び合うスキル、多様性をチームのアウトプットに変えていいものを作るスキルが身につくと思います。卒業後はリーダーシップを発揮し、目的意識を持って、国内の問題はもちろん、国境を越えたチームで世界の問題に取り組んでいてくれたら嬉しいです」

SHIMOKITA COLLEGE

10年を迎えるHLABの価値とこれから

HLABは今年で設立10年を迎える。今後どんなことに取り組んでいきたいのか。

「私たちの使命は、学生の日々の生活やライフスタイルを編集してあげることだと思っています。学生は大学での授業や勉強の他にも、バイトやインターン、さらに内省を深めることや、卒業後のキャリアプランを考えるなど、やらなくてはいけないことが色々あります。海外の大学では『アドバイジング』と呼ばれますが、大学生活の4年間が有意義なものになるように、時間や経験を編集してあげることが重要だし、そのサポートを全力でしたいと考えています。
今回のカレッジでいうと、他の大学の参考になって真似してもらえると嬉しいです。大学の寮はスペースに余裕があるし、設計もある程度自由にできる。我々の仕組みが参考になるといいし、私たちも広めていきたいですね」

小林亮介さん

最後に20年後の日本の未来について聞いた。

「日本は人種や言語など、表面的な多様性を気にする国だと思うんですよ。でも、本質的な違いはもっと身近にある。多様性の理解を実現することは簡単ではないですが、違いが学びに変わって協力し合い、それが1つの大きな力になって進んでいくような国であって欲しいと思っています。そして山積するさまざまな問題を会社や民間や国といった枠組みを超えたプロジェクトで解決していける世の中になっているといいですね。その時のリーダーに、HLABの卒業生がいると嬉しいです」

小林亮介さん
小林亮介さんプロフィール
1991年、東京生まれ。大学の経営と教育環境の設計に関心を持ち、大学在学中の2011年にHLABを創設。リベラルアーツ・サマースクールや、奨学金、寄宿型の教育機関「カレッジ」などの教育事業を運営。ハーバード大学卒、現在はスタンフォード大学院(MBA/教育修士)で同分野を研究。2021年4月小田急電鉄とUDSと三社で「SHIMOKITA COLLEGE」を正式開校予定(https://h-lab.co/residential-college/shimokitazawa/)。2019年、米フォーブス誌が選ぶ「アジアの30歳未満の30人」に選出。
Forbes JAPAN「30 UNDER 30 JAPAN 2020」
30 UNDER 30 JAPAN 2020では、フォーブス ジャパン編集部と各界を代表するアドバイザーがビジネス、アート、テクノロジー、教育、メディア、音楽、サイエンス、スポーツ、フード、社会起業家などのカテゴリーから次世代を担う若者を選出。
特集サイト: https://forbesjapan.com/30under30/

Special Issue Vol.04